見出し画像

【#Real Voice 2022】 「進化論」 1年・谷川宗士

プロローグ

今回、この場を通して、自分の考えを綴ります。他の部員とは少し趣旨が異なるかもしれませんが、せっかくなのでストレートに本音で語ります。


今、早稲田大学ア式蹴球部の一員として過ごしていて、自分がどれだけ恵まれているのか分かった。ア式の人達との出会いは衝撃的。自分の思考の浅さを感じる毎日。忍耐力、頭の回転、思考力、社交性、話術、思いやり、笑い。サッカーよりずっと大切な魅力を持っている。

そんな組織で過ごせる毎日は、「サッカー」があったから。サッカーが自分をここまで導いてくれた。自分がやってきたことが間違っていなかったと実感が湧いた。

学生時代、サッカーにだけ取り組んだ結果、社会人になって「サッカーが上手い」とか、「日本一になった」とかの実績の無力さに苦しむ人は残念ながら多いのではないだろうか。自分は夢を追いかけるプロセスに大きな過ちがあると思っている。

そんな犠牲者が減り、サッカー人気復活のために、日本サッカーの育成に愛の鞭を打つ。




動機

 3歳からサッカーを始めて、気づけば16年間サッカーをしている。いろんな経験をしてきたが、上手くなりたい、ゴールを決めたい、絶対に負けたくないという気持ちは一切変わらない。しかし、それがどれだけ特別で、周りに恵まれた結果なのか分かってきた。今現在、自分よりも評価の高かった選手達よりも恵まれた環境でサッカーを続ける事が出来ている。自分の経験から見るサッカー育成年代の在り方と、今後の自分の在り方を整理する。

谷川宗士1

進化

 自分はどうすれば上手くなれるのかよく考える。自分は勿論、他人が上達する姿を見るのもワクワクする。小中高、そして今も周りがどういう思考で行動をしているのか興味深く観察していた。
中学では毎週ボランティアで少年団の後輩達25人くらいにサッカーを教えたり、高校・大学は日本中の優秀で個性的な人に出会った事は貴重な体験となった。
そして、サッカーに限らず、野球などの他のスポーツ界や芸能人、政治家、受験生など、いろんな分野に対してもアンテナを張ってきた。その中で、サッカーのみならず物事を進化させる術が分かってきた気がする。今自分が分かっている3つを紹介する。


1.常識にとらわれない

自分は、常識外れのチームに所属していた。小学生は王子FC(当時は宮本FC)、中学生はサンターリオFC、高校は静岡学園。これらのチームは一般的な考えとは少しずれていた。


まず、小学校で所属した王子FCについて。

実は、自分はヴィッセル神戸U-12にも所属していた。ヴィッセルは人工芝やサッカー経験者の指導、平日練習など、環境は抜群。ストイックでまじめな選手が多かった。試合に1秒も出られない人がゴロゴロいる、よくある強豪チームだった。

でも、王子FCは違う。毎週末当たり前のように試合や大会がある中で、お父さんコーチ達が企画する「ガリガリ君」や「焼き肉食べ放題」を勝ち取るために試合をしていた。試合会場ではチームメイトとハメを外して遊び、試合開始時間に誰もいないなどの光景は見飽きる程。普段の試合は勿論、全日本少年サッカー大会(全日)のチーム史上初の県大会でも6年生全員を出場させるチーム。毎日が、修学旅行とかの学校行事の数兆倍は面白かった。

卒業間近に王子FCとヴィッセルで試合があり、なんと王子FCが勝った。たった1試合だが、ほぼ全員がJのジュニアユースに上がるヴィッセルに対して、焼き肉のために練習や試合をしている王子FCが勝ってしまうのだから、Jのコーチよりお父さんコーチの指導の方が優れているのではないかと小学生ながら感じた。


次に、中学で所属したサンターリオFCについて。

自分は1期生だったが、ジュニアユース昇格や地元の名門クラブなど頭の片隅にもなかった。サンターリオFCは「文武両道」が当たり前。練習メニューや公式戦のメンバーも選手達で決めていた。自分自身は飛び級で国体や関西選抜、C大阪ユースや静岡学園の練習なども経験できた。同期たちは県トップの進学校合格を勝ち取るなどしたけど、チームとしては結果が出せなかった。その価値が世間に伝わる事は難しく、周りのチームの選手やスタッフからかなり馬鹿にされていた。
しかし、当時1学年13人だったチームも今では各学年30人以上となり、文武両道を貫きながら県大会3年連続出場とそこそこ有名なクラブに成長したらしく誇りに思っている。噂によると当時、馬鹿にしていたチームがサンターリオの真似をしようしていると聞くが、既存のチームが簡単に出来るとは思えない。


最後に高校で所属した静岡学園。

高校進学時は複数のJユースや多くの高校から声を掛けて頂いたので地元の進学校を含め多様な選択肢を持てた中で、静学を選んだ。その魅力は学業重視のクラスに在籍出来る事、個人技を磨く静学スタイル。勝利至上主義が横行する高校サッカー界であるが静学は個人の成長が優先。そして、勉強は先生が熱心にサポートしてくれ、監督・コーチやチームメイトは授業や模試で遅刻して参加する迷惑な自分を快く練習に迎え入れてくれた。テスト期間になると練習時間は短縮され、先生の高いクオリティのおかげで成績が落ちる事は無く、サッカーの強豪校にしては珍しい高校だった。事実、中学では無名だった選手たちがプロや難関大に進んでいる。


自分が所属し成長できたと感じる常識外れなチームを紹介してきた。この3チームに共通することがある。それは「指導者のベクトル」である。多くのチームの指導者は「チームファースト」であり「勝負の結果」だけを見ている。チームが勝つためなら、選手の犠牲は仕方がないと考えている。子供は大人に対してはどうしても受け身になり「他律」にならざるを得ない。しかし、自分が所属した3チームの指導者は「選手(個人)」を見ている。「選手(個人)」に自由を与えた結果、選手は主体的に行動し、刺激的な成功と失敗の経験を積み重ねる事が出来る。
自分自身も指導者達に主体性を尊重して貰い、「自律」に向かって成長出来た事で人生の岐路の度に豊富な選択肢を持つことが可能になった。


2. 本質を見抜く

 育成年代のサッカーをしていると、ベンチや保護者席から強烈な罵声がよく聞こえる。でも、サッカーは自分たちで考えるスポーツ。それが本質。ベンチの指示を待つ野球とは違う。なのに、ミスや失点をすると怒られる。しかも、大昔の日本でサッカーが普及していないような時代の元プロや素人のお父さんコーチが怒鳴っている。さらに中学の時には自チームの選手や相手のコーチにボールをぶつけてブチギレしている元プロの指導者もいたのには驚かされた。どういうつもりだったのか聞いてみたいものだ。こういう指導は、先に述べた「自律」とはかけ離れている。そして何よりも、子供達がサッカーを嫌いになる。元プロか素人かは知らないが、ベンチからボロカスに言ったところでその子はもちろん、チーム、対戦相手、会場の楽しいはずの雰囲気がぶち壊れることを理解しないといけない。


親も、我が子を厳しい環境に置いた方がプロになれるとか、チームのエースになれると考えている人が多い。それは大きな間違い。文句や罵声を浴びて成長した人は聞いたことないし、世界のトップクラスの選手も静学の同期もサッカーを続けている人は皆、自主的に楽しんで技術を磨いている。世界トップレベルの選手が厳しい環境で育ったと言われているが、生きることが厳しいのであってサッカーで怒られる厳しさではない。


3. 楽しむ

 まさに、「好きこそ物の上手なれ」である。王子FC、サンターリオFCは選手もコーチも本当に笑顔が絶えなかった。一瞬でもサッカーが嫌になった記憶は無い。大人が過度に管理することに嫌気がさしていた学校生活から解放され、グラウンドでサッカーをすることが楽しかった。自分には「サッカーは楽しい」という細胞が小中学生で脳に刷り込まれている。そして、静学も高校生という厳しさはあるが、ボールを大切にするスタイルなので楽しいサッカーが出来た。前に蹴るだけの縦ポンサッカーをしていたら、楽しいとも上手くなりたいとも思わなかっただろう。小中高で所属したどのチームもサッカーを楽しむ環境を与えてくれた。今、サッカーを思うように楽しめていない人がいるなら、参考にしてほしい。

 そして、自分の中にある信念として、サッカーは紳士のスポーツで、サッカーに関わる全ての人(味方、対戦相手、審判、観客など)にフットボールを楽しんで欲しいと思っている。だから絶対に試合中に文句は言わないし、どんなシーンだろうと相手を危険にさらすプレーもしない。誤審に一切の文句も許さない。まあそれが自分のウィークポイントかもしれないが・・・。体育とかでも、みんなにサッカーの楽しさを知ってほしいと思い、幼少期からアシストに徹していた。それも、王子FCでの「誰もがサッカーを楽しむ権利がある」という教えのおかげ。
 それが当然と思っていたが、サッカーに限らず、未だに素人や年配者相手に無双する事を楽しいと思っている自分本位な人間が多い。それを見る度に、日本のスポーツ界が心配になり、心が痛くなる。

谷川宗士2



サッカーがあるから今がある

 現在、早稲田大学ア式蹴球部での1年目が終盤に差し掛かる。サッカーをしていたおかげで、日本はもちろん世界中に様々な分野でセンス溢れ切磋琢磨する人と出会えた。もし、サッカーをしていなければ、くだらない地元愛に縛り付けられ、狭いコミュニティしか知らない恥ずかしいイキり大学生になっていたかもしれない。サッカーはこんな自分の世界を広げてくれ、サッカー以外の人生経験も積める。だから、多くの子供達にサッカーを続けて欲しい。

しかし、王子FC、サンターリオFC、静岡学園のような「サッカー以外の事も大切に」という考えが日本のスポーツ界に浸透してきたとは言え、まだ少数派。あまりにも時代遅れな指導。育成年代の小中高生にサッカーだけ指導すればよいと考える指導者が多く、教え子の挨拶を無視するようなJユースの指導者が勘違いして偉そうにしているのが、嘆かわしいが現状である。



最後に

 以上、自らの経験を踏まえサッカーの育成についてまとめてみた。自分はサッカー以外でも勉強などいろんな困難に直面してきたが、サッカーで学んだ「常識にとらわれない」「本質を見抜く」「楽しむ」を胸に、乗り越えてきた。おかげで大学生となった今、多くの常識が大間違いであることに気づき、常識を疑い本質や面白さを探すようになった。このことをサッカーが教えてくれた。


 なかなか大口をたたく一文になったが、今シーズンの自分は理想とは程遠い。今もまだ自分を導いてくれているサッカーへの恩返しの為にも、覚悟を持って2年目に挑みたい。

谷川宗士
学年:1年
学部:創造理工学部
前所属チーム:静岡学園高校

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?