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小説◆セピア色がキャラメル色に変わる瞬間《とき》

2012年10月作

ほんのりと冷たい風が吹き抜ける夕暮れ時。

オレ裕介は人気の疎らな大学校舎を出、校門へと向かっていた。

(秋だねえ……)

頬を撫でる風に煽られるように見上げた黄昏た空。

キュッと胸を掴まれるみたいな切なさが込み上げて……。

この季節特有の寂しい気持ちを堪能しようと、校門の前で足を止めたオレは、おもむろに上着のポケットからiPodを取り出し、イヤホンを耳に宛てる。

再生したのはエリック・クラプトンの『枯葉』。

ジャズ・スタンダードのをカヴァーしたものだけど、ヴォーカルもギターもクラプトンならではの味が出てて、とてもいい。

(浸みるなぁ……)

少しかすれたみたいなクラプトンの歌声が、秋の情緒を一層深くする。

世界中の全てがセピア色に染まったかのような孤独感。

薄く目を閉じて、それを堪能してから暫く。

ふと、こちらに向かってくる存在に気付いて、オレはそちらへと目を向けた。

刹那、秋風がくれた寂しさが一気に解ける。

愛しいあの子の笑顔の前に、孤独なセピア色はあまーく優しいキャラメル色に変わっていったのだ。

(敵わないな……)

「裕ちゃ~ん」

オレと視線が合ったあの子は、嬉しそうになお一層笑みを濃くして、手を振りながら駆けてくる。

胸に溢れる温かな想い……それを感じながら、オレは手を振り返す。

あの笑顔にはナニモノも敵わない。

初めて出会った瞬間から、オレの世界はあの子を軸に回ってる。

掛け替えのない、太陽のような存在だ。

息を弾ませながらオレの元へ辿り着いた彼女は、そそくさと乱れた髪を整える。

そんな、何気ない仕草も愛らしい。

「ごめんね、教授の話が長引いちゃって……」

「そか、お疲れさん!」

申し訳なさそうにしてるその頭を軽くポンと叩けば、彼女ははにかんだ笑みを浮かべる。

このコはオレにこうされるのが好きみたい。

「ねえ裕ちゃん、何聴いてるの?」

「ん?ああ……」

問い掛けに、オレはイヤホンを片方外して、それを彼女の耳にあてがった。

「……これってクラプトン?」

「そ!ご明答~」

クラプトンをあまり知らないと言っていた彼女だったけど、オレの影響で今は声を聴いただけで解るようになっていた。

「しっとりしてて、いい曲だね」

「でっしょ!今頃にピッタリの『枯葉』って曲だよ」

「そうなんだ……」

成る程といった顔をして、イヤホンを指で押さえる彼女。

曲の好みとか、オレたちは似ている所があって……。

同じ価値観、同じ想いを共有出来るのがとても嬉しい。

「そんじゃ、二人でたっぷり秋を堪能しながら帰ろうか?」

「うん」

ふわりと手を繋いだなら、彼女は恥ずかしそうに、けどとても嬉しそうに笑う。

毎日、手を繋いでいるのにこんな表情をする。

そんな所も堪らなく愛しい。

つい繋いだ手に力を込めてしまうと、それに応えるみたいに彼女も握り返してくる。

込み上げる愛情と共に、この手をずっと守りたいと思った。

こんなに大切に思える存在は、世界中でただ一人、このコだけだから……。

〔おしまい〕


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この作品は実は二次創作です。

過去記事に何度か書きましたが、私は以前某ゲームの二次創作サイトを立ち上げて、そこに小説を載せておりましたが、利用していたサーバー様がガラケー専用だったが為にサービス終了と共にサイトも消えてしまってました。

その中の1作品がこれです。

この作品はClapを押して応援して下さった方への御礼という形で御礼コメントを書くページに載せていたショートストーリーだったりします。

本来は女の子が主人公なのですが、敢えて攻略キャラである彼《裕介》の目線で書いたものです。

結構好評でしたし、自分でも気に入ってる作品だったりします。

このお話ならゲームを知らない方でも、ほんのちょっとしたショートストーリーとして楽しめたりするのでは?なんて思って今回少しだけ加筆して載せてみました。

ゲームを知らない方、どうですかね?

二人は大学生で同じシェアハウスに住んでいる…とか知らなくても読めるお話ですし、まあ、裕ちゃん(裕介)がエリック・クラプトンが好きという設定も読んでたら判りますよね?

ちょっとでも楽しんでいただけたら嬉しいです(^ω^)