コミケのビッグサイト_20200101_173823

コンテンツの多チャンネル化が始まっている【連載19・オタク視点で見るアニメ】

2019年の冬のコミックマーケット(コミケ)が終わりました。
アマチュアの祭典と言われる場所ですが、この1、2年あたりで大きな変化を感じています。

私は長年コミケの「評論ジャンル」で同人誌を発行しているのですが、電子媒体のプラットフォームから同人誌を電子の形で販売してほしいという依頼が届くようになりました。本という形態での通信販売はこれまでにもやっていましたが、電子媒体は初めてです。

担当の方に以下のような説明を受けました。
・二次創作ではなくオリジナルコンテンツだけを扱っている
・専売なら印税率がアップする
・還元キャンペーンのコストは自社で持つ
・様々な媒体に販売チャンネルが設けられる

■web最大の面白さは「並列化」

web最大の特徴は「並列化」にあると感じました。並列化によって、様々な障壁を飛び越えることができます。
私が一番面白いと思ったのは、販売チャンネルが横断的に設けられる点です。
それは結果として、アマチュアベースで作ったコンテンツでも、プロの土俵に参入できるということでもあります。

私はそこで、出版の仕事が長いせいもあり、自分の心の中に様々な“参入障壁”ができていたことに気がつきました。私の場合、心の気付きは以下のものでした。

●プロとアマの境目はない
コンテンツが同じ土俵で並べられるとき、そこには本のタイトルと説明文があるだけですから、プロであるかアマチュアであるかは問われません。

●請負ではないので題材は自由
私のように、仕事として書いている人は、ふだんは仕事の媒体と世間の流行に合わせてコンテンツを作っています。けれども同人誌なら、自分のマイブームや「これほかに関心ある人いるかな…?」といったニッチなものに関して本を作ることができます。

●有名作品もそうでないものも、同じフォーマットで棚に並ぶ
ひとたびwebや電子書籍の棚に行けば、有名でもそうでなくても、同じフォーマットに、同じフォントで同じ級数で並びます。新聞や雑誌の見出しなどでは、目立たせたいものを大きな文字で扱うのとは真逆になります。

■「書籍化」とは違う届け方がある

さて、近年、私のような職業ライターは、書籍化が難しくなっています。
それは、書籍のタイトルに持ってこれるような専門家のレーベルがないからです。
書籍が売れないという話は皆さんもご存じだと思いますが、これは読者にとっての検索のガイドラインが、「専門の棚の名前」しかないことも要因のひとつだと思います。

書籍化ということで言えば、職業ライターよりも、ひとつの題材に特化した有名ブロガーのほうが書籍化への道はうんと近いはずです。

私はこれまでに単著を5冊、共著を1冊出していますが、2010年代以降の現段階では、お客さんの反響や自分のモチベーションからみても、書籍にするよりも、雑誌やwebでのコラム連載、同人誌にしたほうが良いのかも……と感じたりしてます。
あくまでこれは私の場合です。私は何かの専門家ではなく、世間の流行やお客さんの無意識のニーズをすくい取ってコンテンツを作る“雑誌畑”の人間だからです。

電子を使えば、そういった雑誌畑の職業ライターでも、専門作家と同じようなコンテンツの発信の仕方ができるようになると思いました。

●「電子のタグ」で、お客さんの好みにリーチする

電子のプラットフォームが横断的になれば、読者へのアプローチが多様になります。
かつて、雑誌の読者は、好きな特集を目当てにまるごと1冊買っていましたが、これからは、作られた雑誌は紙で発売されるだけでなく、内容別に分類され、読者は自分の好きな特集だけを読むことができるようになっていくと思います。

お客さんが持つ好みは多様ですが、どのようにリーチさせるか。
電子媒体には、「タグ」や「ソート」の機能があり、読者は自分に関心が深いものを選んで探すことができます。今後その機能はAIの活用によって精度が上がっていくと思います。

新たな届かせ方が普及すれば、かつての「雑誌」的なニーズをすくい取ることにもなると思います。
“何か面白いことはないかな?”という雑誌目線の読者のニーズは無くなりはしないと思うのです。

【後編】に続きます。

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