見出し画像

人生で一番コーラが美味かった日。

汗まみれのおじさん。頭上を通過するマッシュヘアーの若者。狂ったように頭を振っている女子たち。死に物狂いで、警備するマッチョのお兄さん。こんなカオスな場所が他にあるだろうか。

僕が人生で初めて行ったフェスは、とてつもなく最高だった。


いつもはデザインの話をしているけど、
たまには自分の好きな音楽の話をしたい。

中学2年ぐらいだっただろうか。僕は、「マキシマム ザ ホルモン」(以下ホルモン)というバンドに出会った。友達が、ヤバいバンドがいる!と言っていたのを盗み聞きして初めて知り、自宅に帰ってから聴いてみたのが最初。

正直、度肝を抜かれた。
まず、歌詞を聴き取ることが不可能なのだ。意味がわからない。「なるほど、日本人だけど、歌詞が全部英語なパターンのバンドか」と考察したが、歌詞を見たら全部日本語だった。意味がわからない。

さらに、ホルモンの曲を聴いて初めて、この世に「デスボイス」という歌声のジャンルがあることを知った。これまた意味がわからなかった。直訳すると「死の声(?)」だし、ダミ声というか、がなり声というか、「かっけえ!」と思うよりも先に、ヴォーカルの人の喉が大変心配になった。

しかし、それが、中二の僕の心を揺さぶる音楽だったのだ。
恋愛漫画でよくある、「第一印象は最悪だった」的な感じで好きになっていた。こんな奴のこと、好きになるわけないのにっ!と頭の中で思っているのに気持ちが抑えられない、よくあるやつである。

「ハマる」という感覚を知ったのもこの時かもしれない。
「爪爪爪」という彼らの代表曲を最初に聴いたのだが、この中毒性が半端なかった。授業中、休憩時間、掃除中、学校に行っている間もずっと、僕の頭の中からこの曲が離れることが無かった。ちょっとした油汚れよりもこびりついて離れなかった。

何曲か聴いているうちにヴォーカルの人の喉も心配にならなくなってきた。「ご尊顔」というより「ご尊喉」。僕は彼の喉を崇めていた。


そして、大学一年生になっても、自分はまだ中2だった。
相変わらずホルモンが好きだった。高校の時、僕はとんでもなく田舎に住んでおり、ライブやフェスには行けなかった。でも、大学に行ったら絶対に行ってやると心に決めていたから、それを楽しみに田舎を離れた。(といっても、大学があるところもまあまあの田舎)

ホルモンの人気はすさまじく、ライブのチケットを取ることは容易では無かった。そもそも彼らはCDをあまり出さなかった。でもどうしても生で彼らの音楽を感じなければならないと思っていた矢先、ホルモンが好きな友人と大学で出会った。フェスならよく出てるし、チケットも取れるやんということで、フェスに行くことになった。


ということで、人生初フェス。

9月だったがまだめちゃくちゃ暑かった。
始まる前から三日分ぐらいの汗をかいていた。

この時、超緊張していた。中二からの片思いの人とついに会う。
5年間遠距離恋愛しているような感じだと思う。(違う)

初フェスだったが、ホルモンの出番までに他のバンドも見たりしていたため、なんとなくノリはわかってきていた。めちゃくちゃ頭振ればいいんだな、とか、靴を落としたらみんなが探してくれるんだな、とか。

なぜかこのフェスには和田アキ子も出ていて、それが印象に残っている。マイクの位置が低すぎて面白かった。地声でもこの会場の端まで聞こえるんじゃね?ってくらい声量がすごかった。あとデカかった。

ついにホルモンの出番。
もちろん最前列を陣取った。フェスもライブも初心者が、最前列は危ないと言われそうだが、そんなこと知ったことではなかった。ここで自分の持っている全体力を使ってやろうと思っていた。

出囃子が鳴ると共に、会場が大きく動きだした。さっきまで静かにしていた老若男女が、いっせいに手を挙げ、ジャンプをし、大声を出している。そんな中、その空間を並並ならぬ思いで、しみじみと味わっていたのが僕である。彼らがまだ出てきてないのに、もう泣きそうだった。

セットリストは最高だった。中学の時から聴き続けていた曲たちをこんな近くで生音で聴いている。ずっと続けばいいのに、と思ったけど、激しく動きすぎてもう死ぬかも!と何回も思った。

でも隣にいた50代ぐらいのおじさんは、もっと死にそうになっていた。1人で来ていたのか、仲間と来てはぐれたのかはわからないが、曲が終わるたびに「あかん、もうあかん、ほんまにこれ以上動いたらあかん」と息をきらしながら言っていた。しかし、息を尋常なくきらしているのに、曲が始まるとまた楽しそうに動き出す。これがフェスの力か...と思った。はたから見たら風呂上がりのTシャツ半パンのおじさんだが、僕はその光景にすら感動していた。びしょ濡れのおじさんを見て感動するのは、後にも先にもこの時だけだったと思う。

最初に出会った曲「爪爪爪」も演奏された。
めちゃくちゃカッコよかった。

演奏が全て終わる頃には、会場の真ん中ぐらいまで流されてしまっていた。友人も同じところぐらいまで流されていた。体幹をもっと鍛えて、常に最前列をキープできるくらいまで強くなろうと思った。(思ってない)

そして、最後に衝撃発表があり、このフェスでホルモンが当分の間、活動を休止すると発表された。あんなに熱気がえぐかった会場が一瞬で静まりかえったのを覚えている。でも静まり返ったのはその一瞬だけで、みんなすぐに喋り出していた。「ホルモンならまた帰ってくるやろ」こんな声が聞こえてきた。たぶん会場のみんなが同じことを思っていたと思うし、僕も友人と同じことを喋っていた。

そんな初めての彼らのライブ後、あまりにも喉が乾いていたので友人と出店でコーラを買ってベンチに座って飲んだ。

うっ...めえ...

いつも飲んでいたコーラの何倍も美味かった。炎天下にで売られていたコーラは全然冷たくなかった。でも美味かった。それを飲みながら友人とさっきのライブの話をした時間がずっと思い出として残っている。ちょうど夕日が差していた。土と芝でグチャグチャになった靴を見ながら一気にコーラを飲みほした。

画像1

フェスの時の自分の写真。イキっていたので金髪です。


その後、ホルモンは無事、活動を再開した。体がボロボロだったらしいが、元気になって帰って来てくれた。またフェスにも行った。

そして月日は経ち、コロナで相次いでフェスやライブが中止になった。また色々行こうと思っていたのに。と思っていたのでかなりショックを受けたが、それはたくさんの人がそう思っていたに違いない。現在は感染者も減り、緊急事態宣言が解除されたり、と徐々にではあるが、日常が戻って来ている。フェスやライブも感染症対策を取りながら、開催されているところもあるようだ。

日常の中に、非日常がないと面白くないと思う。

初めて僕が行ったフェスが、非日常の連続だったように、当たり前のように、人がいて、大声で叫んで、体を動かせる。そんな日が早く戻って来ますように。そしてまたあの美味いコーラが飲めますように。

この記事が受賞したコンテスト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?