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人生は苦ばかりですか?④

 厳しい冬を何度も越えて、時は1955年。信雄は24歳になっていた。

 のんびりと休日を満喫しようと村を歩いていた信雄。たまたま通りかかったバス停に、ちょうどバスが止まった。何気なくバスを見ていたら、中から一人の女性が降りてきた。

 真っ白いブラウスに、紺色のスカートは膝ほどの丈でふわりとしていた。髪はこの前、和則が見せてくれた映画のポスターの女優のような感じだ。信雄は生まれて初めて胸が熱くなった。

「月子ちゃん!月子ちゃん!こっちよ!」信雄から少し離れた所から、そう月子を呼ぶ声が聞こえた。すっと顔を上げた瞬間、月子と信雄は目が合った。静かに微笑み小さくお辞儀をした月子を見て、信雄は慌ててお辞儀をした。通り過ぎて行く月子から、信雄は目を離せないでいた。

「あら?信雄さんじゃない?」月子と待ち合わせをしていたのは和則の妹の友達だった。「お、おぉ!リツ子ちゃんだったっけ?」ソワソワしてる信雄を見て、勘のいいリツ子はずるい顔をした。

「月子ちゃん、こちら信雄さんよ!」リツ子は信雄の背中をぐいぐい押して、月子に近づけた。

「ちょっと、リツ子ちゃん!あ、あの、はじめまして!信雄です!」信雄は顔が赤くなり、とても慌てているように見えた。月子はくすくすと笑いながら信雄の目を見て「はじめまして。月子です」と優しい声で言った。

「それじゃあ、私たち用事があるので。またね!信雄さん!」リツ子はずるい顔でけらけらと笑いながら月子の腕をつかみ、速足で信雄から離れて行ってしまった。

 (この村に、あんなにきれいな女性がいたなんて。思わなかった…)

1955年春。信雄は初めて恋に落ちた。

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