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アジア初上陸!シンガポールで開催された「Asia Satellite Business Week」で見えた、衛星ビジネスのブレイクスルー

毎年パリで開催される衛星ビジネスに特化した世界最大級のカンファレンスイベント「World Satellite Business Week」のアジア版「Asia Satellite Business Week」が2022年6月1日から3日にかけて、シンガポールで初めて開催されました。

視察に行ったワープスペース・CSOの森が会場で語られた内容を振り返ります。

会場の様子

宇宙ビジネスカンファレンス、なぜアジアで開催?

「World Satellite Business Week」は、宇宙専門の調査・コンサルティング会社Euroconsult(ユーロコンサル)が毎年開催している衛星ビジネスに特化したカンファレンスイベントです。

そのアジア版である「Asia Satellite Business Week」が、およそ2万人が参加するシンガポールの展示会「Asia Tech x Singapore」で、AIや5Gなどの重要トピックとともに開催されることになったのです。

Asia Tech x Singaporeの会場の様子

Asia Satellite Business Weekが開催された背景には、宇宙産業の市場全体が拡大しているのに伴い、アジアの市場も成長していることがあるでしょう。加えて、アジアは島国が多く、昔からB to C向けの通信にも衛星を利用していた地域が多くあり、今後はさらに衛星通信の需要が伸びていくのではないかと事業者から注目が集まっていることも後押ししたのではないかと考えられます。実際に来場者は、老舗の衛星通信事業者のCXOやVP、アジア拠点のゼネラルマネージャが多い様子でした。

衛星通信事業者のブース

Asia Satellite Business Weekのパネルディスカッションのテーマとしては、衛星通信や地上局、地球観測、ロケットによる輸送など様々なテーマのものがありました。Asia Tech x Singaporeの1イベントとして開催されているだけあって、ファイザーのアジア拠点の代表が登壇するヘルステックがテーマの基調講演や、IT・スタートアップに詳しい日本経済新聞社の田中 暁人氏による基調講演など、異業種で活躍する方々が登壇されるセッションが設けられていて、ユニークでした。

衛星事業者がぶつかる壁

ここからは、特に面白かったパネルセッションを2つ紹介していきます。

衛星データの民主化に求められるのは、ソリューションの質

まず一つ目は、2日目の「Revolutionizing Earth Observation: From Data to AI and Analytics(地球観測に革命を起こす、データからAI・解析へ)」です。

©︎Asia Satellite Business Week

Euroconsultのシニアアソシエイトコンサルタント Stephane Chenard氏がモデレーターを務め、衛星事業者のMaxar Technologies、BlackSky、HEAD AEROSPACE、SatellogicのCEOやVP、事業開発責任者らが登壇しました。

話題に上がったのは、衛星データの価格についてです。アメリカの国家偵察局(NRO)をはじめとする政府機関などに衛星データを提供しているMaxar TechnologiesBlackSkyの価格設定は、一般の利用者には手が届かないような金額感になっています。

モデレーターのChenard氏は、衛星データが一般に普及していくためには、ユースケースを増やしていくことが重要であると指摘しました。AIによる分析の精度は上がってきているので、データを取得する頻度が増え、衛星に搭載されるセンサの種類が豊富になっていけば、ユースケースは増えていくはずです。

実際に、Satellogicは1機の衛星に、マルチスペクトル、ハイパースペクトル、60秒間のビデオ撮影の3つのセンサを搭載していて、データを提供するまでのレイテンシー(遅延時間)を削減するための取り組みにも力を注いでいます。

また、中国に本社を構えるHEAD AEROSPACEが構築を進める衛星コンステレーションは精度が高く、分解能はMaxar TechnologiesやBlackSkyのものに劣らないほどです。

HEAD AEROSPACEの事業開発ディレクター Oscar Delgado氏が、より良いソリューションを開発することで、サービスの提供価格を下げられると話すと、ほかの登壇者からは、いつ頃実現できそうなのかといった質問が出ていました。

小型衛星が変える宇宙利用

次に紹介したいのは、3日目の「The Smallsat Ecosystem Revolution in Motion(小型衛星エコシステム革命が始まった)」です。このパネルディスカッションには、日本初の商用地球観測衛星コンステレーションを構築した、アクセルスペースの代表取締役CEO 中村友哉氏をはじめ、世界の衛星関連事業者とロケット事業者の創業者や役員ら6人が登壇しました。

©︎Asia Satellite Business Week

登壇企業のなかで今回注目したいのは、Astranis(アストラニス)とANYWAVES(エニーウェイブス)です。

Astranisは、サンフランシスコに拠点を置く、ベンチャー企業です。静止軌道(GEO)には、通信や気象など、政府による数トン級の大型衛星が多く打ち上げられていますが、Astranisはわずか数百kg級の小型衛星をGEOに打ち上げ、通信や放送サービスを提供しようとしています。

衛星を小型化することで、打ち上げにかかる費用を大幅に削減できる上に、衛星の開発・製造にかかる期間を短縮できるので、早く収益を上げられるようになるのがAstranisの取り組みのメリットです。

ANYWAVESは、フランス国立宇宙研究センター(CNES)のスピンオフ企業で、宇宙機向けのアンテナやソリューションを提供しています。一般的に衛星事業者は、衛星と地上の通信に使われる周波数は混線を避けるために、衛星事業者は周波数の国際的な調整をしなければなりません。近年は打ち上げられる衛星の機数が増加したことにより、割り当てられる電波の周波数資源の枯渇が懸念されている状況です。

そこでANYWAVESは、同じ周波数帯域でも干渉せずに通信できるソリューションを開発するなど、限られた周波数資源の効率的な利活用に取り組んでいます。

パネルディスカッションから見えた、光通信のポテンシャル

2つのパネルディスカッションでは、宇宙における通信インフラの脆弱性が浮き彫りになりました。高速かつ大容量の通信が実現すると、衛星1機あたりが取得できるデータの量が増えるため、データの価格を抑えられるようになります。さらには、衛星が取得したデータをリアルタイムに地上に届けられるようになるので、用途が広がります。

©︎ワープスペース

私たちワープスペースが取り入れようとしている光通信は、今まさに実証が始まろうとしている技術です。導入すると衛星の小型化や消費電力の削減、セキュリティの向上などが期待されています。周波数調整が不要であることも魅力です。

今回のAsia Satellite Business Weekは、光通信の普及が衛星ビジネスの成長を後押しできると改めて実感する場となりました。


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