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キャプテン・マネージャー婚【1分大学講義】(人類学入門:5)

世界中に広く分布している結婚形式に、母方交叉イトコ婚というものがあるのですがご存知でしょうか。

その母方交叉イトコ婚文化が浸透している社会に生まれた人は、「自分の異性の親の異性の兄弟の子供」と結婚しなければならないのです。


さて、意味が分からないよという方が多いと思いますので、この文化を理解するために少し具体的に考えてみましょう。

皆さんの「自分の異性の親の異性の兄弟の子供」は誰でしょうか?

中々「自分の異性の親の異性の兄弟の子供」を一瞬で把握できる人も少ないと思うので、一度「自分の異性の親の異性の兄弟の子供」が誰なのかを一緒に考えてみましょう。

これがあなたです。

これがあなたの異性の親。

あなたの異性の親の異性の兄弟。

そしてこれが、あなたの異性の親の異性の兄弟の異性の子供。
すなわち、あなたの結婚相手です。

どうでしょう。自分の結婚相手となるイトコを想像できたでしょうか。もしあなたが母方交叉イトコ婚社会に生まれていたら、その人と結婚する可能性が非常に高かったということになります。

「自分の異性の親の異性の兄弟の子供」との婚約が強制される社会。それが母方交叉イトコ婚の社会です。

どうです?イトコが浜辺美波や志尊淳だったら話は別ですが、そんな社会絶対嫌だという人がほとんどでしょう。ぼくもそう思います。「ぼくは嫌だ!!」


でも、ちょっと考えてみて下さい。本当に母方交叉イトコ婚の社会は不自由なのでしょうか。

果たして、ぼくらの社会は母方交叉イトコ婚の社会に比べ、自由に恋愛することが出来ていると言えますか?

もしかするとぼくらも、「社会規範の影響を受けたあるグループの中からパートナーを探している」という点から見ると、母方交叉イトコ婚の結婚形式とあまり差はないのではないでしょうか。


ではここで一つ、変わった恋愛形態をしている社会を紹介しましょう。

母方交叉イトコ婚の文化は日本ではほとんど見られないので、違和感を感じた方が多かったのかもしれませんね。

でも安心してください。その変わった文化は日本の学生、特に高校生の間で広く見られます。

それは、「野球部のキャプテン・マネージャー婚」です。



それでは詳しく紹介していきましょう。まずは「野球部とは何か」から説明していきます。

日本人の子供は自分の意思とは関係なく、「両親が居住を構えていた地区」もしくは「学業の成績」でざっくりと区切られて、半ば強制的に教育機関に収容されるのはご存知でしょう。

そこで日本人の子供は教育を受けるわけなのですが、彼らは教育の一環として「部活」と呼ばれる数人から数十人のグループに分けられ、放課後のほとんどの時間をそこで過ごします。「部活」の分けられ方は「自分の興味関心」です。

その部活の中で非常に有名なものの一つ、それが「男子野球部」です。そこには、野球が好きな約数十名の男子が選手として入部し、女子1,2名がマネージャーとして入るのが一般的とされています。

さて、ここで話をいったん整理しましょう。男子野球部に所属する数十人の部員は「両親が居住を構えていた地区」「学業の成績」「自分の興味関心」といった社会的に規定された評価軸だけを基準に集められたことになります。そして、そこに恋愛的な基準は一切ありませんよね。

完全に間違いなく、「社会規範の影響だけでランダムに選ばれたグループ」それが「野球部」です。

なのですが、

野球部の男子は全員が必ずマネージャーを好きになります。そこには選択の余地はありません。

「社会的規範によってランダムに選ばれた女子」、それがマネージャーであることは明らかなのに、他の6000万人の日本人女性を好きになるわけでもなく、マネージャーを好きになってしまうのが野球部男子の宿命なのです。

そして、

マネージャーはキャプテンと付き合います。

社会規範によって(以下略)がキャプテンなのにもかかわらずです。


これが「キャプテン・マネージャー婚」という一風変わった恋愛形態で、「社会規範の影響だけでランダムに選ばれたグループ」の中で、多くの部員が恋愛感情を持つようになるという現象です。


さて、この「キャプテン・マネージャー婚」に強烈な違和感を感じる人は殆どいないと思います。しかし、先ほど挙げた「母方交叉イトコ婚」と、この「キャプテン・マネージャー婚」、この二つの間に大きな差があると、本当に言えるでしょうか。

他にも、「お見合い婚」や「社内結婚」「サークル内結婚」など、日本でも社会規範によって相手が決められるような結婚形式は非常に多く見られます。その社会規範はランダムに決められたもので、「イトコである」という条件とほとんど変わりません。

これらぼくたちが一般的にしている恋愛形態は、「社会規範の影響を受けたあるグループの中からパートナーを探している」状態に他ならず、母方交叉イトコ婚との間に大した違いは無いのです。


さらに、母方交叉イトコ婚が行われている地域は、大家族であることが多いため、結婚相手となりうるイトコは5~10人ほどいることが一般的です。つまり、相手はそこそこ選べるわけです。(野球部のマネージャーは代替2,3人ですので約三倍です。)

そう考えると、ぼくたちの社会と母方交叉イトコ婚の社会、そんなに変わらないように思えてこないでしょうか。

変わらないとは言わないまでも、「絶対ありえない!」という感覚から、「あぁ、そんな社会もあるんだなぁ」と納得していただけたら嬉しいです。


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