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泡沫

初めてサイダーを飲んだ日。多分、小学生の頃。
友人の家に遊びに行ったら、おやつのお菓子と一緒に用意されていた。
炭酸ジュースは幼い頃の私には少し贅沢で、飲むたびにちょっぴり大人になった気分だった。

初めてビールを飲んだ日。多分、大人になりたいと思っていた頃。
白桃サワーのような、甘いお酒しか飲めなかった私。
誰かに教わった訳でもないのに、苦いビールを飲めてこそ大人だと思っていた。

炭酸をグラスに注ぐと、絶えず泡がぶつぷつ浮かび上がっていく。

友人の家で飲んだサイダー、夏祭りで買ったラムネ、学園祭で彼に買ってもらったジンジャーエール、クリスマスのシャンメリー..
初めて飲んだ甘いサワー、長距離ドライブのおともの炭酸水、結婚式の乾杯のシャンパン、ビールが安くて美味しいと評判を聞いて、新婚旅行はチェコへ渡った。

泡は数知れず思い出を映し出す。その日々を懐かしく思う度に、泡沫の如く人生の儚さを感じる。
今この瞬間が簡単に壊れてしまわぬよう、大事に過ごしていきたいものだなぁ。と、昇っては弾ける泡を眺めてぼんやり考える時間も愛しいひとときだ。

一層炭酸が欲しくなる暑い日がまだまだ続く。
1日の終わりに、果実のシロップと炭酸水をグラスに注ぎ、氷を浮かべる。泡の消えぬ間にグッと飲み込み、時折泡を見つめながら今日の出来事を思い浮かべて、1日を締めくくる。

今日も元気にその一杯が飲めたなら、それだけで充分マルである。

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