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縁側で暮らした1週間のこと

お金を使わない、ご飯をたくさん食べない、散歩に出かけない。この3つは自分にはできない生活だと思っていた。
が、和歌山の田辺というまちで暮らした1週間は、買い出し以外にお金がかからず、少量の食で満足し、わりと家の中にいた。
とくにストレスも感じず、後から振り返ってみて「欲の少ない1週間だったな」と思った。

和歌山県田辺市の近露。
熊野古道沿いの集落に1週間滞在したときの備忘録。

名前すら知らなかったまちに一目惚れした

近露の棚田と民家と山

近露のことは、ADDressがなければ名前すら知らなかったと思う。熊野古道が何日もかかる長い道であることも、何種類も道があることも知らなかった。よくポスターで見る苔むした石畳と常緑樹に囲まれた道が、3キロくらい伸びているのだと思いこんでいた。

滞在した3月中旬はちょうど春めいた暖かい気温だった。さすが紀州の梅干しの産地、山にも平地にも梅林がある。満開だった。

車で駅まで迎えに来てもらい、一時間ほどかけて滞在する家に着く。滞在する集落は山と山に囲まれたゆるい谷のようで、一番低いところには川が流れている。山を走るメインの太い車道は1キロほど遠くだ。その集落では川の流れる音と、農作業の音、鳥の鳴き声、くらいしか聞こえない。風が止めばしん、と静かになるような場所だった。

穏やかな川の音と、緩やかな谷に広がる棚田。古道を歩く旅人を迎えるふところの広さを感じるような雰囲気に一目惚れした。

まるで定点観測のように

縁側が定位置に

会社員なので、滞在する7日中5日ほどは仕事をしている。ずっとパソコンにかじりついている仕事だけれど、近露での仕事はいつもより楽しかった気がする(ふだんも楽しいですよ!)。

ストレスを感じる間もなく、溶け出してどこかにいってしまう。縁側の窓を開け放ち、春の風が家じゅうをめぐっている中の仕事は幸福感があった。昼間になると、ごはんを食べることよりも庭から景色を眺めることを選んだ。

ささっとお茶漬けで済まして、あとの40分くらいはずーっとぼんやりする。そんな昼休みの過ごし方をした。

トンビが空を飛んでいたり、どこかでキジが鳴いていたりする中、川向うまで開けた景色を眺めるのは飽きることがなかった。仕事中に開けた景色を見れるのって、すごく大事なんだと思う。

おやつと縁側

昼を少なくした分、おやつをよく食べたりもした。お供は地のもの。まんじゅうや餅、地元のお店のパンだったこともあった。珈琲も、5分ほど散歩した先のコーヒーショップでテイクアウトができる。近露は「熊野本宮まであと一日あるいたら着く」という場所なので、古道沿いに宿や店が多い。

近露のAコープで売られている、地元の人が作ったおもち。
「田舎もち」だったかなあ、古代米にあんこが包まれている。
CABELOのアイスコーヒーと、People Treeのヘーゼルナッツチョコ。

視界が開けていると、塞ぎ込まずに済む

散歩の風景

開けた場所で深呼吸できること、煮詰まった時に顔を上げた先が好きな景色であること。すこやかに生きるには、すごく大事なことなのだと思った。家と家の間が広いのもよかった。景勝地を独り占めするのではなく、ほとんどの家が自分たちの景色を持っているのだなあ、と思った。

近露は今まででいちばんなんにもない場所だった。でも、一番また行きたいと思う場所でもある。なんにもないなんて、今の時代、最大の贅沢なのだ。

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