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映画と車が紡ぐ世界chapter79

ヤングガン ~ ジープ コンパスMK型後期 2015年式 ~
Young Guns ~ Jeep Compass MK 2015 ~

ビリーザキッドが 刑務所を脱走した今日(4月18日)
僕の住む街は 春の嵐が襲っていた

Pika !       Gorogorororororo!

天を切り裂く雷に 唸る風 
俵屋宗達が描いた 神たちの春宴は 
地上の住人である
我々人間への配慮が 欠如している
僕の隣で 毛布にくるまる カノジョは小さく震えていた

3時間前・・・ カノジョからの電話
「一人じゃ怖いから 行ってもいい?」

僕に 拒む理由はなかったが 
少しだけアイツに 後ろめたさを感じた

僕とAiko そしてIchiroの三人は 
大学時代 ウェスタン研究会に所属していた
何をするのも一緒だった 僕らに秘密はなかった・・・はずだった
しかし 木蓮の花が満開の卒業式で 
Ichiroは Aikoに告白した・・・ そして カノジョはそれを受け入れた

その日 僕たちの関係は 
正三角形から 僕だけ離れた 縦長の二等辺三角形になった

Pika ! Gorogorororororo!
今度は かなり近くに落ちたようだ!

「こんな日は 映画でも見て気を紛らわそう」
僕が用意したのは ビリーザキッドのstory  ヤングガン

キッド(Emilio Estevez)の 後半生が描かれたパート2を
ノンストップで見終えたとき 神々の宴は 終わっていた

「風は落ち着いたようだけど もう遅いから送ろう」と言う僕に

「このまま ここに居ちゃだめかな」

!!

「それは・・・」
まだ回答を探している最中の僕に カノジョは畳みかけてきた

「Ichiroとは 別れたの・・・」

「えっ・・・」

そうか・・・ 
いつもIchiroの好みだった
オリエンタル系の香水を付けていたカノジョが
今日は ベルガモットの香りを漂わせていた理由は それだったのか・・・

「彼・・・
 私より仕事に夢中なの 私は 単なる彼のアイテムの一つだったのよ」

あの日以来・・・
僕の心の奥底に封印された 玉手箱が今にも開きそうだった
僕なら 君を大切にしてあげられる・・・
そう・・・悪いのはIchiroだ・・・ カノジョもそれを望んでいる・・・

「・・・ドライブしよう」 
今の自分ができる最も紳士的な振る舞いだった

プレミアムレザーシートに包まれた 
蒼いJeep Compassは Jeepの冠を付けていても 
武骨なイメージは一切ない
静かな車内はラグジュアリーな雰囲気を醸し出している

でも・・・ 今日の僕には 少し静かすぎる・・・
Jeep Compassが 
エンジンを止めた場所は 街を一望できる丘の上公園

ここはどこ?
という疑問符を浮かべる カノジョの瞳に向かって  
街の夜景とは反対に広がる丘を指した

「ここにある花は全てクレマチスなんだ・・・
 クレマチスの花言葉は ”美しい心”
 あの ハートマークが 
 2本の真っ直ぐな花壇で 挟まれているのが見えるかい」

うなづくカノジョ

「この公園の設計は Ichiroなんだ」

えっ・・・ 

「ハートマークを挟んでいる二つの棒は「I」を意味してる
 AikoのAIを「I」と読ませ Ichiroの「I」と共に 
 二つの「I」がハートを挟む 永遠の愛を表現したんだ」

「・・・」

「アイツの両親は離婚してる 貧しくて家庭が崩壊した そう言っていたよ
 だから アイツは 愛を守るために 金が必要だと いつも言ってた
 照れ屋だから そんなこと君には言ったことないだろう・・・」

♪ Shura - Indecision ♪

「どうして あなたは いつもそうなの!」

カノジョは 僕の頬を叩いた 
そして 頬に小さな口づけをした

「ありがとう」
と言ったカノジョの瞳から こぼれた涙には 
ドクターラッペル(クレマチス・大輪系)が映っていた

パットギャレット(Patrick Wayne)には 
なりきれない僕は 
最後までキッドの友人 
ドク・スカーロック(Kiefer Sutherland)でありたいと思った

でも・・・
それは カノジョの涙を理解できない 
臆病な男の言い訳だった

ルーベンス(クレマチス・モンタナ系)が 
そんな僕に甘い香りを送ってくれた


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