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2020年3月 前橋旅2

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 前橋旅と銘打っておきながら、ここは渋川市だった! ということに現地で気づくものの、そのまま神社参拝を終え、すぐ近くの風来堂というカフェレストランに。何やらピザが食べたいのです。チーズが好きなのです。

 こちらのお店、グーグルマップでざっくり旅程を考えているときに引っかかった昼飯候補のうちの一つなのだけれど、レビューにやたら「美人ママ」と書かれていて、まぁそういうのを読むとやっぱり意識はしてしまうわけで、そしたら本当に、寅さんのマドンナ役で出てきそうなママさんがカフェを一人で切り盛りしてました(というか、寅さんにそんな話あったよな)。

 店内はウッドデッキをそのまま屋内にしたような感じで、キャンプチェアを椅子として使ってたり。というか、つづら折りの坂道を上りまくった先に飲食店がある、という時点で面白い。しかも結構お客さんがいる(どちらかというと女性客のほうが多い)。
 ミックスピザ、だけでは馬鹿みたいなので、サラダと紅茶のセットで。胃袋はまだ「まんじゅうこわい」状態だったけれど、まぁカフェのピザって大体小ぶりだし入る。まずはサラダ。次いでチーズたっぷりのとろとろピザ。やー、美味かったですわ。

 きっと常連だろうお客さんとママさんの会話が聞こえてきて、コロナの影響で個人客はあまり変わらないが、団体での利用は減っているとのこと。観光向けのお店という感じではないけれど、やっぱ影響はあるんだなー、とか考えてたら、雨雲が通り過ぎ、外には日差しが戻ってくる。よし、行こう。ごちそうさまでした。

 さぁ再び前橋市街へと向かって、自転車の電源を切り同じ坂道を今度は勢いよく下っていきます。っと、酒蔵! 聖酒造。先程の木曽三社神社の湧き水を使った酒だとか。見学はやっていないようだけれど、どんなもんかなー、と売店に入ると、何だか試飲コーナーから店員さんが退いていく(今考えると車じゃなきゃ来られない場所にある酒蔵なので、一人客に飲ませることはできんという真っ当な判断かと)。まぁ、試飲しちゃうと買わなきゃという気が起きて、けどまだ旅程がある内に重量のある日本酒は買いたくないので、これは自分にとっても正解でした。

 というわけで再び坂を下っていきます。国道17号はもうこりごりなので、今度は川沿いの道をゆるやかに。微妙に下り坂らしく、大してペダルを回さないでもすいーっと車輪が転がっていくので、ええ心地。まだ満開ではないけれど、五分程の桜並木の下も駆けていきます(思えば、東京が満開の時季にわざわざ旅に出てる)。それでもさっきより断然交通量は少ないし、のんびりと道を行きます。

 さて、これから向かうのは古墳。こふん。前橋は古墳王国でもあるようで、何やらちょっとぱっとしない感はあるけれど、まぁ人が行かないような場所に赴く習性がこいつにはあるので、とりあえず見に行ってみようかと。古いものも好きだし。
 そんなこんなで上毛大橋に差し掛かり(今日三度目の利根川横断)、橋の中程で振り返れば積雲の下に黒々とした赤城山の雄姿が。しかしながら、いかんせん橋の上は風が強いので早々に渡り切り、市街地に紛れ込み、グーグルマップを見つつ、あっちのほうに何かこんもりと茂ってんなぁ、というわけで、それほど迷うことなく、二子山古墳に到着。

 うん。小山だ。まがうことなき小山だ。子供の頃、近所にこういう小山だけの公園あったよなぁ。
 案内板に描かれた完成予想図を見ると、全長約90mの前方後円墳(鍵穴みたいなあれですね)とのこと。今は小山の上にもう一つ小山があるみたいな感じ。とりあえず丸木で組まれた簡単な階段を上ってみる。
 芝生。なんか花も咲いてる。周囲の住宅街を見回せる。以上。

 え、これ、本当に復元させるの? 何かそんな様子が一切ないけれど……と、元の位置まで下ってきて、先程の案内板を再度ながめる。よくよく読めば完成予想図ではなく、ただの復元図でした。つまり、昔は多分こうでしたよ、と。実際に復元はしませんよ、と。
 何だろう……古墳の上に桜の木があって、そこで花見でもやったら楽しそうだけれど、まぁ、そんな感じでもなさそう。よし、次の古墳だ。前橋にはまだまだ古墳があるぞ!

 次、愛宕山古墳。中学校のすぐ近くにある。というかさっきから感じてたけれど、古墳が住宅街の中にぽつねんと残っている姿は、異様そのものです。近所で暮らす人々は、この古墳をどう思っているのか。そんでもってこちらの古墳は大して整備がされてなく、道も落ち葉に埋もれてて、先程の古墳とは随分と落差があります。
 自転車を停め、いざ古墳へと歩を進めているとき、中学生くらいの男子が後ろを通っていったけれど、果たして彼は古墳に上るこいつの後ろ姿を見て何を思っただろうか。というかさっきから他に観光客はなし。

 廃れた道を進んでいくと、何やら墓石がやや乱雑に並んでいる。え、何、ここ通っていくの? 他人様の墓地じゃないの? しかし墓石群の向こうに、大きな案内板が立っている。仕方ないから、黙礼して奥へと行く。
 すると斜面にぽっかりと横穴が空いている。おぉ、古墳っぽい。石室だ。
 まずは案内板を読む。内容は忘れました。が、その下にA4の注意書きが提げられている。「地震とか起きたら、すぐに出なさい。~~教育委員会」という感じ。まぁ行政的には、こういうの必要なんだろう。
「地震が起きたら出なさい、とか書かれていないから、生き埋めになっただろうが!」という責任追及を想定しているのだろうね。

 で、穴。上面は大きな石、というか岩。短い土の滑り台みたいな入口で、中に潜り込む感じ。何か石棺みたいなのが、暗がりの中に見える。入ったところで、これといって達成感は得られないだろうと容易に想像はついたが、ここまで来て入らないのも何なので、あまり衣服を汚さないよう、後ろ向きの姿勢で足からお邪魔します。ずざぁ、と積もった落ち葉を崩して石室に入室。
 暗い。陽はあまり届かない。普通に立てる高さだが、縦横数歩程度の広さ。ぼこぼこした丸石に囲まれて、石棺が鎮座している。何か、棺の正面に穴が空いている。これは調査の際に空けたものだろうか。
 しばしぼんやりと石室の中に佇み、石棺と対峙する。他に特にすることはない。後ろにも回り込める感じじゃない(もしできてもしないけど)。そもそも今目の前にあるのは、かつて骸が入っていた棺(今は流石に中身はない、のだろうか)。俺はこんな暗い穴の中に入って、何がしたかったんだろう。
 出る。退散する。次だ、次の古墳だ。

 宝塔山古墳。
 先に書いておきますが、ここはまだ良かった。
 石の階段が設けられ、幾基もの灯籠が建ち並び、ついでに満開には至らないが桜も咲いている。とりあえず階段をすたこら上っていくと、「秋元氏歴代墓地」なるものが。どうやらこの地域──総社の藩主だった方らしく、十何台も続いたようで、古墳のてっぺんには秋元氏の墓、というより石塔がその数だけ建立されていました。周囲はぐるりと樹葉に囲まれていて、木漏れ日が落ち、ここだけ別の空間のよう。静かに佇み、静かに立ち去ります。

 で、もう少し道なりに進んで、裏側に回り込むとありました、石室。今度は石で組まれた壁面にぽっかりと口を開けていて、入りやすい。ピラミッドっぽい雰囲気さえ漂ってきます。もちろん足を踏み入れます。今回は奥行きがある。しかし数メートルも進めばどん詰まりで、またもや石棺。それだけです。うーん。

 自転車のところまでてくてく戻る。先程まで「まんじゅうこわい」状態だったが、今度は「古墳こわい」状態に移行しつつある。もはや古墳の食傷。古いものは好きなはずなのに、あそこまで古いとときめきも無くなるとは。
 さて。これからどうしよう。次に向かうは──と、グーグルマップをぐりんぐりん。
 そうしてふと、行きがけに前を通った臨江閣をタップしてみる。明日寄る予定だが、何だか勝手にああいう文化財施設は無休だと思っていた。けど、行政が運営管理している施設って、月曜休みが多いし、丁度明日は月曜だし、よもや……。と思って調べて見たら、びっくらこいた。本当に明日は休みだ。しかも今は16時前。入館は16時半まで。あと30分程度で行かないと一泊二日の今回の旅では見学できないことになる。ここから距離は3km。自転車なら充分間に合う。しかしすぐ近くにある「前橋市総社歴史資料館」も気になる。自転車で入口が見える位置まで行ってみるが、何だが館の前に馬みたいな埴輪たちが置いてある。もしやあれがぐんまちゃんの祖先か、と焦ってる割にはとんちきなことを考えるが、行きたい。見たい。けど、「臨江閣」の重要文化財っぷりは尋常じゃなかった。こいつの好きな「古いもの」を見事に体現していた。

 さようなら、古墳。そして埴輪。いざ、臨江閣へ。
 大通りに出ます。橋を渡ります。あれ、でも川がないぞ、今のは陸橋だぞ? というわけで、いきなり逆走してました。道を戻ります。馬鹿野郎。いい加減にしろ。でも大丈夫だ。絶対間に合う。余裕はあるから、慌てずに行こう。

 はい、16時15分に到着。17時までが見学時間なので、割とゆっくり見回ることができます。写真とかも撮っちゃいます。
 臨江閣。明治の頃に建てられた貴賓館で純和風の巨大建築です(本館と別館があるのだけれど、別館のほうが圧倒的に大きいので、別館を臨江閣と思っている人、多いだろうね。かくいう私も今調べるまでは……)。
 印象は昔の学校や、旅館といった感じだが、ほとんどの面がガラスの格子戸で覆われていて、外から見ても開放感がありまくりです。早速中に入って、靴を脱いでは板敷きの廊下を踏み踏み。何かもうそれだけでいい心地になれちゃうんだから、ちょろいもんです、こいつ。

 とっとっと、と階段を上っていくと、百人組手でもとれそうな超広い畳の部屋が(百八十畳だって!)。格子戸から差し込んだ陽が畳の上に落ち、幾何学的な影を描いています。
 寝転びたい衝動にも駆られつつ、二階の窓に面した廊下をぐるり。微妙にガラス向こうの中庭の景色が歪んでいる。ということは、昔のままのガラスを使用しているということ(昔のガラスはどうしても歪みが出るんです)。

 渡り廊下を伝って本館にも行き、時代劇に出てくるような、ふすまふすまふすまの間を貫いて歩いたり、昔の前橋についての展示を眺めたりして臨江閣を堪能します。
 いや、これまでの「古墳こわい」を吹き飛ばすような、充実した時間でした。

 さぁ、時刻は夕刻、16時半過ぎ。陽が橙へと染まってきています。今日だけで相当移動したし、いい加減休みたい気持ちもあるけれど、でも、どうしても行きたいお店があるのです。こちらも明日には休みになってしまうので、何としても今日中に訪ねておきたいのです。美味しい醤油の店なのです。
 というわけで、やたらめったら上州の空っ風に吹きつけられながらも、醤油を求め、まだまだ前橋の街中を自転車で駆けていきます。(続→

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