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スピードガン

明治神宮球場と秩父宮ラグビー場は、目と鼻の距離にある。なので、ラグビーと野球の「掛け持ち観戦」は、それほど難しいことではない。
ラグビーの試合は、14時を少し過ぎたらに終わってしまった。ここのバックスタンドから、お隣のスコアボードを覗いてみる。まだ試合は始まったばかりみたいである。念のためTwitterも確認したが、どうやら前の試合が延長までもつれたらしい。なるほど、今からでも試合の大半は見れそうだ。久々に六大学野球に足を運ぼう。

今日のカードは立大対早大だった。土曜日の試合を勝ったのは立大だった。前節も落としている早大は、もう優勝に向けて負けられない状況である。
僕が外野席へと入場した4回表の段階で、立大が4点をリードしていた。しかし、この後から早大も反撃を開始。5回と6回に1点を入れ、2点差まで詰め寄る。
「焦っているな」と感じたのは、どちらかというと早大だった。早めの代打、そして継投。追い付くためならば、手段は選ばない。総力戦である。

7回表、立大の攻撃。この回にマウンドへ上がったのは早川。期待の1年生左腕であり、春のリーグ戦でも主力として活躍している。
早川は淡々と、二人の打者をアウトに抑えた。非常に良いテンポだ。何より、直球の球筋が良い。急速はどれくらいなのだろうか。スコアボードを確認する。

112キロ

パッ、と一瞬点滅した文字を見て、「?」というマークが頭に浮かんだ。
おかしい。ちょうど内野2階席にある、小さなスコアボード。文字が小さすぎて、最近疲れ目の僕は勘違いしたのだろう。
次の一球を凝視する。ゆっくりとキャッチャーミットに投げ込まれ、ボールが宣告された。今度は外野席の大きなスコアボードを眺める。

94キロ

おかしい。やはりおかしい。
「スピードガンよりも早く感じるボール」を投げるピッチャーがいる。120~130キロ程度のボールが、バッターの視点ではもっと速球のように見える。僕には140キロくらいのストレートに見えるのだが、相変わらずスピードガンは110キロ前後をうろうろしている。そんな投球術を、この1年生は身に付けているということなのだろうか?

ネット社会は便利な世の中だ。彼の過去のピッチングは、検索すればすぐに出てくる。前の週の試合映像が出てきた。バッターを三振に切り取った彼のボールには、「140キロ」という表示が出ていた。
良かった。どうやらスピードガンの故障だな。全く、びっくりさせられるぜ。

そんな検索中の合間に、試合は大きく動いていた。早川は立大打線に3連続で長打を浴び、2点を奪われてしまったのだ。2アウトまでのピッチングが嘘のようだ。ひょっとしたら、早川はスピードガンの表示を見て驚いてしまったのだろうか? ないしは、立大のバッターたちが、スピードガンを見て「このスピードなら打てるぞ」と自信を抱いたのだろうか?
7回表、立大は2点を奪い、6ー2のリードでこの回を終えた。

スピードガンは7回裏から正常な表示をするようになった。この回に早大は2本のタイムリーで2点差まで詰め寄った。8回表、マウンドには引き続き早川が上がった。140キロ代の直球と、120キロ代の変化球が見事にきまり、3者凡退でこの回を終えた。彼が崩れたのは、あの7回表の一瞬だけだった。そして、試合はそのまま6ー4で立大が勝利し、勝ち点を得て幕を下ろした。何とも不思議な7回表だった。

どうもです。このサポートの力を僕の馬券術でウン倍にしてやるぜ(してやるとは言っていない)