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人生は苦ばかりですか?②

 組合のトラックドライバーになった信雄は、女性に人気があった。 背が高く、筋肉も程よくついている体。顔立ちも良く、信雄を好いている女性たちはいつも声をかけていた。

「信雄さーん! 信雄さーん!」 信雄は特に声をかけはしないが、笑顔で手を振る。嬉しそうにほほを染める女性たち。だが、信雄はまだ恋を知らない。 車を運転することが大好きだからだ。 今の信雄の恋人は、仕事で乗り回している大きなトラックだ。 

「ノブ! またおめぇトラック洗ってんのが! 好っきだなぁ」 友人の一人で組合員の和則が、洗車をしている信雄に近づいてきた。「海水が少しでもついてると、すぐに錆びるからよ」 信雄は汗をぬぐいながら振り返り、和則にタオルを投げつけた。「おいおい、俺にも手伝わせる気かよ!」 ニコニコと和則から目線を空へと変えた信雄の息は真っ白だった。「カズ、明日はやばそうだな。タイヤ交換しといた方が良さそうだ」 2人は空を仰ぎ、白い息の向こうにある雪雲を眺めた。 

また知床に、厳しい冬がやってくる。

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