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「未来と過去を交信する男」 4年・中山尚英

『10年後にはきっと、せめて10年でいいから戻ってやり直したいと思っているのだろう。
今やり直せよ、未来を。10年後か、20年後か、50年後から戻ってきたんだよ、今。』


その日は大雪でも降っていたのか、それともどこかに隕石でも落ちたのか。
全く読書をしない私が、久方ぶりに本を買った。大学3年の春頃だったと思う。


これは、その時に出会った言葉だ。

その本には、この言葉の作者が不明だと書いている。
誰が言ったかわからないこの言葉に、私は強く惹かれた。


この言葉と出会ってから、
私は本当に未来から、過去をやり直すために大学時代に戻ってきたのかもしれない、
って時々、考える。
『アバウト・タイム 』の主人公が、大切な人との人生をやり直していくように。


大学生時代の自分のことを、30歳、40歳、70歳の自分がどこか木陰に隠れて見守っているかもしれない。
え、今すれ違ったおじいさんはもしかして、、。


そうなると、未来の私は、今の私に何をやり直して欲しいのだろうか。
何を後悔しているのか。
当たり前に、未来なんて誰にもわからない。虚像でしかない。

でも、想像はできる。


きっと、なりたくなかった大人になってしまった自分が、過去の後悔に縛られてどうしようもなく毎日を過ごしていて、
「あの時もっとこうしていれば、俺はもっと、、」

テレビやSNSを見て、
俺とは別の誰かが、もしくは身近の人が、
かつて自分が掲げていた夢や目標や生き方をかなえていて、自分自身が憎たらしく思えてくるのだろうか。
「どうしてあそこで諦めた」「もっと向き合えただろ、どうして、、」。


そしてこう思うのだ。

「やり直したい」


容易に想像できる今の自分にも、恐ろしさを覚える。


私はこの言葉と出会って、
日々の疲労感やなんとなく抱く満足感に、違和感を覚え始めた。

なんか違う。


そんな満足感に立ち止まったら、
このまま、終わってしまうんじゃないか。

時間よりも前を進んでいたい。


毎日を積み重ねるという意味が、

今日が未来の自分も納得するほどの一歩であったかどうか。
なりたい自分の姿へ続くものであったかどうか。

「今」はそのためにあると、心から思うようになった。


でも、未来を想像し、その決断を考えるほど、

未来へと進んでいる実感がない時、一層辛い気持ちになる。そして強烈な不安に襲われる。


特に4年目はそうだ。
新型コロナウイルスでサッカーができない日々。
怪我の多発でリハビリの繰り返し。
思うようにいかないプレー。
裏腹に、チームがうまくいっている。
同期がチームの先頭で戦う姿が眩しくて、自分を疑いたくなる。


自分が望んでいた4年目ではなかった。
たまらなく苦しい。
泣きたくなるほど悔しい、腹立たしい。
なりたい未来に全然近づいていない気がして。


未来の自分は、今のこの日々を、後悔するのだろうか。
「せっかくこの時代に戻ってきたのに、結局何も変えられなかった」と、嘆き苦しんでいるのだろうか。


もっと、試合に出たかった。
ゴールを決めて、歓喜の輪の中心にいたかった。

そこでまた私は考える。

今の自分は、未来からこの時代に戻ってきたように、
4年前の入学時からやり直したいと思っているのか。

大学時代の自分は想像した以上に過酷な現実を突きつけられて苦しい思いをするから、
大学選びから、いや浪人する前からやり直せ、と?


答えは、絶対にノーだ。断固拒否。100%ない。


どこでもなく、このア式蹴球部でよかった、間違いない。心の底からそう思う。

この4年間は最高だった。

自分自身が思い描いた姿とは程遠いものだったのに、なぜか私はそう思う。
求める姿を諦めたわけじゃなく、
むしろ抗い続けたにもかかわらず。


そうか、早稲田大学ア式蹴球部。

身の回りにいる人や、その人たちの行動や、彼らと一緒になって作り出す環境がとにかく刺激的で、情熱に溢れている。


いつも自分の先にあって、
立ち止まったらおいていかれそうな、そんな気持ちにさせてくれる。

今ここにいられることが何よりも幸せで、だからこそ、この地で強く示したいものが明確にある。

先を行く、彼らを追い越した先に、
どんな世界が見えるのだろうと、
いつもその悔しさには、希望に溢れている。


「だから、お前も同じ未来を歩んでこい、過去の自分よ。」


そんな彼らと一緒にサッカーをするのは、とてつもなく貴重な時間で、
きっと、これからの人生の糧になるから。

だから、
「未来に不安になるな。志のままに進め、そのこだわりは間違ってない、そのまま行け。
悔しい思いはたくさんするけど、それすらも原動力に変えてくれる場所だから。」

過去の自分にそう伝えたい。


そして、これから、
私はどうなっていく。
ア式でなくなった私は、孤独と闘う。
同期や仲間を思い出しては、孤独を感じ、未来が不安になるのだろうか。

想像できないほど、
辛く険しい日々になるだろう。
これまで以上に、
なりたいものを追い求める時、
悔しいことの方が圧倒的に多いはず。
その時、また、「やり直したい」と思うだろうか。


だから明日、もしくは明後日、いつの日か、


すれ違うおじいさんも、
今の私にささやいて欲しい。


「未来に不安になるな。志のままに進め、
そのこだわりは間違ってない、そのまま行け。
悔しい思いはたくさんするけど、心ゆくままに行け、朽ち果てるまで行ってしまえ、
お前の人生は、最高のゴールで、締め括られるから。
ワシは孫と、ボールでも蹴って待つことにするよ」と。

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中山尚英(なかやまなおひで)
学年:4年
学部:スポーツ科学部
前所属チーム:日章学園高校


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