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【#Real Voice】 「あの涙」 2年・小泉和

お世話になっております。早稲田大学ア式蹴球部2年の小泉和です。ようやく2年目に突入したと思えば、もう2年目も終わろうとしています。昨年は自分のような立場の人間がなぜプロサッカー選手を目指すのかについてお話しました。今年はなる意味と、昨年のプラスαだと思って気軽に読んでいただけると幸いです。


 
話は高校の時に戻る。
高校3年の春の終わり頃だっただろうか。
K4リーグのただの1節。
いつも通り、会場に集合し、いつも通り準備し、いつも通りアップした。
相手は3年生が8人(うろおぼえの人数)もいる。同学年が8人もいるだけで自分たちからしたら強敵認定(笑)。自分のチームは3年生自分1人。今日も負けてしまうのか。何点も取られてしまうのか。
K4リーグ勝ちなし、負けるときはほとんど大敗だった。自分が3年生になって勝った公式戦は0試合。これほどかというほどに負け癖がついていた。
 
ぼこぼこで、ツルツルのバットコンディションのグラウンドで試合が始まった。試合序盤は拮抗していたが、徐々に相手がボールを握り始め、ピンチを何度も迎えた。そして、前半中盤にゴールキックをペナルティーエリアそばで受けた味方がミスをし、相手にボールを奪われ、先制点を与えてしまう。
 
いつものパターンがはじまるのか。それでも運もあってか、なかなか追加点は奪われない。前半終盤、相手のゴールキックのセカンドボールを回収し、裏に流したボールに自分が反応しクロスを入れ味方のルーキー1年生が頭で合わせ、同点ゴール。そのまま前半終了。
 
そして勝利への少しの期待を胸に後半開始。初めから押された展開が続く。
そしてチームに奇跡が起こる。
後半中盤にペナルティーアーク手前で自分がボールを受けそのままゴール。
超弱小高校が2-1で逆転し、リードしているのだ。試合時間は残り15分。その15分はチームみんながつながり、何とか相手には得点を許さず2-1で勝利した。
その年に入って初めての公式戦勝利だった。自分が1G1Aであったからより嬉しかった。

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ここまで読んで、読者の皆さんはただ自慢したいだけかよ。そんな試合どこにでもある。そう思った方も少なくないと思います。もう少しお付き合いください。この話には続きがある。
 
その勝利よりも記憶に残っているのはマネージャーの涙だった。
 
自分が2年生の時の仮入部期間、先輩に「マネージャー見つけてこい」と言われ、野球部の練習見学を終えた1年生女子4、5人に新入部の1年生と一緒にマネージャー勧誘をした。サッカー部には練習見学に誰も来なかったために野球部から引き抜こうっていうわけだ(笑)。
結局、2人が入部した。しかし1人は夏頃にやめてしまった。残った1人は無口で内気な子であったが非常にまじめだった。暑い日はボトルを用意するのだが、それを1人で準備していた。そんなボトルを誰も飲まない日もあったかもしれない。練習試合の日や、公式戦の日はマネージャーがビデオを撮ることになった。ただでさえ人数がカツカツのチームにはそうするしかなかった。本当に価値があるのかわからない仕事を文句ひとつも言わずにいつも真面目にこなしてくれた。委員会や塾などで普段から集まりが悪く、何を目指しているのかもわからない部活を辞めずにずっといてくれた。嬉しさもあったが、申し訳なさも非常に大きかった。こんな部活にいさせて本当に大丈夫なのか、本当は部活が嫌いなのではないか、やめる勇気がないだけなのだろうか。そんな考えをめぐりにめぐらせ日々が過ぎていった。
 
そして、あの日もビデオを撮っていた。自分のサッカーで人を泣かせたのは初めてだった。もしかしたら自分のサッカーじゃないかもしれないけど、まあいい。その涙で彼女の今までが報われたと思えたら嬉しいと思う。
 
誰から見てもただの1試合。それでも、自分は涙したマネージャーがやはり影で応援してくれていたんだな、俺らの勝敗を気にしてたんだなって思うと込み上げるものがあった。
 
ア式にきてランテスト合格後、ビジョンについて共有された時、「明日への活力になる」という言葉を見て、これだと感じた。そしてプロになって何がしたいかが明確になった。
 
誰かが自分を見て活力を、感動を、笑顔を、多くを与えられるような選手になる。
 
誰かのために
 
この言葉を胸に残り短い大学生活を全力で駆け抜ける。



小泉和(こいずみやまと)
学年:2年
学部:スポーツ科学部
前所属チーム:横浜サイエンスフロンティア高校


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