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長征5号B(中国)の「無制御」再突入②:監視と予測能力の実態

多方面からの監視

 長征5号Bの再突入及び落下に関する報告から、人工衛星や廃棄された宇宙物体、破片などのデブリを監視する能力が垣間見えてくる。

 orbit.ing-now.comやAerospace.orgでは、レーダーデータなどを使用して、宇宙空間上にあるロケット等の場所をリアルタイムで譲歩提供している。米国宇宙軍の18th Space Control Squadron (18 SPCS)は、Space-Track.Orgのウェブサイトを通じてロケットの位置に関する最新情報を毎日提供している。その他、何千人もの宇宙ウォッチャーが、動画サイトのYouTubeに公開された長征5号の進行に関する映像を見ていたという。中国国家航天局(CNSA)は長征5号Bが再突入したことを確認しているし、ロシアのロスコスモスもまた、近地球空間における危険な状況に関する自動警報システム(ASPOS OKP)によって長征5号Bが制御不能されていないことを確認している。

 イタリアの天文学者であるGianluca Masiは、ロボット望遠鏡「Elena」が長征5号Bの残骸を画像撮影することに成功した。また、EU Space Surveillance and Tracking(EUSST)も再突入を確認した。EUSSTは、事前にEuropean Union Satellite Centre(SatCen)が率いるタスクフォースで、重要な衛星運用や公共の関心が高いイベントに関連するシナリオに対処していた。再突入中の監視と連携調整を図り、ロケットの打ち上げ後、4月29日、EUSSTのセンサーは物体の綿密な観測を開始していた。

 以上のように、少なくとも巨大な物体については、さまざまな公共組織や民間サービスなどによって迅速にそれを捉えることが可能な状況になっている。

予測能力とその限界

 再突入の予測については、Aerospace Corporationが5月8日の朝の時点で再突入時刻を8日の午後11時30分頃とし、オーストラリア、アフリカ、ヨーロッパの一部、南アメリカ、中央アメリカ、及び米国が、再突入の可能性のある範囲であると示した。前述のとおり、ESAも「リスクゾーン」として再突入地点の予測範囲を示した。CelesTrak.comは、ロケットがインド洋のどこかに着陸する可能性を指摘した。予測をより早期に出そうとすると、その分予測範囲は広く取らざるを得ない。なお、再突入時刻の1時間のズレは、予測場所の18,000マイルのズレに匹敵するという。

 一方の中国では、外務省の報道官であるHua Chunyingによると、長征5号Bが再突入する間、綿密な監視と追跡作業を行ったという。彼女はまた、モルディブとインドに「国際協力メカニズム」を通じて再突入予測の結果を共有したと語った。しかし、その結果がいつ共有されたかについては言及しなかった。

 再突入の正確な予測はかなり困難なことである。EUSSTでは物体の綿密な観測をしていたが、これらの予測には不確実性が伴い、範囲を小さく絞ることは実際の再突入の数時間前にのみ可能であった。米国宇宙軍の司令官であるJohn Raymondも、再突入の予測はやや難しいと語った。予測を可能にするためにはロケットに関する情報が十分に公開される必要があり、ロケットに関する情報の少ないとそれを困難なものにする。

 残骸の予測については、当初、ナイジェリアのアブジャに残骸が落下する可能性があるという報告が明らかになった。残骸や破片がどこに落下するかを確実にする示す方法はない。また、ロケットの破片の形状、サイズ、量、またはそのような破片の着陸範囲を正確に予測する能力を持っている国はないといわれている。

 破片の形態やその時のさまざまな環境要因が影響して、予測はさらに困難になる。ロケットのエンジンを再起動する機能がないと、大気中の分子との衝突が増えるため、ロケットは地球に向かって引きずり込まれる。太陽は現在、その11年周期の比較的活発な段階にあり、地球の大気は太陽活動に伴って膨張または収縮する可能性がある。大気の変動やその他の環境的変動、及びロケットの動きの速さが、いつどこに再突入するか予測することを実際の再突入の数時間前まで不可能にする。米国の宇宙軍も、ロケットが衝突する場所は、大気条件や大気圏に入るときの物体の正確な角度など、これを早期に考慮に入れるには多すぎであると述べた 。

積極的な情報公開の必要性

 再突入に関する監視は、政府や民間企業、そして個人に至るまでさまざまな方面から比較的リアルタイムに行われている。その一方で、再突入や残骸の落下に関する予測については、監視対象の物体がさまざまな環境要因の影響を受け、さらにロケットに関する情報も少ない状態であると、その予測を困難にさせる。そのような観点でいうと、宇宙活動に関する情報は積極的に公開していかなければ、リスクの不確実性を高めることになるといえる。

※冒頭の図は、Aerospace Corporationによる落下地点予想(円で囲まれた範囲)。しかし、誤差が存在し、青線及び黄線のどこかに落下する可能性が指摘されていた。

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