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映画と車が紡ぐ世界chapter127

スタートレック トヨタ セリカGT-Four ST185系  1992年式
Star Trek: The Motion Picture Toyota Celica GT-Four ST185 1992


突然の人事異動・・・
自分には全く無縁の話だと思っていた
湾岸にある 大手ディスプレイ会社のデザイン部で
チーフデザイナーとして チームをけん引してきた僕が 
営業部に配属される
それは事実上 解雇通知だ 
この先を見据えた商環境を具現化できるのは 僕しかいないのに・・・

鷲鼻の僕
外観のとおり 鼻っ柱の強い性格が あだになったのだろう
 
「落ち込まないで・・・」

そう励ましてくれた同僚の彼女も
翌日には 電話がつながらなくなった
 
数日後 
久しぶりに鳴った電話が報じたのは
追い打ちをかけるような 母の訃報だった

伊予之二名島が 僕を呼んでいた
 
15年ぶりの島の空気は 母親のぬくもりを彷彿させた
しかし・・・
島の思い出は 靄の中の僕に 
行きかう人は 容赦なく よそ者扱いの険しい視線で攻撃してきた
疎外感・・・ 
孤独感・・・
それは 母の最期に間に合わなかったという
僕の中の 罪悪感が生んだのかもしれない
 
遠い昔・・・
父は瀬戸内の海に出て 帰ってこなかった
最後の身内だった母親も もういない
この地と 僕をつなぐものは 何もない
 だからと言って 
この地球上に僕の居場所があるのかと問われると 
それらしき場所は 思い当たらない
 
誰もいない ただ一人の葬儀を終えた僕は
レンタカーを借りた
父親が眠る海を見渡せる墓地に 母の遺骨を納めるために
 
車は 西に進む

♪ Pet Shop Boys - Go West ♪

トルマ鼻 
ウドノセ鼻 襖鼻・・・
この地は 岬を鼻と呼ぶ
瀬戸内の海を臨む 無数の鼻
 
!!

大自然の中に時折現れる 崩れかけた建物の中に
突然 漆黒のGT-Four が現れた
純白の壁に覆われた佇まい 
竹下通りにあるような 
オープンカフェ形式の喫茶店の前で 一段高くひな壇のような場所に

一目見てわかる
ナンバープレートは外されていたが 
いつでも始動できるように 整備されている

世界ラリー選手権で 
土煙を巻き起こしながら暴れまわった 
リトラクタブルライトの車体は 父の愛車でもあった 
トヨタを代表する名車の一つ・・・セリカは その後 
モデルチェンジをいくつか繰り返したが
現在 トヨタのライナップには存在していない・・・

若者たちの間に セリカの名は受け継がれていない・・・
しかし僕の感性の 原点であるGT-Fourとの出会いは
カーク船長(William  Shatner)が 
ヴィージャーの正体を知ったときのような感覚に似ていた

 レンタカーを駐車場に停めて カフェ『青い雲』に入った  

「いらっしゃいませ」 

可愛らしい丸い鼻に
紺瑠璃色のワンピースを着た女性は 
アッシュブラック色のセミロングの髪を
瀬戸内の風になびかせながら 僕を出迎えた

 僕と同じ香りがする・・・
Mr.スポックに叱られそうな 非論理的な想い

 カノジョが運んできた来たのは
ウィンナコーヒーと 春の風 そして・・・ 

「お帰りなさい・・・」

何を思って カノジョがそう言ったのか 
僕にはわからない でも・・・
外に停まるGT-Fourに向かって 呟いた 

ここに いてもいいんだね・・・と

その時 
GT-Fourの左目が
ウインクしたように見えた

瀬戸内の海を臨む 無数の鼻の一つに
僕の尖った鼻も加わった


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