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フェルメール展でみえた「静と動」の軸

フェルメール展(2回目)に行ってきたのでその感想。

全く行く予定はなかったのだが、ルーベンス展を見に上野に来たところ、国立西洋美術館は月曜休館だそうで…その代わりとして足を運んだ。

フェルメール展鑑賞1回目の感想は、こちらの記事でまとめている。

同じ美術展を2回以上見に行った経験がなかったため、楽しめるかどうか少し不安だったが、結果としては1回目と同等か、それ以上に楽しめた。

1回目と比較して面白かったのは、同じ場所で同じ絵を見た経験があったにも関わらず、そうした絵に対して前回と異なった印象を抱けた点である。

今回の鑑賞でとくに印象に残ったのは、以下の3点である。

ヨハネス・フェルメール『牛乳を注ぐ女』,  アムステルダム国立美術館
(引用先)https://www..nl/en/rijksstudio/artists/johannes-vermeer/objects#/SK-A-2344,0


ヤン・ウェーニクス『野ウサギと狩りの獲物』, アムステルダム国立美術館
(引用先)https://www.rijksmuseum.nl/en/collection/SK-A-464


ヤン・デ・ヘーム『書物のある静物』, アムステルダム国立美術館
(引用先)https://www.rijksmuseum.nl/en/collection/SK-A-2565


1点目の『牛乳を注ぐ女』と2点目の『野ウサギと狩りの獲物』は、1回目の鑑賞から強烈に印象に残っていたが、3点目の『書物のある静物』は、2回目の鑑賞から味わい深いものとして受け止められるようになった。

その理由として、自分はこの3点に共通したテーマが見出されうると感じたからである。そのテーマは「静の中の動」である。

ここでいう静は、「絵画」という、その作品が作品として表れるための媒体自体を指す。作品として完成された絵画は、経年劣化等を考慮しなければ変化しないはずなので、静的なものである。

そして動とは、自分でもはっきり定義しきれていないが、絵画の中に表れる「移ろいやすさ」とか、文字通り「運動」の様を指す。ただ、もちろん実際に絵画が変化しているわけではないので、これらはすべて見せかけであり、主観的なものである。

静的なものは共通しているとして、この3点の動的なものはどこに表れているだろうか。

『牛乳を注ぐ女』の場合、それは陶器の水差しから流れ出る「牛乳」である。実際に直で見るとよく分かるが、『牛乳を注ぐ女』の中の牛乳は、本当に流れているように見える。それは、牛乳の細く流れる軌道の描かれ方と、水差しの底が見えないほどに広がる暗闇、そしてその暗闇を強調する丁寧な光の描写が影響していると思われる。

『野ウサギと狩りの獲物』の場合、それは「野ウサギ」である。
野ウサギをよく見ると、おそらく死んでいるにも関わらず、目がしっかり開いている。そして非常に生々しく描かれる野ウサギの毛並みが、本物らしさを引き立てる。そして、本物らしさが際立ってくるとともに、「この野ウサギは、実はまだ生きてるのではないか?」とも思えてくる。虫が集っておらず毛並みもきれいなため、まだ微かに息があるのではないかと期待してしまう。このように、静物であるにもかかわらず、「生と死の揺らぎ」という動きを感じさせられたのが、この作品である。

『書物のある静物』の場合、それは「雑に積み上げられた書物」と「くしゃくしゃの草稿」である。
まず注目したのが、作品の右手前に描かれている1枚の草稿である。本に挟まれてはいるが、非常に不安定な位置にある。
そして作品の左手前に描かれている書物群は、どれもくたくたで、きっちり積み上げられたものではない。また、テーブルから少しはみ出している。ちょっとした衝撃で一番上の書類は落ちてしまいそうである。
さらに、光の様子から見て、近くに戸がありそうである。まさか開かずの戸だとは考えにくいため、戸が開いて風が吹き抜けたら、この書物群や草稿はその不安定さから、少しずつ崩れていってしまうのではないか。
つまり、この作品もタイトルに「静物」と謳いながら、モデルのアンバランスさによって、動的なものとみなす解釈がしやすいのである。


以上のような、1つの作品の中に静的なものと動的なものという相反したものが同じ位に属している、というのが見てて面白いなぁと感じた。これは1回目の鑑賞では味わえなかった感覚だった。

ちなみにこの軸で見たら、葛飾北斎の『富嶽三十六景』「神奈川沖浪裏」もまんま当てはまるかもしれない。この荒れ狂う大波は明らかに動的である。

(引用先)https://www.rijksmuseum.nl/en/my/collections/1733259--majo-s-studio-van-mooie-dingen/fugaku-sanju-rokkei/objecten#/RP-P-1956-733,2


「静と動」の軸は、今後の美術作品の見方にも活かせそうなので、鑑賞の際に心がけていきたいと思った一日だった。


フェルメール展、東京会場は2019年2月3日(日)までなので、鑑賞したい方はお早めに。

フェルメール展 公式サイト
https://www.vermeer.jp/




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