見出し画像

「井の中の蛙大海を知らず」 2年・大場琳平

大学に入り、自分を取り巻くものは大きく変わった。

新たな仲間との出会い、人生で初めて親元を離れた寮生活、ア式蹴球部という特異的な組織、膨大な量のチームの仕事、理想と現実のギャップがありすぎたキャンパスライフ、異空間な都会の歓楽街、などなど。

ア式蹴球部で、そして私生活で自分が今まで出会ったことがなかった人種の人と出会ったり、自分が知らなかった、見たことがなかった世界を経験したりすることで、自分の中の価値観や考え方も変わったように思う。


「自分にとってサッカーとは何か」

私は6歳からサッカーを始め、自分の夢を叶えるために小学校を卒業するタイミングで秋田から上京し、中高の6年間を柏レイソルの下部組織で過ごした。学校から帰宅後、スポンサーから支給された練習着に着替え、綺麗な人工芝で練習し、食堂でご飯を食べて家に帰る。プロになるための恵まれた環境だった。当然、周りの仲間も自分と同様に、目標であるトップチームの昇格を目指して日々生活していた。Jリーグの下部組織というのは全員がプロサッカー選手を目指す集団であり、自分の目の前にあるのはサッカー、サッカーが全てであり、絶対。サッカーで生き残っていく世界にいた私の時計の針はサッカーで動いていた。


そんな私だったが、サッカーに対する価値観や考え方を変える大きな出来事があった。その出来事とは、昨年の12月にア式蹴球部の社会貢献活動として参加した東日本大震災の復興支援ボランティアだった。被災地である気仙沼を訪れ、大会運営をしながら担当チームのコーチ役を任され、現地の子供たちと触れ合った。ピッチを駆け回る子供たち、温かくもてなしてくれた指導者や父兄の方々、スポーツを通じて人と人とが繋がっていく過程に胸が熱くなった。そこには温かく居心地の良いアットホームな空間が生まれていた。言葉には代え難い幸せな空間だった。

画像1

ボランティアを通じて「支える」という新しい経験をしたことで、サッカーに対する捉え方が変わった。「支える」立場にいた時、自分がサッカーを「する」立場でいた時と同じくらいの幸せを感じた。サッカーを「する」ことでしか得られないと思っていた幸せを、サッカーをしていなくても得ることができた。今まで競技者、プレイヤーという立場でしかサッカーに関わってこなかった私だったが、この感情が得られた時、サッカーというスポーツは「する」「見る」「支える」というそれぞれの立場を全て含めてサッカーであるということが分かった。ひとつのボールから出会いが生まれ、笑顔が溢れる空間が生まれる。そのサッカーというスポーツが持つ魅力、多様性、そして無限の可能性を気仙沼の地で感じた。サッカーの価値観がこの時変わった。

そして、今年の3月下旬からコロナウイルスの影響で自粛を強いられ、自分の生活の中からサッカーが奪われた。数々のスポーツイベントは中止や延期に追い込まれた。サッカーが日常から消え、実家で過ごす日々。最前線で自らの命の危険を冒して戦う医療従事者の姿を見て、サッカーをしている場合ではないと率直に思った。自分にとって大きかったサッカーの存在がとても小さなものに感じた。いや、サッカーしかしてこなかったが故に、自分の中でサッカーというものを勝手に大きくしていただけかもしれない。自分が生きていた世界は狭かった。世の中から見たら、サッカーを含めたスポーツというのは一種のエンターテインメント、娯楽にすぎない。サッカーというものは決して人間が生きていく上で必要不可欠なものではない。サッカーがなくなったところで、人が死ぬわけではない。サッカーが「絶対」ではない。でも、サッカーがあることで幸せになる人がいるかもしれない。人生が豊かになる人がいるかもしれない。気仙沼の地で感じたように。そして、広義的にサッカーを捉えるようになったことで、気付けた。

「自分にとってサッカーとは幸せになるため、人生を豊かにするためのひとつの手段である。そして手段にすぎない」

幸せになること、人生を豊かにすることが目的であるならば、その目的を達成する手段はサッカーじゃなくてもいい。手段は何でもいいのだ。自分が知らなかった、見たことがなかった世界を経験したことで新しい発見があり、新しい価値観や考えが生まれた。サッカーが絶対ではないと気付けたからこそ、サッカーとは全く関係ない新しい世界を知りたいと思う自分がいる。サッカーとは無縁の世界をもっと知りたい。もっと広い世界を見たい。それが今の自分の正直な気持ち。だがそう思う反面、サッカーに魅せられている自分もいる。その何とも言えない葛藤の中で、自分が幸せになるための手段を見つけていきたい。それがサッカーなのか、サッカーではないのか。



大場琳平(おおばりんぺい)
学年:2年
学部:スポーツ科学部
前所属チーム:柏レイソルU-18


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?