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【吉尾海夏インタビュー】左SBで新境地を開拓。横浜F・マリノスでユーティリティのその先へ「このクラブのためなら、どこで出たとしても全てを懸けて戦える」

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オフシーズン企画のラストを飾るのは…

 読者の皆さま、いかがお過ごしでしょうか。横浜F・マリノスも新シーズンの始動日が迫ってまいりました。新戦力加入のお知らせにはワクワク、そしてまだ契約更新が発表されていない選手がいることにヤキモキしていることかと思います。

「蹴鞠のトリコ」ではこれまでオフシーズン企画として2023年のF・マリノスで活躍した3選手のインタビューをお届けしてきました。今回はそのオフシーズン企画のラストとして、吉尾海夏選手にご登場いただきます。

 自らの契約更新をファン・サポーターに向けたクリスマスプレゼントとし、2024年もF・マリノスの一員として戦う決意を示してくれた吉尾選手。新婚さんとして迎えた2023年はディフェンスラインで新境地を開拓するなど、これまでとは違った一面をたくさん見せてくれました。

 今回のロングインタビューでは飛躍のシーズンとなった2023年を振り返るとともに、吉尾選手自身の変化やユーティリティプレーヤーとしての現在地、関係性の深い先輩とのエピソード、そして新シーズンに向けた意気込みなどを語っていただきました。なお、本文中の「昨季」や「今季」などの時期に関する表現はインタビューを収録した2023年12月中旬を基準としています。

 前半部分はどなたでも読めるような形で掲載いたしますので、たくさんの方々に楽しんでいただければ幸いです(そして、ぜひ定期購読もご検討ください…)。

出番は増えたが…。不慣れなSB起用で抱えた葛藤

ある選手の真似をしています。誰でしょう?(撮影:舩木渉)

――横浜F・マリノスに復帰して2年目の今季も苦しい時期は長かったですが、出場機会は昨季に比べて大幅に増えました。ピッチに立っていた時間は昨季よりも2倍以上長くなりましたね。

昨年と比較して何試合出たのか全く気にしていなかったので、今言われて初めて知りました。

――今季はリーグ戦15試合、YBCルヴァンカップで6試合、天皇杯は3試合、そしてACLで6試合。合計29試合、1419分間ピッチに立ちました。

昨季の数字はわかりますか?

――昨季はリーグ戦9試合、ルヴァンカップは2試合、天皇杯2試合、ACLで3試合、合計16試合に出場していました。プレー時間にすると667分間です。

そうなんだ……。

――頑張り続けていたら、出場機会は約2倍になりました。チャンスをつかめるようになった実感はありますか?

それはめちゃくちゃありますね。辛い時も自分のやるべきことをやり続けることの重要性、いつチャンスが巡ってくるかわからなかったとしても、チャンスを与えられた時のために常にいい準備をし続けることの大切さを身に沁みて感じました。

――左サイドバックを任され始めた頃は葛藤もあったと思いますが、シーズン終盤はディフェンスラインの一角でチームに欠かせない選手になっていました。その過程を振り返ると?

最初は本来自分が得意とするポジションではなかったので、もちろん迷いもありましたし、ネガティブに考えがちなところもありました。でも、喜田(拓也)くんに「複数のポジションをできることは当たり前ではない」と言われたことで変わりましたね。左サイドバックで試合に出ることをポジティブに捉えて、新しいポジションを自分の武器にしていこうと思えるようになりました。「ユーティリティ」と言われるのも、心地良くなってきましたね。

――喜田選手も今季はセンターバックとして試合に出ましたし、複数のポジションを難なくこなしていますしね。

だからこそ言葉に説得力があるんですよね。「確かにな…」と思いましたし。「当たり前ではない」と言われていたことは「喜田くんもできていますよ」とそのまま返したかったですけど(笑)

どこで出ても、すべてはマリノスのために

(撮影:舩木渉)

――ユーティリティプレーヤーは様々なポジションに対応できる一方、器用貧乏になりがちという側面もあります。スペシャリストの選手に比べると出場機会が安定せず、試合ごとに役割が変わったり、チーム内での立場を確立しづらかったり、独特の難しさがあるのではないかと思います。

そういう風に考えたことはなかったですね……。ポジションがどこだとしても試合に出てチームに貢献したいと思えるのは、F・マリノスのエンブレムをつけてプレーできるからこそだと思います。このクラブのためなら、どのポジションで出たとしても全てを懸けて戦いたいと思える。その気持ちが僕の原動力になっています。

――改めて左サイドバックでのプレーを振り返ってください。

僕がサイドバックをこなせたのは、「F・マリノスだから」という理由があったかもしれません。でも、左サイドバックは自分に合っているし、守備的なタスクは多かったですけど自分の強みを出しやすいポジションだったと思います。

――永戸勝也選手や小池裕太選手、加藤聖選手とは違う特徴、自分なりにアレンジした部分はありましたか?

彼らも攻撃的なサイドバックですけど、僕の場合は他の3人よりもさらに攻撃的にプレーすることを意識していました。自分たちがボールを持って攻撃している時はボランチやトップ下くらいのイメージでやっていました。

そういったポジショニングはケヴィン(・マスカット監督)から求められていたし、自分は外に張っているよりも中でプレーした方が良さを出しやすい、違いを作れる選手だと思っていたので。

――積極的に高い位置を取る分、背後には大きなスペースができます。それでも守備で大きな綻びを作ることはほとんどありませんでした。

スピード勝負に持っていかれないように、1対1での守り方を変えました。僕は足の速い選手が相手だとどうしてもスペースを空けて対峙してしまっていたんですけど、(上島)拓巳くんに「もっと距離を詰めた方がいいよ」とアドバイスされて、以前よりも相手の近くまで寄せるようにしました。アルビレックス新潟戦(J1第33節/△0-0)でいい感覚をつかんだ気がします。

――今季はウィングとしてプレシーズンキャンプに臨み、開幕後はボランチや2トップの一角で起用され、最終的に左サイドバックに落ち着きました。ACLでは3バックの左にも入ったので、これまでこなしたポジションを全て合わせると7つになります。どこが一番楽しかったですか?

どこだろう……それぞれ役割が違うので、全部楽しかったですね。1つには絞れないです。でも、3バックの左だけはキツかったかな(笑)。センターバックの感覚でプレーしていて、競り合いは多いし、中盤にも入っていけないし……もう必死っす。

「本当の意味でチームが1つになった」ターニングポイント

――今季限りでの退任が決まったケヴィン・マスカット監督は、吉尾選手にとってどんな存在になりましたか?

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