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豪州スキー場の1ヶ月から、日本の国内客限定オペレーションを考えてみる

こんにちは。ウィンターシーズン真っ最中のオーストラリアから、来冬の日本のスキー場について考えています。

▼今までの記事
» コロナ禍のスキー場運営はどうなる?冬を迎える南半球よりレポートと考察 2020.06.21
» 来季のスキー場にインバウンド客は来るのか。オセアニアの現状からできる予測 2020.06.29

前回の記事から少し空いてしまいましたが、最初のスキー場がオープンして約1ヶ月が経とうとしています。

あるスキー場にはたっぷりの雪が降り天国、またあるスキー場はリフトの運行を停止して地獄と、場所によって明暗がわかれている感じではありますが、どこも「州内からの客のみ」で一応は営業をしています。

現在のオーストラリアの状況を見つつ、日本に当てはめて「国内客のみに限定した」スキー場オペレーションについて考えてみるので、参考にしてもらえればと思います。

シーズンインから1ヶ月が経った豪州スキー場の様子

スキー場がオープンしはじめた7月上旬、メルボルン周辺に「第二波」が襲ってくるという悲劇。。

オーストラリアにはNew South Wales州とVictoria州に主なスキー場があるのですが、この2つの州の州境がスペイン風邪のとき以来100年ぶりに閉鎖するという、どえらいことが起こりました。

第二波を受けて、VIC州にあるFalls CreekとMt Hothamはリフトの運行を停止することを決定。(リフトは動いていませんが、今は州内からのレジャー客を受け入れてはいるようです)

この記事から悲惨さが伝わってきます→Call ski patrol – Victoria’s 2020 ski season needs saving

3月下旬に全国的にロックダウンして以来、なんとか営業しようと水面下で準備を進めてきて、オープンした瞬間にこれです。前売りリフト券やホテルの払い戻し対応に追われ、地獄のようになっていました。

一方、NSW州ではまあまあ良い調子で営業ができているようです。州境封鎖によりVIC州からのお客さんは一切来ませんが、そもそもの入場制限もあるので、州内客のみでこじんまり営業しています。

なんとも煮え切らない感じの現状。日本としては、半年先に冬が訪れて砕け散ってくれている豪州を参考にしない手はないと切実に思いました。

スキー場という環境の特殊性も鑑みて

日本では7月1日から、ディズニーランド&シーがオープンしましたね。「入場するタイプのレジャー施設で、乗り物やイベントがあり、周辺にはホテルがある」という点でスノーリゾートと環境が近いので、参考になりそう。

ディズニーが実施する対策は主にこんな感じ。

・入園チケットは枚数を制限して事前販売
・検温を実施し、37.5℃以上だと入園拒否
・園内では常時マスク着用が必要
・並ぶ列などに目印をつけソーシャルディスタンス
・乗り物は一度に乗れる人数を制限
・アルコール消毒をいたるところに設置
・キャッシュレス支払い推奨
・イベントやパレードなどは休止

一部は真似するとよさそうです。ただスキー場という環境の特殊性も鑑みると、同じレベルの規制をする必要もないのかもしれないなと思いました。

スキーやスノーボードをするときって基本的にフェイスマスクなどで顔を覆っているし、板を履いているので必然的に距離が取れます。飛沫が飛ぶような接触は、雪上ではあまりあるとは思えません。

レストハウスなど室内の対策は必要ですが、「きちんと対策がされていて安全」ということを事実をもって示し、お客さんが行っても大丈夫そうだと思えるようにすることなんだと思います。感染対策は普通にやることやってればOK。そこに一生懸命になりすぎるよりは、それをどうコミュニケーションするかに重きを置いたほうがよさそうです。

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Go To トラベルキャンペーンで世の中が湧いていたりもします。こんな中「スキー場は安全なので来てください」というのは簡単ではないです。でも、これからは「自己判断」がより求められるようになっていくのも事実。

1年も2年も全員ステイホームしていたら観光業が死んでしまうので、

「国内客にターゲットを絞り、どこに住む何歳ぐらいのどんな層を、何を楽しんでもらうために、いくらの予算で何泊くらい引っ張り出したいのか」

を具体的にして、ちゃんと施策を打ちコミュニケーションしていけば、最悪の事態は免れられるのではないかと思います。

たとえば豪州では完全に「州内からの客」に振り切ったプロモーションをし、デジタル広告なども最適化。リフトを停止したVIC州のスキー場は、雪景色を見ながら地元フードやワインを楽しむ方向に一瞬でシフトしています。

従来のような「全世代まとめて皆でスキーを楽しもう!」という一括型プロモーションはもう効かないので、細分化した施策の企画力とオペレーションがより求められそうです。

日本の環境下でやるとよさそうなこと

「インバウンドは来ない」を前提にして国内客をターゲットに、国内の中でもどこまでエリアを広げるかまで考えたほうがよさそうですね。

最初の記事にも書いたのですが、オーストラリアに比べて日本の環境は、

①自家用車でのセルフ移動がそこまで一般的ではない
②大から小までスキー場の総数(選択肢)が豊富
③エリアが広くはなく密閉空間が多い

となっています。「スキー場までの移動」「リフト券システム」「周辺施設の中」を中心に予測できる傾向がいくつか見えました。

1. マイカー来訪率が上がる→客層が変わる

密を避けて公共交通機関を使わない流れはしばらく続き、スキーに限らず「自家用車移動への回帰」が起こります。

実際にオーストラリアでは車の売り上げが伸びています。バスツアーや修学旅行がなくなるとスキー場としては大打撃ですが、逆に考えればお金を持っているマイカー保有者をターゲットにしやすくチャンスとも考えられます。

40歳、都内マンション暮らしの2児のパパ。マイカー保有、経済的にも余裕あり。子どもが小さい頃は家族でスキーにも行ったけど、混雑が嫌だし最近はもっぱら落ち着いた海外リゾート派。でもコロナで海外には行けないし、最近は在宅ワークで身体も動かせていないなぁ。

みたいな人をペルソナに企画を打てば帰ってきてくれそう。ITリテラシー高めのリモートワーカーや、リタイア後のアクティブシニアもよいと思います。車を持っていてお金もあるけど、何らかの理由やライフステージによりスキー場から遠ざかってしまった層。

国内の富裕層向けには、小さいスキー場はディズニーのような「貸し切りプラン」をこっそり出してみても面白いのかもしれません。

2. ウェアやアクセサリー類はレンタルから購入へ

オーストラリアでは、ウェアやアクセサリー類など肌に直接身につけるもののレンタルをやめているところが多いです。レンタルショップの営業は厳しくなりそうですね、、

ただ、レンタルしないということは購入率が伸びるという意味でもあるので、「年に数回のことだしレンタルで済ませていたけど買ってみようかな」というエントリー層を最後のひと押しでこちらの世界に引き込むチャンスかもしれません。

短期的にはレンタル業者が痛手を追いますが、長期的な業界全体にとってはプラス。ウイルス対策アイテムの制作に踏み切ったメーカーもあったので、抗菌バラクラバとか、寒さに強い除菌スプレーとか売れたりして(適当)。

成長が早い子どもはレンタルに頼りがちでしたが、子どもこそ感染が怖いので、レンタルウェアの衛生面は気になります。子ども用スキーウェアに特化して流通をよくするようなサービスなんかもありかもしれません。

3. リフト券前売りのオンラインシステム構築が必需

混雑を避けるために、リフト券の前売り制は必須になると思います。

オーストラリアでは各スキー場が独自に前売り用Webサイトを作ったのですが、アクセスが集中してサーバーダウンしたり、Waiting……の画面から一向に進まない人が続出したりと、システムの弱さが目立ったようです。

日本のスキー場は、まだ紙のリフト券なところもありますよね。一気にデジタル化するのは難しそうですが、観光庁が取り組んでいく「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」の対象エリアも決まったことだし、これから進んでいくといいなと思います。

スキー場リフト券の仕組みは複雑だと思うので、業界を熟知したどこかのベンチャーが販売ポータル的なものを作って、全スキー場でそれを使ったりするといいと思う(言うだけ言ってみる)。払い戻し対応とかも考えないといけないから、各々やるにはけっこう大変。誰かやりませんか?

キャッシュレス化を進めるチャンスでもあります。オーストラリアでは、もう何人が触ったかわからない現金なんて誰も触れようとしません笑

4. 時間制にするなど根本的な入場方法変更

リフト券含め、スキー場への入場方法を根本的に考え直すのはひとつありかと思いました。

ディズニーランドは、午前入場券と午後入場券をわけるなど、時間制チケットを設けています。一部のスキー場では時間制を採用しているところもありますが、この仕組みは考え方次第でもっと面白く使えるかも。

たとえば「朝だけ滑れるパウダー割」。パウダーは天気次第ですが、毎日朝の8〜10時の2時間だけ有効なチケット。リゾートワーク層向けに、コワーキングスペースの利用券とセットで販売すれば、朝2時間滑ってからエクストリーム出勤ができたりします。

ワーケーション需要は高まるので、「平日の午前だけ」みたいな券は多少割高でも売れる気がします。地元のロッジとかは、少しだけワーキングチェアなどを買い足して、昼間はラウンジをオフィス化してみてはどうでしょう。

地元民向けのローカル券とか、滑らないで山頂に登るだけの人向けの割引とかもよさそう。そう考えると、ジム会員の仕組みが参考になりますね。コアスノーボーダーとファミリーレジャー層ではスキー場に求めるものが180°違うので、そもそも全員一律のリフト券は時代遅れになりつつあります。

簡単ではないのはわかって言ってます。オーストラリアでも全然上手くいっていなくて、シーズン券購入者含め不満が殺到しているので、これを反面教師に変えられるかもしれないという淡い期待です。

2023年以降に向けて、サステナビリティ意識を高めておくことも大事

次に抵抗なく旅できるようになるのは2023年とも言われているので、短期的には今年生き延びることをがんばりつつ、それ以降の世界に向けてロングスパンの対策をしていくことも重要だと思います。ひとつ間違いないと思っているのが、リゾートとしてのサステナビリティへの取り組み強化です。

オーストラリアのスキー場Thredbo(スレドボ)のEnvironment & Sustainabilityのページを見てほしいんです。

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冒頭に「Thredbo Powered by Renewable Energy(スレドボは再生可能エネルギーで運営しています)」と書かれていて、こんなステートメントが。

Thredbo Resort is committed to preserving, protecting, and prioritising our unique alpine environment. We take pride in our long list of environmental initiatives and embrace the opportunity to lead our industry and our community through our shared passion of the mountains towards a more sustainable future, today.
(スレドボ・リゾートは、私たちのユニークな高山環境を守り、他の何よりも大切にしていくことを約束します。私たちは、ここに示す環境イニシアチブの長いリストを誇りに思い、持続可能な未来に向けて山へのパッションを共有することを通じて私たちの業界やコミュニティをリードできることを心から嬉しく思います)

そしてこのステートメントに書かれているとおり、長〜いリストがあり、再生可能エネルギーの他にも、カーボンフットプリントを減らしていくこと、ホテルでのプラスチック使用を削減していくことなど、具体的に行なっている取り組みが紹介されています。

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そして、2023年に達成するサステナビリティ・ゴールが定められている。

こうしたサステナビリティへの取り組みはこのスキー場だけでなく、世界的に強化される流れにあります。たとえばデンマークでは、COVID-19で職を失った人々に雇用を生み出しながら環境対策を進める動きなども進んでいて、こんな状況の今だからこそできる取り組みでもあります。

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スキー場のHPに、こういう「あなたにできること」のような項目を作っておくだけでもいいんですよ。雪山を愛する人たちと共に取り組んでいける一体感をつくっていくこと。それがコロナ対策となんの関係があるんだと思うかもですが、あるんです。信じて。

2023年以降、インバウンド客が戻る頃には、サステナビリティへの取り組みが集客の鍵を握る時代になっています。2020年はとりあえず手一杯だと思いますが、徐々にこの視点を取り入れ、21〜22年頃が日本のスキー場にとってサステナビリティ元年になると理想ですね。

スキー場のサステナビリティ課題のためにご紹介できることもあるので、興味があるスキー場関係者さんは、ぜひ個別にご連絡ください。

あ、ちなみになんですが、最初の記事に「渡航費出してくれるメディアさんがもしいたら現地取材行ってきます」と書いたら、本当にご連絡をいただいてしまいました。。残念ながら第二波の影響で行くことはできませんでしたが、何か書くことで少しでも変化が起こるってうれしいですね。

もうこれ以上、ひとつのスキー場も潰さないために……。なんでもご連絡お待ちしておりますー。Twitterからどうぞ。では。




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