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来季のスキー場にインバウンド客は来るのか。オセアニアの現状からできる予測

コロナ禍のスキー場運営レポートを出して一週間。スキー場によっては遅れているところもありますが、一応オープンしてウィンターシーズンが始まりました。

記事への反応から気づいたこともあり、新たな情報ギャップが見えてきたので、引き続きお届けしていきたいと思います。

前回はオーストラリアの状況をもとに日本のオペレーションを考えたのですが、一番気になる「オーストラリア(またはオセアニア圏)から日本へのインバウンド客」については全然触れていませんでした。

今回はそれを深堀りし、来シーズンの日本のスキー場にインバウンド客って来るの?ということを考えてみます。観光業界の方などにも見ていってもらえればと思います。

オーストラリアからの観光客が半数を占める日本のスノーリゾート

ここ数年の日本のスノーリゾートはかなりインバウンド客に頼ってきました。

国内最大のスノーリゾート「HAKUBA VALLEY」が2019年に発表したデータによると、2018-19シーズンの訪日外国人スキー来場延べ客数は37万人。総来場者数の約4人に1人が外国人観光客という割合になっています。

中でもオーストラリア人観光客は多く、ニセコや白馬などでは半数以上がオーストラリアからだといわれています。ニュージーランドなども含めたオセアニア圏では、季節が逆で時差がないこともあり、「日本の雪山に長期ステイ」は人気が高いホリデーの過ごし方です。

日本のパウダースノーは海外で「JAPOW」と呼ばれ親しまれていますが、この価値に最初に気づき、ソーシャルメディアを通じて世界に広めたのも実はオーストラリア人でした。その発端となった北海道には、今ではオーストラリア人オーナーの不動産ビジネスなども多く存在しています。

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そんな背景もあり、「来シーズンにはオーストラリア人やニュージーランド人は来てくれるのかな……?」というのは気になるところだと思います。

私は逆に「普通に来る」と信じている人がけっこう多いことに驚きました。先日出た「日本政府が今年夏からタイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国から入国を認める方針」というニュースの影響もあるのでしょうか。これは限られたビジネス関係者のみの話なので、一般観光客はまだ先です。

仮に日本がオーストラリアからの観光客も受け入れようと思っても、オーストラリアはまだ日本に行かせたいとは思っていません(切ない片想い)。現地で何が起こっているかを知ると、感覚ではなく具体的に予測することができます。

来季、オセアニアからのインバウンド客はほぼ期待できない

未来は誰にもわからないし、状況が変わることはいくらでもあります。ただ、現時点でわかっている情報を見ていくと、おそらく来シーズンのオセアニア圏(特にオーストラリア&ニュージーランド)からの訪日はかなり厳しいだろうと予測できます。

現在もAUS&NZでは、入国・出国ともに禁止されており、はっきりとした解禁の目処も経っていません。オーストラリアでは現在、特別な理由があり許可をもらえた人だけは「出国」できるルールになっていますが、「入国」は国民や永住権保持者のみに限られています。

こちら現地にいると、AUS&NZ政府の「自国民を守る」意志の強さをかなり感じます。日本ではなんとなく収束感が出ているのかもしれませんが、この2カ国の判断はまだまだシビアです。

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出典:Proposed Tourism Restart Timetable - Australian Chamber of Commerce and Industry

この「旅行に関する規制をゆるめていくタイムテーブル」を示した図がとても参考になるので、ぜひ拡大表示してじっくり見てください。定期的にアップデートされていて、これは6月9日時点の最新版。

縦軸にDining(外食)からInternational Travel(海外旅行)まで難易度順に書かれており、横軸のグラデーションが時期を表しています。

Hibernation(赤・停止)
→Immediate Restart(黄・直ちに再開)
→Medium / Long Term Recovery(緑・中長期的な復帰)

これを見ていくと、NZ&Pacific(近隣諸国)への旅行が認められるかもしれないのがようやく9月ごろの見込み。日本が含まれる可能性があるのがOther Safe Countriesの部分で、10〜12月頃に徐々に解禁していくかもということがわかります。すべての国への渡航は、12月時点でもレッドサインになっています。

オーストラリアの首相は26日に、こうした渡航制限は2021年半ばまで解けないだろうと発言しました。また、スイスのジュネーブに本部を置くIATA(The International Air Transport Association)は、「2019年と同レベルの旅行ができる状態は2023年までは期待できない」と発表しています。(個人的には東京五輪2021も厳しいと思っています)

同じくIATAより「国内や近隣国への旅行がより活性化する」というデータも出されていて、ニュージーランドでは、余暇を増やして経済再生のための国内旅行を促進する目的で、週休3日制の採用を前向きに検討していたりもします。

私自身もオーストラリアにいて、やたらと国内旅行のプロモーションや広告が目についたりと、国民の意識が「国内旅行」にかなり向いていると感じます。もはやある種のブーム感すらあるし、わりと国内旅行を楽しんでいる。

そうした流れの次のステップとして、感染を抑えつつ経済を回していくための策として検討されている「トランスタスマン・トラベル・バブル」についても、知っておくとよいと思います。

AUS&NZが協議中の「トランスタスマン・トラベル・バブル」

ここ最近、各国が検討を始めている「travel bubble(トラベル・バブル)」というものがあります。

感染者が少ない国同士で行き来することを許可し、経済活動を再開させていこうという相互協定で、欧州のバルト三国(エストニア、リトアニア、ラトビア)が既に結んでいます。

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オーストラリア/ニュージーランド間でも5月から「Trans-Tasman Travel Bubble(トランスタスマン・トラベル・バブル)」の協議が始まっており、今こちらの話題はそれがいつ始まるかで持ちきりなのです(私も心待ちにしている)。

本来は7月のスクールホリデーにあわせて解禁しようとしていましたが、最近また両国で感染ケースが増えてしまい、保留状態になっています。いろいろな憶測が飛び交っていますが、早くて9月に解禁が濃厚といわれています。ステップは次のとおり。※あくまで現地ニュースベースの情報

STEP. 1 まずは隣国同士のAUS&NZ間で解禁
STEP. 2 フィジー、ツバル諸島、ニューカレドニアなどの太平洋諸国に広げる
STEP. 3 日本・韓国などのアジアがその次の候補国になるかも(!)

候補国に日本が上がってきているのは良いニュースです。とはいえAUS&NZ間すらまだ決定していない状況で、その後に太平洋諸国という順番を考えると、どんなに早くても2020年末くらいにはなりそうですね。

日本のウィンターシーズン本格化は12月頃から。仮にトラベル・バブルが順調に進み、日本への旅行が解禁されたとしても、このタイムラインだとパッケージツアーでの送客を12月に間に合わせられる旅行会社は少なそうです。オセアニアから日本の雪山への旅行は、言語の問題もあり個人手配が難しい。そもそも個人旅行の判断も、とても慎重になると思われます。

来シーズン、スキー産業全体で売上を立てるために

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さてスキー場の話に戻しますが、こうした状況からおそらくオセアニア圏からのインバウンド客は「除いて」考えたほうがよさそうです。(中華圏など他の国のことはよくわかりませんが、欧米も厳しめなんじゃないでしょうか)

日本のスノーリゾート全体として、雪不足とコロナのダブルパンチで先シーズンに負ったダメージが大きすぎるため、来シーズンはどんな状況でも営業し売上を立てないといけません。国内客にターゲットを絞り、営業プランやオペレーションを考えたほうがよさそうです。

ただ、各スキー場が独自に動くのはすこし危険。スキー場ごとに違うルールを各々発表をした世界をちょっと想像してみます。

スキースノーボードをしに行く前に、降雪状況や天気をチェックするのと同じように、スキー場の規制状況をチェックするのが当たり前に。「今週末はあそこが雪がよさそうだ!」と同じノリで、「規制ゆるいらしいからあのスキー場にしよう!」と決める人たちも出てくる。

規制がゆるいほうが客が来るとわかれば、利益を上げるためならなりふり構っていられないスキー場は規制をゆるめる。規制がゆるいスキー場に人が殺到。情報収集がめんどくさいし感染も怖いので、よほどの愛好者以外は「今年は行くのやめよっか」となる。

全体としての総来客数を考えると、あまりいい予感がしません。富裕層やファミリー層のような、感染リスクに対する意識が高く敏感な層=きちんとお金を落としてくれる層ほど逆に行きづらくなり、スキー産業全体が儲からずに終わってしまうような気がします。

こういうところまで想像すると、政府による統一ガイドラインに基づいて、国内客をメインターゲットに据えたうえで、社会状況に応じて柔軟に取れる段階性のオペレーションプランが必要になりそうと考えられます。

まとめ:スノー産業は観光の要、日本の再興がかかっている

2023年頃にはインバウンドもきっと戻ってきますので、そのための仕込み期として、この数年をいかに乗り切るかになってきそうです。

スキー場やスノー産業のことは、日本の観光を考える上でとても重要。観光産業がどうなっていくかは、日本という国の経済がどうなっていくかにそのまま通じ、国民の生活にダイレクトに影響してくると思います。

全国民が自分ごととして、スノー産業に関心をもってくれるといいですね。逆にいえば自国民の関心を高め、スキースノーボード人口を増やすチャンスかもしれません。

先シーズンは自粛要請にともないお客さんが激減するのを黙って見ているしかなかったと思いますが、次のシーズンまであと半年もあります。いろいろ準備できることはありそうなので、万全の体制で冬を迎えられることを願っております。

具体的にどういう対策、運営、オペレーションプランを組んでいけばよさそうかについては、また改めて考えたいと思います。

ではまた。

参照記事
International travel won’t return to normal until 2023 despite coronavirus restrictions lifted in Australia
Overseas travel won’t return until 2023 due to coronavirus, experts warn
Coronavirus travel restrictions mean air traffic levels not predicted to recover until 2023
How long will Australians have to wait to travel overseas again?
NZ travel bubble being delayed by Australian states' coronavirus border closures, Winston Peters says
TRANS-TASMAN TRAVEL COULD BEGIN IN STAGES IN JULY, BUT THE REINTRODUCTION OF COVID-19 IN NEW ZEALAND COULD PUT THAT DREAM ON THE BACK-BURNER, ACCORDING TO ONE TOURISM ACADEMIC.
Australia, New Zealand travel bubble could be expanded to Asia
'Travel bubble' destinations may include South Korea and Japan soon - but not the United States
Japan Is Proposing a Travel Bubble and Australia Has Made the Cut



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