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映画と車が紡ぐ世界chapter77

セブン ~ マツダ RX-7 FD3S型 スピリットR 2002年式 ~
Seven ~ Mazda RX-7 FD3S SpiritR 2002 ~

遠い昔 カノジョが 教えてくれた 伝説のアンパン
メイカセブンのそれは 
日本一の薄皮を追求した3mmのパン生地に包まれ 
もはや あんこ玉だ

20年ぶりに 東京に戻ってきた僕は
大脳を起動するまでもなく 条件反射のように 
城東地区へ向かった
新大橋通にRX-7を止めると 記憶の中に存在した商店街が蘇った

「2年前 あなたと出会った4月4日は 
 アンパン記念日なの 
 だから 4月4日は これからもずっと アンパンが食べたいな・・・」
20年前のカノジョが 助手席に フワリと現れて呟いた

「わかった!今日はこの店のアンパンを全部買い占めよう」・・・強欲
長髪だった 当時の僕が右側から現れた

「それは・・・他の人に迷惑だから・・・」
チューリップの様な微笑みを浮かべた カノジョの顔から
花弁が一枚落ちたような気がした

Shouuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu
長髪の僕は 頭から蒸気を噴き出していた

「君が 好きだと言うから 叶えてやろうとしたのに!」・・・憤怒
カノジョの顔から またひとつ花弁がポロリと落ちた・・・

現実世界に戻った僕は メイカセブンの前に立っていた

「アイツといるときの君は なんで 僕といるときより
 楽しそうなんだ!」・・・嫉妬
再び現れた 20代の僕は カノジョを詰問していた

「あなたは 変わってしまったのね・・・」
ツウと現れた カノジョの言葉を 理解できない当時の僕・・・
「確かに変わったさ! それは 君を幸せにしたいからだ!
 仕事の虫になった!
 他人を押しのける道を選んだ!
 出世してお金持ちになるんだ! 
 誰も僕に立ち向かえる奴はいない 君は何が不満なんだ」・・・傲慢
うつむくカノジョの顔から ひらり 花弁が落ちた

そのとき・・・
背後から やまびこのような 声が響く・・・
「君は 転勤だ・・・」
僕が ラインから外された瞬間だった

その日 僕は 嫌がるカノジョを 激しく抱きしめた・・・色欲
カノジョの花弁は すべて落ちた

「さようなら・・・」
言葉の意味を 考える余裕もなく
カノジョにプレゼントした ネックレスを引きちぎった・・・窃盗
地面に落ちた ペンダントヘッドのクロスだけを拾うと
カノジョは 僕の前から 消えた

誰もいない部屋は シーンという音が充満していた  
耳をふさいでも 抑えることのできない 静寂の音が 僕を苦しめた
次の日 僕はメイカセブンの薄皮アンパンを買い占め 
魔に憑かれたように食べた・・・暴飲

そして 生きることの無意味を感じ ただ天井を見つめた・・・怠惰

心の崩壊が止まらぬまま 僕は勤務地に旅立った
その街は 質素な田舎町だったが
20年という歳月と 純粋な町の人たちとの触れ合いが 
僕の心を再起動させた

自分を取り戻したと実感したとき 本社への復帰連絡が入った

止まっていた僕の中の時計が動き出した
カノジョは どうしているのだろう・・・
帰路の旅路は カノジョへの贖罪でいっぱいだった

記憶の波に押されるように 
メイカセブンに入った 僕の目の前に 
当時と変わらない 薄皮アンパンがあった

RX-7に戻った僕は 味の記憶を呼び覚まそうと 袋を開ける
薄皮アンパンが4つ 甘い香りが車内をめぐる
ロータリーエンジンが 
僕の鼓動と共鳴するかのように 喜びのsoundを奏でた

!!

その時 目の前を行く 一人の女の子に目が留まった
セミロングのストレートヘアーが揺れる 
16歳くらいだろうか 付き合い始めた頃の カノジョに瓜二つだった

Hyuuuuuuuuuuuuuuuuuuuun
RX-7のエンジンが停止する 
「あの子を追えっていうんだな・・・」
僕は ボディをコツリと叩くと 再び商店街に向かった

女の子は メイカセブンに入る
「Keiちゃん ごめんね 今日は売り切れなのよ」
店主が答えている
「えー 残念!! 母さんが 今日(4月4日)はアンパン記念日だから 
 アンパンが食べたいって言うから来たんだけど・・・」 

Keiと呼ばれた女の子の胸は あのクロスが煌めいていた

♪Elliott Yamin - Wait for you♪

「このパンを 持っていきなさい」

「いいんですか?」
と 笑顔で答える女の子に 笑顔を返す
「それじゃ 遠慮なく いただきます
 そうだ! すぐ近くなので お茶をごちそうさせてください 
 母も喜びます 」
チューリップのような笑顔だった

「いいえ 君の その笑顔で 十分です」

デイヴィッド・ミルズ刑事(Brad Pitt)には申し訳ないけど
僕は 再び 春を感じることができた


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