松田芳和

一般企業に勤務しながら、名古屋大学大学院の博士課程に在籍。専門分野は国際環境法と国際宇…

松田芳和

一般企業に勤務しながら、名古屋大学大学院の博士課程に在籍。専門分野は国際環境法と国際宇宙法。特にスペース・デブリの問題を研究テーマにしています。その他、国際政治や世界史、防災、社会福祉に興味あり。

最近の記事

繰り返される中国ロケットの「無制御」再突入③:残骸デブリのリスク

再突入後に生じる「残骸デブリ」の地上へのリスクには、依然として不確実性が伴う。人や建物に害を与える可能性は低いとされながらも、残骸デブリの軌道の下に人口密集地が重なることを踏まえると、被害が発生した場合の甚大さが懸念される。 予測  宇宙物体が大気圏に再突入しても、燃焼し切らずに「残骸デブリ」が地表に落下する場合がある。一般的な経験則としては、大型の物体であるとその質量の20~40%が地表に落下するといった見解があり、今回の場合は「残骸デブリ」が約5~9トンと予想されてい

    • 繰り返される中国ロケットの「無制御」再突入②:一般的な再突入の方法

      任務を完了したロケットは、地上への損害リスクを低減させる方法で大気圏に再突入させて処分する等の方法をとることが求められる。ロケットを引き続き操作できるようにするために、必要な装備を追加させたり、落下範囲を定め、影響を受けるおそれのある船舶等に事前に通告したりしており、またロケット自体を再使用する方法もある。  ロケットなどの大きな宇宙機器を、制御された方法で再突入させて処分することが必要である。ペイロードを輸送して任務を完了した後もロケットのエンジンを稼働させて、船舶など海

      • 繰り返される中国ロケットの「無制御」再突入①:経緯

        中国が打ち上げる宇宙ロケットは、任務完了後、またしても「無制御」のまま大気圏に再突入した。米国やヨーロッパ等の監視によって、「無制御」状態、再突入時刻及び再突入時間が事前に明らかにされるが、中国はその詳細情報を明らかにしない。現在の監視能力ではその予測の幅が広く、不確実性が存在する。中国自身がロケットを適切な管理の下で処理せず、また、再突入に関する事前の情報を適切に公表しなければ、リスクの不確実性は低減されない。現に、今回の「無制御」再突入に対して、航空活動への被害防止のため

        • 長征5号B(中国)の「無制御」再突入⑤:国際法上の論点

          ロケットの廃棄処分方法を巡って、米中が対立している。しかし、両国は共に、宇宙条約、宇宙損害責任条約などといった宇宙活動に関係する現在の国際法に違反するのかどうかに言及していない。他国の宇宙活動に「有害な干渉」をおよぼすおそれがあったのか、事前に国際的な協議を図るべきではなかったのか、損害を引き起こした場合、被害国は加害国に責任を追及するのかなど、国際法上のさまざまな論点とその課題がある。活発化する宇宙活動に対して法秩序の形成が進展するためにも、宇宙活動を行う国家は、自国の宇宙

        繰り返される中国ロケットの「無制御」再突入③:残骸デブリのリスク

          長征5号B(中国)の「無制御」再突入④:ロケットの廃棄処分方法

          ロケットのコアステージ(第1段)の廃棄処分にあたっては、2段式ロケットの設計や軌道離脱操作、逆噴射システムなど、安全かつスペースデブリの発生防止のための措置を実施することが求められる。長征5号Bのロケットはこれらの措置が実施されなかったため、専門家から問題視されている。  長征5号Bのロケットは、安全かつスペースデブリの発生防止のためのいくつかの措置が実施されなかったため、危険な行為として専門家に問題視されている。廃棄処分にあたって必要な措置とは何だろうか。中国の廃棄処分方

          長征5号B(中国)の「無制御」再突入④:ロケットの廃棄処分方法

          長征5号B(中国)の「無制御」再突入③:技術の安全性をめぐる米中対立

          長征5号Bの「無制御」再突入に関して、米中の見解が対立した。宇宙開発の分野においても、技術の安全性をめぐって、米中間の競争がある。安全性やスペースデブリの発生防止の措置に関する妥当性が、国際的な議論の対象になっていく可能性がある。  長征5号Bの「無制御」再突入に関しては、特に米国政府から、その問題性が指摘されている。それに対し、中国政府等は自国が選択したロケットの処分方法の正当化を主張し反論している。 米国の見解  米国政府では、まずNASA長官のBill Nelson

          長征5号B(中国)の「無制御」再突入③:技術の安全性をめぐる米中対立

          長征5号B(中国)の「無制御」再突入②:監視と予測能力の実態

          多方面からの監視 長征5号Bの再突入及び落下に関する報告から、人工衛星や廃棄された宇宙物体、破片などのデブリを監視する能力が垣間見えてくる。  orbit.ing-now.comやAerospace.orgでは、レーダーデータなどを使用して、宇宙空間上にあるロケット等の場所をリアルタイムで譲歩提供している。米国宇宙軍の18th Space Control Squadron (18 SPCS)は、Space-Track.Orgのウェブサイトを通じてロケットの位置に関する最新情

          長征5号B(中国)の「無制御」再突入②:監視と予測能力の実態

          長征5号B(中国)の「無制御」再突入①:ロケットの概要と再突入の経緯

          中国はロケットを「無制御」のままで大気圏に再突入させた。大気圏での燃焼が十分でないと、上空でロケットの残骸を散乱させるおそれがある。まさに、スペースデブリの拡散と地上への落下という事態になる。また、どの程度のスペースデブリがどこに落下するのかを予測することが困難になり、不確実なリスクを高めることになる。  2021年4月29日、宇宙ステーションを構築するモジュール等を搭載した「長征5号B」ロケットが、文昌航天発射場から打ち上げられた。長征5号Bについては中国政府からは詳細情

          長征5号B(中国)の「無制御」再突入①:ロケットの概要と再突入の経緯

          規制の限界と国家の役割

           少し前の話だが、新型コロナウイルスの感染防止に関して、厚生労働省のクラスター対策班が、このまま何も対策を施さなければ40万人感染して死亡すると発表し、各方面から強い批判がなされた。しかし、ある情報を提示することで対象者にその目的に合致した行動を促すという点では、「情報的手法」を取り入れた政策として成立しているように思う。特に環境政策分野においては、有効だと評価されている手法である。  情報的手法とは一般的に、ある製品・サービスについて環境負荷や環境保護への貢献に関する情報

          規制の限界と国家の役割

          アルテミス協定(Artemis Accords)の意義

           すでに国連で「月協定」が起草されているが、ほとんどの先進国が署名していない。この協定では、実際に月資源の採掘等が始まるときに国際ルールを構築するとしている。NASAが発表した“Artemis Accords”はそのルール構築の基礎になる可能性がある。  タイトルは“addords”となっているが、実際の内容は10の原則(principles)から成っている。そのうち、平和利用、宇宙飛行士の緊急救助、宇宙物体の登録、科学的情報の開放、有害干渉の回避は宇宙条約等の原則であり、

          アルテミス協定(Artemis Accords)の意義

          運用終了した衛星は何年で廃棄処理すべきか

           運用終了した衛星の廃棄措置の時期を、現行の25年以内のままでよいか、短縮すべきかの問題。産業界は25年は「長すぎる」と言い、NASAの研究者は5年にしてもメリットはないと指摘した。  コスト増を考慮すれば、大抵、産業界が25年を維持したいのではないかと思ったが、そうではないようである。その一方で、研究者が短縮すべきではないといっている点が面白い。ただし、NASAの研究者なので、環境保護や規制強化に一辺倒ではなく、産業コストを考慮する側に立つのは当然かもしれない。  その

          運用終了した衛星は何年で廃棄処理すべきか

          国際捕鯨員会の勧告は正当か

           国際捕鯨員会(IWC)の勧告は、単純多数決で成立し、法的拘束力のある国際捕鯨取締条約の付表改正(4分の3以上で成立)とはその性格を異にする。一般的にはソフトローに分類されるが、場合によっては決議内容の実施の積み重ねなどによって、いずれは実質的に法的拘束力が認められる場合もある。  ただし、これまでに成立したIWCの勧告はさまざまな性格をもっており、単に「実施の積み重ねなど」があるからといってその法的性格を評価することには慎重にならなければいけないと思う。  例えば、勧告

          国際捕鯨員会の勧告は正当か

          スペースデブリ

           一般的に「宇宙ごみ」と呼ばれるスペースデブリ(以下、デブリ)は、宇宙空間を周回して宇宙活動を妨害し、宇宙物体との衝突のリスクを高めている。デブリが増加し続ければ、人類が宇宙空間を利用することさえ困難になることが危惧される。そのため、これ以上デブリを増やさない対策として、デブリの発生を低減する措置が求められる。  デブリの数を増やさない一番簡単な方法は、人類が宇宙活動を停止することである。しかし、宇宙活動によって築き上げてきた人工衛星による地球観測システムや、高度に発達した

          スペースデブリ