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2020年9月 奥東京旅3

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 空きっ腹を抱え、湖面を眺めつつ、東へ。
 っと、立ち寄っておきたい神社があったのでした。というわけで、ダム湖に囲まれた半島の突端へと向かいます。車止めのアーチがあったので原付は停め、残りは徒歩で。

 小河内神社。おごうち、と読むらしい(これを書いている今知った)。そもそもみんな奥多摩湖奥多摩湖言ってますが、正式名称は小河内ダムなのです(これも今知った)。つまり、この地のかつての名です。小河内神社は、今はダムの湖底に沈んでしまった村、小河内村にあった九の神社を合祀した神社です。
 ここにはぜひとも立ち寄っておきたかった。

 小さな半島の、小高い丘の上に鎮座しています。階段下の大鳥居で一礼をして、苔生した、でも整然とした階段を上っていきます(こいつ、いつも神社行ってんな)。西日が眩しいです。人は、誰もいません。

 どうしてここに立ち寄りたかったか。ざっくりと旅程を編んでいるときも、社殿へと向かっているときも、漠然としか考えていなかったが、帰ってみてから気づいた。きっと、この神社は、今はダムの底にある村の、村人たちの、沢山の願いが、祈りが詰まった神社だ。だから行きたい。そういう場に赴き、自分も手を合わせたい。

 さっきまで姫の石を見るために汗を流していた人間が、何やら神妙な面持ちです。重厚な造りの社殿。鈴を鳴らします。賽銭を入れます。頭を垂れます。手を、打ちます。
 しばし目をつむり、小河内の音に耳を浸しました。

 小河内神社をあとにします。

 もういい加減、本当にお腹が空きました。小河内ダムを東へと抜けていく道中に、飲食店はいくつもあったけれど、屋内じゃマスクは外さない=屋内で飯は食べないという、コロナ縛りのルールを課しているので、おいそれとご飯にありつけません。

 やがて、ダムを東側より見晴らす『水と緑のふれあい館』にたどり着きます(行政のネーミングに『ふれあい』の多いことよ……)。まぁ、展望というよりも、ちょっと気になるジェラートが売っているので、立ち寄った感じです。
 受付では奥多摩町のゆるキャラ『わさぴー』くんが、大きなマスクをつけてお出迎え。館内の螺旋状の通路を上っていき、売店で『わさびジェラート』と奥多摩の天然水を購入。檜原村の水は100円だったのに、こちらは140円です。まぁ違いはわかりません。本来は窓際のイートインでそのまま食べることができたようですが、今の時期は外でお願いしますと、アイスを手に再び螺旋を下っていきます。

 このふれあい館。小河内村の資料館でもあるらしく、往時の写真(セピア色)がたくさん飾られていました。かつての神社前で撮った集合写真なんかもあります。ただ、時間に追われていることと、腹が減ってることもあって、鑑賞もそこそこに屋外に出て、適当なベンチに腰掛けます。風が抜けていきます。

 で、『わさびジェラート』。その名の通り、わさびのアイスです。どんなもんかと一口いけば、すーん、とわさびの香りがほのかに鼻に抜けます。そうしてバニラのまろやかな甘さが追っ掛けてきます。む、割と合います。美味しいです。しばし、わさびジェラートを味わいます。

 ダムの岸辺で、若い人たちが賑やかにしています。ちょっと耳障りな気もしたけれど、「わたし、外でこんなにマスク外してるの、久し振り!」といった声を耳にして、そりゃ、はしゃぎたくもなるよなぁ、と、何だかしみじみします。

 さて、時刻は三時過ぎですが、お昼ご飯を求めて、原付を駆ります。交通量の多い国道は好きじゃないので、旧道へと下り、多摩川にかかる吊り橋や、かつての旅人を見守っただろうお地蔵さん、そして渓谷美を目に映しつつ、東へと進みます。腹減ったよ。当初の昼飯の予定地はもう閉まったようだが、まだいくつか候補はあります。

 道中、大きな羽虫に追われて、コロナ対策のアルコールスプレーで応戦したりと頓狂な騒動を一人で演じつつ、橋を渡り、長いトンネルを抜け、沢井駅近くへとやって参りました(このへんは列車も通じているのです)。原付を停め向かったのは、日本酒、澤乃井の酒蔵さんが運営している渓流沿いの食事処や美術館が建つ、澤乃井園。日本庭園を基調とした、小規模なテーマパークの感があります(なお、酒蔵見学だって当然あります、が、今はコロナで休止中です)。清流ガーデンという呼び名もあるようで。

 ここの多摩川の流れを目の前にしたオープンテラス席で、何か軽食でも……。という腹づもりで園内に入るが、何だか係員さんが券売機を開いて清算作業みたいなことをしている……。よもや。

「四時までです」とのこと。時計を見れば、16:04。調理場も、何だか片付け作業に入っています。まじっすか……。ここで腹を満たして、日本酒のお土産でも買っていこうかと思っていたんだが……。
 本当に、このがらんどうなお腹をどうしてくれよう。あとは味噌おでんなんかが食べられるお土産屋が、青梅のほうにあったはずだが……。Google mapで見れば、17時までは開いている。これはまだ間に合う。急がねば。
 日本酒も買わずに、澤乃井園をあとにします。あと十分早く着いてれば。姫の石やら、旧道に入ったことやら、色々思うことはあります。が、今はとにかく腹を満たさねば。旅先でまさか昼食難民になろうとは……。

 向かったのは、『吉野梅郷 伊藤園』。が、閉まっています。駐車場も何か看板が立っています。自動ドアもうんともすんとも。ガラスに貼られたカレンダー。定休日の他に、今日もお休みだったようで……(Google mapだけの情報を鵜呑みにしていると、こういうことがあります……)。味噌おでんだけでなく、ここで梅干しのお土産を買おうと思っていたのに……。

 ならばと真向かいの『紅梅苑』に目を足を向けます。甘味処が併設された和菓子屋さんです。ソフトクリームも販売しているよう……。と、店内のドアをくぐり、客のいない甘味処へ向かおうとしたら、店員さんに「もうやっていませんよ」と呼び止められます。ときすでにお寿司!

 が、甘味処の店員さん(感じのいい、おばあちゃんでした)が、「ソフトクリームくらいならお出しできるけれど……」と、提案してくれます。こくこくと応じて、巻いてもらうことにします。

 待っている間にお会計を済ませ、店内のポスターを見やると『青梅ソフトクリーム』。地名は「おうめ」だけれど、ここのは「あおうめのシロップが掛かっているとのこと」。それを外の腰掛けでいただきます。

 淡い緑色の蜜、がソフトクリームに垂らされています。一舐めすると、すっと梅の香りが口内に広がります。そしてバニラのまろやかさ(なんか、さっきも似たようなこと書いたな)。これは美味い。というか味よりも、甘味処の営業時間が過ぎているのに、ご厚意でご提供いただいたという経緯が、とても美味しいです。

 これは、あれだ。お礼をしなくては、とソフトクリームを食べ終え、もう一度店内に戻ります。
「ソフトクリームをいただいたお礼に、せっかくなので、何かお土産を買って行きますね」と、ショーケースの中をながめます。紅梅苑という店名だけれど梅は売ってなく、紅梅饅頭という梅の花を模した和菓子が名物のようで。カステラも最中も美味そうだが、『美味(うまみ)もち』という名のどら焼きが気になりました。そのまま一箱お買い上げです。

「いやぁ、昼飯を食いっぱぐれちゃって、本当、助かりました」と、お礼。
「あら。どちらからいらしたんですか?」と、先程の店員さん。

 普段なら「東京です」と答えるのだけれど、ここも東京だしなぁ……。

「えぇっと……同じ、東京ですけど」

 うん、何だかこのやりとりが面白かったです(その後、23区の名をお伝えし、「遠くからいらしたんですね」てな会話をいたしました)。

(なお、このときお土産で買って帰った『美味もち』なる、どら焼き。めちゃんこ美味かったです。皮がもっちりしていて、中の餡も絶妙にしっとりと甘く、個人的に今まで食べたどら焼きの中では最高峰です。またそのうち、買いに行こうかしらん)

 というわけで、旅に出て口にしたものが、じゃがいもアイス、玉こんにゃく、わさびジェラート、青梅ソフトクリーム、その他は水、と相成りました。振り返ればアイスばかり。一体、何やってんだか。

 そうしてあとは、ひたすら景観に面白味のない青梅街道を東へ走って、帰路に着きました。

 なお、ここでは書きませんでしたが、物に触れる前に消毒するやら、自分の座ったベンチにスプレーぶっかけるやら、『コロナ縛り』で書いたことを実行してきました(振り返れば一部忘れた箇所もあります)。
 の、癖に、コロナ疲れのことなど忘れしまうほどに、楽しい楽しい日帰り旅でした。時間と腹減りに追われた感もありますが、その分、濃密な旅程でもありました。

 さて、次の旅はいつ頃になることやら。
 というわけで、やや尻切れトンボの感もありますが、今回も長々とお付き合い、ありがとうございました!

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