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「偽善者の目指す”日本一”の主務」 3年・羽田拓矢


『偽善者』


黒板に大きく書かれたその文字に驚くわけでもなく、落ち込むわけでもなく
妙に納得する自分がいた。

「俺って偽善者なのか。」 
「なるほど。」

高校3年生の時に、同じクラスでサッカー部の同期に書かれた言葉だった。



2021シーズン



早稲田大学ア式蹴球部で主務を務めます、羽田拓矢です。



何卒宜しくお願い致します。



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唐突ですが

そう、私は選手ではありません。マネージャーです。



1924年の創部以来、選手兼主務という形で脈々と受け継いできた主務という役職に

初めてマネージャー兼主務という形で就任します。



新たな挑戦です。



選手兼主務と何が違うのか。

そう思う人もいるのではないでしょうか。



早慶戦を1から作り上げ、当日は選手として2万人の観客の前でピッチを駆け回る。

チームマネジメントを通して、チームの基盤を作り、部員の最大限の力を引き出す。それでいて、関東リーグに出場して選手としても早稲田を勝利に導く。



そんな選手兼主務の、いわゆる花形と言われる

そんな夢を見ることはできません。



過去3年間


自分が生で見てきた、選手兼主務の姿はかっこよくて、泥臭くて憧れでした。




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秋葉さん

言わずと知れたスーパー主務

関東リーグ優勝を手繰り寄せたチームの大黒柱。


秋葉さんは同じ都立駒場高校出身の先輩。

都立駒場では入れ替わりで被ってこそなかったけど、

全国出場が目標でありながらも、なかなか掴むことのできない駒場において、

関東大会優勝を達成した代の副キャプテンであり、一般受験で早稲田に現役合格した秋葉さんの話はよく耳にしていた。



高校時代、指定校推薦で一足早く早稲田への進学が決まっていた私は、秋葉さんの元を訪ねた。

正直な話、駒場から早稲田に行って、Aチームにいることも凄ければ、主務としてチームの先頭に立って、サッカー以外でもチームを引っ張る秋葉さんの話はめちゃくちゃかっこよかった。
この人の元で頑張ってみたいと思った。

秋葉さんは、ア式に入るきっかけをくれた、そんな人。



1年生マネージャーとして入部した私は、
妙に意欲や気概はあるものの、何の戦力にもならないお手伝いさんでしかなかった。

正直な話、秋葉さんが普段何をしていたのか分からなかった。

何食わぬ顔で練習にいるし、何食わぬ顔で早慶戦の運営を進めているし、

仕事の大変さを一切見せない秋葉さんを見て、当時は何が凄いのか分からなかった。



今だからこそ分かる。

秋葉さんは
みんなの知らない所で、主務の泥臭くも重要な仕事を完璧に遂行していた。
誰に頼ることもなく、弱音もはかず、淡々と。

それだけじゃない。



「マスコット誕生」「スポンサー獲得」



今後のア式の発展のために重要な種を蒔いて、その後を後輩の私達に任せてくれた。



辛いところ・苦しいところを見せずに完璧にチームマネジメントをしながら、

関東リーグに出場して関東優勝の立役者となった秋葉さん。



秋葉さんは俺の永遠の憧れであると同時に、この人のようにはなれないなと、
常に違いを見せてくれるそんな主務だった。


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ゾノくん
俺はこの人が大好きです。


飾らない、自分のありのままの姿でいるゾノくん。
何があっても優しく受け入れてくれるゾノくん
。
俺はこの人みたいに正直に生きれないな。
どこまでも正直で、かっこ悪いところも隠さないゾノくんだったから一緒にいて心地よかった。
この人のために頑張りたい、少しでもゾノくんの力になりたいと思わせてくれた。

そして、

ゾノくんは主務として早慶戦に出場した。

まさに主務として一番示したい姿を体現したと思う。

正直、ゾノくんが選手としての準備で仕事ができないから(ただサボっていただけかもしれない笑)

俺と西前くんの仕事は多かったし、きついこともあった。
でも、2個下の生意気な後輩マネージャーを信頼して、いつも味方でいてくれたゾノくんを最高の形で早慶戦の舞台に送り出したかった。

あの秋葉さんですら、早慶戦の前はなかなかコンディションが整わず、早慶戦に出ることは叶わなかった。

「主務が早慶戦で輝く」
そんな舞台を作りたかったから、孤独な夜も戦うことができた。



主務としての姿がどうだったかは分からない。
スーパー主務の翌年ということでやり辛さも間違いなくあっただろう。
それでも、一人の人間として、暖かくも飾り気のないそんなゾノくんが大好きだった。


みんなから愛されるゾノくんの主務はかっこよかった。


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西前くん
スーパー主務とはなんか違う。
秋葉さんほどスマートじゃないし、細かいことは苦手だし。

でも、
圧倒的な熱量・強い意志とそれを実行する圧倒的な行動力は凄まじかった。

みんな口を揃えて言う。
「今年の4年生は素晴らしかった。」

だけど、西前くんがいたから、西前くんにしか頑張れない領域で体を張ってバトンを繋いでくれたから、2020年、チームは最後まで走り抜くことができた。



西前くんは「“日本一”の主務」だったと思う。

だからこそ、#atarimaeni CUPで優勝して何としても西前くんを
正真正銘「日本一の主務」として送り出しかった。



そして、西前くんはどこまでも人間らしく、生の人間だった。

西前くんは多分俺よりも「善い人」には遠いと思う。(笑)

時には呆れるほど自分のために行動するし、そんな姿見せないでよって思うほどかっこ悪い時もある。

だけど、チームが日本一を達成するために、部員が全力で打ち込むための土台を作り、部員全員を熱くさせる西前くんの妥協のない行動と言葉には尊敬しかない。

彼の言葉が、彼のマネジメントが今季どれだけチームを救ってきたか。
今年のチームにとって西前一輝の存在は大きく強く、必要不可欠な存在だった。


西前くんを日本一の主務にできなかったこと、
西前くんを早慶戦の、関東リーグの舞台に選手として送り出せなかったことだけが心残り。



絶対にこの人にはなれないなと思う反面、
西前くんみたいな強さも自分には絶対必要だと思った。

常に自分の課題を突きつけてくれる、そんな存在。

「西前くん面倒な仕事押し付けてきたな」「うわ、西前くんだるっ」

時にはそう思うこともあったけど、

結局、最後の最後で「西前くんすげーわ」「この人カッコ良いわ」
必ず尊敬の念を抱かせる、

そんな「”日本一”の主務」だった。




さて、

2021年の主務 羽田拓矢

こんなに素晴らしい主務の人たちに比べて自分にはどんな武器があるのか。
ただでさえ、選手ではない。

足りないところを探せばいくらでも出てくる。

常に不安はあった。
学年の同期とどんなに来年のチームについて話し合おうとも、
この同期とともに必ず日本一を獲る、そんな覚悟と思いを持っても、



自分に対する不安は中々拭えない。

どこかで、自分を信じられない、足りないところを探してしまう自分がいた。

私は、人のため、特に自分の好きな人のためであればどんな努力も惜しまない。
どんなに泥臭くても、あらゆる手段を使って目標を達成しようとする。

見せかけはすごく良いだろう。

しかし、その根本にある思いは、期待に応えたい、好かれたい、認めてもらいたい
そんな自分本位な気持ちでしかない。


人のためと言えば聞こえは良いが、結局のところ自分が満足するため、
より良い自分でいるための手段が<人のために>行動することなのである。



こんなことを自分で言うのも烏滸がましいが、初対面の人やあまり関わったことのない人から「善い人」と思われることは多いだろう。
笑顔で愛想良く、相手に適した言葉遣いでコミュニケーションを図る。
そんな私の姿は「善い人」と映りやすいだろう。


対して、私のことをよく知る人や仲の良い友人は、
私に対して「善い人」という印象を持たない。
それは、私が考えて、あたかも善い人のように振る舞う上手さを知っているから。
強いて感心されるポイントを挙げるとしたら、そのずる賢さや、外面の良さだろう。



親しい友人が知っていることを当の本人である自分が知らない訳がない。
自分が一番痛いほどわかっている。

「俺は善い人ではない。」


そんな自分だからこそ、
黒板の「偽善者」という言葉を見ても驚かなかったし、落ち込みもしなかった。

何なら、とても的を得ているし、最適な表現だなと感心したくらいだ。

今までの話からすると、

「自分は善い人であろうとするために考えを巡らせる、ずる賢い人間だ。だから残り1年間でそんな自分を変えたい!」


そんなブログの流れを想像しただろうか?



答えは、「NO.」



何なら、小学生の頃から朧げに気づいていたこの性格を
大学ラスト1年間で変えられる訳がない。

これは、諦めでも何でもなく、
ありのままの自分の姿であり、自分のアイデンティティだ。



2年前、当時1年生だった私は、そんな自分を変えようと試みた。



↓1年時の部員ブログから一部抜粋

今まで自分が行動するとき、人をモチベーションとして行動してきた。あの人のために、みんなから好かれたい、感謝されたい、そんな思いを持って。目の前のことに一生懸命になっていれば道は開ける、そう思ってやってきた。
そろそろ人から卒業しよう。
誰よりも気づける存在に。憩いの存在に。ピッチの外にはアイツがいる、アイツも戦っている。だから安心してグラウンドで俺らも戦える。そう選手に思わせる存在に。


結論。


人から卒業することはできなかった。
私のモチベーションの根源は人であり、その人のためになりたいから頑張れる。

小学校・中学校・高校と12年間選手として続けたサッカー人生は
ほとんどBチームの選手として過ごした。

そんな自分がなぜ、サッカーを続けてきたのか、大学でもア式を選び、マネージャーを選び、主務になる決断をしたのか。

それはまさしく、
羽田拓矢という人間が、サッカーを通じて出会った人間を好きになり、夢をもらっていたからである。

その人たちの夢のために自分はできることを最大限やりたい、
そんな思いが今まで自分を支えてきた確かな思いである。

先述したように、その根底にある思いは、
「自分のため」かもしれない。

それは大いに認める。

究極の自己満足の方法と言われても仕方ない。

それでも、



今この人は何を欲しているんだろう
どんな声かけを待っているのかな
どのタイミングで渡すのが良いかな
こうしたらもっと輝けるかもしれない
もしかしたら後悔をひとつなくせるかもしれない
一緒に歓喜の瞬間に立ち会えるかもしれない



そんなことを考えたら、胸が踊って仕方ない、

心が奮い立つ。

俺にはまだまだできることがある、

もっと考えて、もっと力になれるんじゃないか。



「俺は善い人ではない。」

それ以外は正直分からない。
どう接すれば正解なのか、どう思われたら正解なのか。

でも、
その人を一番応援できる存在でありたいし、そうあるための行動を取り続ける。

俺の行動が、もしかしたら誰かの夢を叶える一助になるかもしれない、

夢を諦めようとしている人の踏ん張るきっかけになるかもしれない。



サッカーを通じて、サッカーで出会った人から夢を貰ってきた私はどんなに小さな形でも恩返しをしたい。


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2021年1月21日

2020シーズンの活動が終わった。

引退が決まり、悔しさと4年間の思いが込み上げる4年生の前で、
4年生に笑われるくらい泣いた。
何でか分からないけど、ちでぃ(千田奎斗)と話していたら涙が止まらなくなって、そこからは自分でも制御できなかった。



その夜、虚無感と疲労感(恐らく泣きすぎたせい)に襲われるのも束の間、
2021シーズンに向けてチームは動く。

もう俺の前で引っ張ってくれる、示してくれる偉大な主務の先輩たちはいない。

「ああ、俺が主務なんだ」

その瞬間自分の中で覚悟が決まった。

同時に、秋葉さん、ゾノくん、西前くんの姿が目に浮かんだ。

彼らは
「俺みたいになれ」「俺のように〜しろ」
なんて言葉は一切言わなかった。

きっと知っていたんだろう。

誰かの真似っこじゃ務まらないことを。

究極の自分らしい姿で取り組むことが大切であることを。

きっと歴代の主務達はみんなこうやってバトンを繋いできたんだ。
日々自分と葛藤し、チームと葛藤し、
長くも短いラスト1年のシーズンを駆け抜けてきたんだろう。



「さあ、今度は俺の番だ。」


今年の4年生が達成できなかったリーグ制覇・日本一の目標を必ず達成する。

1stたる姿を必ず体現する。


今年の4年生はア式の歴史においても変革期となる、そんな基盤を築いてくれた。

しかし、それを私達が発展させなければ4年生の功績は認められない。

日本一にしたかった、そんな4年生達を
日本一の組織の土台を形成した、功労者としてア式の歴史に刻み込めるように。

必ず、2021シーズン、自分達の代で、4学年全員で掴み取る。



そのために俺は主務として


「 ”日本一” チームを愛せる主務になる」


俺には秋葉さんみたいなスーパー主務にも、ゾノくんみたいな誰からも愛される主務にも、西前くんみたいな”日本一”の主務にもなれない。



でも、チームを心から愛し、部員を心から尊敬し、サポーターをそんなチームに巻き込む。


そのためにいくらでも自分を奮い立たせ、戦い続けることができるだろう。

なぜなら、
ア式は、ア式の部員は、ア式に関わる人々は、サッカーを通じて俺に大きな夢を与えてくれた大好きなものだから。


偽善者だろうと何でもよい。

目的を持って行う自分の行動に、迷いはない。


今いる73名の部員と、2021年から加わる1年生全員の力を最大限発揮できるよう
ア式のために、部員のために、ア式に関わる全ての人のために
自分の持てる全てを懸ける。


誰かにとって善い人になれるかは分からない。

それでもその人を支える、少しでも助けようと、
全身全霊を尽くすことはできる。



2021シーズン
ア式蹴球部の1年の軌跡に
ご期待とご声援を宜しくお願い致します。


    羽田 拓矢



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羽田拓矢(はだたくや)
学年:3年
学部:人間科学部
出身校:都立駒場高校


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