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人生は苦ばかりですか?⑦
信雄の家からバス会社までは歩いて1時間ほどだ。「ノブ!おめぇこんなとこでなにやってんだ?」バスの運転手をしている知人の勝次が不思議そうに信雄を見て叫んだ。
「おはようございます!いいところに!」信雄は勝次に駆け寄った。「実はお願いがあるんだけども」「金はねぇど!」食い気味に勝次は言った。信雄は勝次の両肩を鷲掴みにし、真剣に叫んだ。
「金じゃねぇ!俺、バスの運転手になりたいんだ!」真剣なまなざ
人生は苦ばかりですか?⑥
信雄は家に帰ってからずっと一人考え事をしていた。今の仕事を続けながらだと、月子と会う機会がない事に悩んでいたのだ。新たに仕事を探すかどうかを、じっと茶の間の壁を見つめて考えていた。
(あまり時間をかけてはいられない。月子さんともっと話をしたい!誰にも渡したくない!)心でそう思っていると、木本を抑えられなくなった信雄は、大きく息を吸い込むと大声で叫んだ。
「よし!決めた!」それに驚いた三喜雄は
人生は苦ばかりですか?⑤
初めて恋をした信雄は、仕事が終わればため息。飯を食い終わってはため息。家族も友人たちも信雄の異変に気付き始めていた。
「ノブ?ノブ?信雄さん?」和則が何度も呼ぶが信雄には聞こえていないようだった。和則も大きくため息をつき、信雄の頭をパシリとたたき叫んだ。
「ノブ!お前最近おかしいど!なにがあっだんだら言えっで!」と、信雄の肩を強くつかみ揺さぶるった「うわぁ!なん、な、なしたって?」キョトンと
人生は苦ばかりですか?③
時は少し遡る。昭和12年8月。北海道知床の小さな村の網元の家に女の子が生まれた。父の名は吉太郎。母の名はエツコ。生まれてきた子の名前は月子と名付けられた。
終戦後も、網元である吉太郎の家は村一番になり、月子はお嬢様として育っていった。きりっとした一重の目は美しく、まだ10歳だと言うのに縁談の話が持ち込まれるほどだった。
「吉太郎!おめぇんとごの月ちゃんよぉ!家さけねぇが?」そう言いなが
人生は苦ばかりですか?②
組合のトラックドライバーになった信雄は、女性に人気があった。 背が高く、筋肉も程よくついている体。顔立ちも良く、信雄を好いている女性たちはいつも声をかけていた。
「信雄さーん! 信雄さーん!」 信雄は特に声をかけはしないが、笑顔で手を振る。嬉しそうにほほを染める女性たち。だが、信雄はまだ恋を知らない。 車を運転することが大好きだからだ。 今の信雄の恋人は、仕事で乗り回している大きなトラックだ。