【青春音楽小説の感想】藤谷 治『船に乗れ! (1) 合奏と協奏』


本屋大賞ノミネートの作品。三部作の第一巻。

個人的な趣味(クラシックピアノ、吹奏楽でトランペットの経験がある)との合致点が多かったからかとても面白く読んだ。

まず設定が好き。本作は青春音楽小説と銘打たれている通り、主人公は(三流)音楽高校の生徒なのだが、東京芸大付属高校に合格しかけるほどチェリストとしての腕があり、音楽への知識も深い。

筆者ご自身、実際に青春時代を音楽高校で過ごしていたからだろうが、言葉や描写、音楽への想いの一つひとつに嘘くささや妄想くささがない。音楽をやったことがない作家さんが書く音楽モノはいつも現実味に欠けていて、経験的な音楽への心情や、作曲家への想いや敬意なども感じにくく、ただ優雅で夢みがちなだけだけど、このお話は違う。

楽曲の構造の説明も詳しく、アンサンブルの演奏シーンではまるで音楽が聴こえてくるようだった。音がない音楽だった。音楽家の音色の個性について文章で表せるなんて凄い。

オーケストラの合奏のシーンは、特に初めての音合わせの時の、一人で弾くのとはまったく違うことへの衝撃。あれは吹奏楽部でもブラバンでもバンドでもオーケストラでもなんでもいいけど、経験したことがある人は共感必至だと思う。

合奏って本当に面倒くさい音楽で、たった一回や二回の公演のために、何ヶ月も半年も同じ曲を毎日毎日練習して、各パートで合わせたり各セクションで合わせたり全体で合わせたりして、手間が掛かるし人間関係のトラブルも起こるしでやってらんねえのに、それでも曲を合わせてしまうとすべてのやってらんなさを凌駕する「音楽の美しさ」がそこにある。それが音楽の素晴らしさだ。

音楽の素晴らしさについては他にもたくさん書かれていて、どんなことがあろうと音楽の圧倒的な美しさの前では自分の悩みなんてあまりにもちっぽけだとか、そういう、胸が熱くなる言葉がたくさん出てくる。

物語の部分も青春、ややラブコメなんだけど、主人公が哲学的な性格をしているからか、ひとクセあって面白い。地の文の面倒くさめの性格と、会話文の軽い感じ(マンガ調ですらある)が良い対比になっている。

二巻では裏切りがあると予告に書いてあるので、裏切られるのかーー、イヤだなーー、と思いつつ、知らぬまま裏切られるよりマシなので心の準備をしている。

続きを読むのが楽しみだ!

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【個人的な感想】しあの




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