激動の時代、男は革命と愛を…両方、夢見た。ウォーレン・ベイティ主演・監督「レッズ」。
昨日の記事で「米アカデミーならざれば」の時代があった、と書いた。
その一方で、米アカデミー賞を獲得したに関わらず、日本で公開してもぱっとせず、そのままマイナーに終わった作品もある。
1981年度アカデミー賞で最優秀監督賞(ウォーレン・ベイティ)、最優秀助演女優賞(モーリン・ステイプルトン)、最優秀撮影賞(ヴィットリオ・ストラーロ)を受賞した「レッズ 」がその顕著な例だろう。
(この年作品賞を受賞したのが「炎のランナー」。間違いなく、喰われた。)
※あらすじ・キャスト・スタッフはこちら!
『世界をゆるがした十日間』の著者ジョン・リードと女性解放運動の先駆者ルイズ・ブライアントの数奇な恋と、激動の時代を描く。製作総指揮はサイモン・レルフとディード・アレン、製作・監督はウォーレン・ベイティ、脚本はビーティとトレバー・グリフィス、撮影はヴィットリオ・ストラーロ、作曲はスティーブン・サンドハイム、編集はディード・アレンとクレイグ・マッケイ、衣裳はシャーリー・ラッセルが各々担当。出演はウォーレン・ベイティ、ダイアン・キートン、エドワード・ハーマン、イェジー・コジンスキー、ジャック・ニコルソン、ポール・ソルビノ、モーリン・スティプルトン、ニコラス・コスター、M・エメット・ウォルシュ、ジーン・ハックマンなど。
【スタッフ】
監督 ウォーレン・ベイティ
脚本 ウォーレン・ベイティ、トレバー・グリフィス ほか
【キャスト】
ウォーレン・ベイティ John_Reed
ダイアン・キートン Louise_Bryant
エドワード・ハーマン Max_Eastman
イエジー・コジンスキーGrigory_Zinoviev
ジャック・ニコルソン Eugene_O'neill
ほか
引用:映画.com 作品情報
独立独歩の男が、前人未到の夢を成し遂げた男を演じる。
ウォーレン・ベイティ。「俺たちに明日はない」で一躍名を挙げた大スター。
功なり遂げた独立独歩のスターが向かう先は、同世代のイーストウッドよろしく、自ら設立したプロダクションで映画を製作し、自ら演出を執り行い、自ら主演する、正真正銘「自作自演の男」となることだ。
だから彼はそうした。「俺たちに明日はない」ほか主演作で稼いだ大金を元手に、「自分が作りたい映画」だけ作ることにした。
結果、本格的な「俳優→監督」のパターンで大成功をした最初の人物となった。
最初の大ヒットが有名な「天国から来たチャンピオン」。これは、後に続く「亡くなった人が天国の水先案内人の協力で帰ってくる」という設定の映画・ドラマのはしりとなった。
その次に彼が撮ったのが、誰も真似できない映画。
81年、反共ばりばりレーガン政権下で製作・主演・監督したのが、
20世紀のはじめ、当時から随一の資本主義国家:アメリカにあって、社会主義に目覚め、それを実践しようとしたジョン・リードの一生だった。
歴史的瞬間、ロシア革命の熱気と興奮に、立ち会ってしまった男の話だ。
あの闘争のさなか、私の思いは中立ではなかった。だがあの偉大な日々のストーリーを語るに当たり、私は良心的な記者の目で出来事を見るように努めた。ひとえに真実を書き残したいがために。
「世界を揺るがした十日間」ジョン・リード(著),伊藤 真(翻訳)
(光文社古典新訳文庫) まえがきより引用
ジャーナリストであり、革命家でもある。
世界を揺るがしたこの男の一生を、ビーティは、「ドクトル・ジバゴ」や「ライアンの娘」のデヴィッド・リーンの文法で描いた:広大な原野の中に、複雑に屈折した孤高なヒーローがいて、彼の夢は最後に潰え去っていく。 そして男と女のラブロマンスがある。
第一次世界大戦下のアメリカで、ジョン・リードは人妻ルイズと出逢う。
幾度もの邂逅の末、逡巡の末、ルイズは夫を捨て、リードはそれを受け入れ、いっしょになる。
そうなってからも、諍ってはまた愛し合い、愛しているのに拗ねて別れるを繰り返す。
ルイズとの愛に悩みつつも、リードはロシア革命で衝たれた「理想」を世界に説いて回る。
従来の価値観が全てひっくり返った1910年代、変革の流れを押しとどめようとする時代の向かい風に立ち向かった、ひとりの男とひとりの女の、流転の生涯だ。
ジョン・リードが口ずさむ歌ふたつ。
ジョン・リードの「あまりに純粋すぎる」理想を阻む障壁は数多い。
米国の赤化を良しとしない公安当局、革命の時局を巡って分裂する共産党内、
彼が「世界を揺るがした十日間」で勝ち得た栄光を嫉み憎む周囲の者たち。
ルイズとの恋愛も、しっくりいかないときがある。 時に、よそよそしくされる。
そうすると、リードは孤立無援。「自分はこのままでいいのか?」と挫けそうになる。
そんな時彼は、歌を歌うことで、自分の中にもう一度炎を燃え上がらせる。
人間らしくありたいという、情熱の炎を。
ひとつは、「今となっては血に濡れ悪名高い」労働歌「インターナショナル」。リードはルイズと共に、ペテルブルグでロシア革命成就の歴史的瞬間に立ち会う。 ペテルブルグの夜の街を行進する赤軍の大群が、声高らかにこの歌を口揃えて唄う。弾圧されながら闘ってきた二人にとっても、それは思想の勝利の歌でもあり、さまざま曲折を経た後に、ようやく手にした愛の結実の歌でもあった。
これは「戦い」と「連帯」の歌だ。
もうひとつは、対照的に素朴で可憐な歌。
リードが寄稿する雑誌の編集長マックス、アナキストで女権主義者のエマ・ゴールドマン、劇作家ユージン・オニールら同志、そして恋人ルイズと共に移住した浜辺の村。そこで共に政治を語り、共に革命を論じ、そして一緒になって口ずさんだ、「I don't want to play in your yard」。
これは、アメリカの田舎で幼い日を過ごす、男の子と女の子を歌ってる。幼馴染みだから、すぐに他愛のない喧嘩をし、すぐにまた仲直りする。口喧嘩で仲がこじれかけた時に、忘れてはならない寛容の心。彼らは、前進する上で必要なこの精神を、心ひとつに歌う。
「優しさ」と「愛」にあふれた歌だ。
動乱の中、悩み、迷い、彷徨い・・・それでも最後は。
「戦うこと」と「愛すること」。
「世界を揺るがした十日間」で、全世界に共産主義の「希望」を伝播させた
ジョン・リードは、どちらの歌も、心から愛することができた。
理想のための戦いに身を投じることができる精神と、
ただひとりのおんなを愛することができる心の持ち主。
彼には、ふたつの魂が共存している。
それが、ハタからは中途半端、どっちつかずに見えたのだろう。
共産党の同志は彼に、女を捨て、冷徹な革命家となることを求める。
ルイズは、革命の理想を捨てて、自分だけを見てほしい。
リードは「どちらも捨てられない」。
だから行く先々で、いろんな人と諍いを起こしてしまう。
それが彼の弱さであり、それが彼に感情移入してしまう(そして全長じつに194分の本編に最後まで釘付けとなってしまう)いちばんの理由である。
リードが悩み迷いながら何処まで行くのか、見届けたくなってしまうのだ。
オチだけ言ってしまえば
「ロシア革命」という「希望」がやがて「失望」へと変容するのを予感させつつ
新しい時代の波に翻弄され、離れ離れになって世界中を彷徨ったジョンとルイーズは、お互いを探し続け、ついにロシアで再会を果たす。そこで映画は終わる。
ウォーレン・ベイティがリードの燃え盛る情熱と一体化したからこそ生し得た叙事詩。ここまでダイナミックに、実在の「世界を揺るがした」人物を映画化した作品は、そう存在しないだろう。
讃えるのでも蔑むのでもない。
最後に(蛇足だが)「世界を揺るがした十日間」とは何か、「リードと同じ生き方をした」同時代の日本人の言葉を引用して、この記事を締めることにする。
またここに 、「世界を震駭させた十日間 」の筆者ジョン ・リードがある 。彼は饑饉時代に南露でチフスの為に死んだ 。ジョン ・リードは機敏なアメリカのジャ ーナリストとしての手腕の他に 、他人ごとでない愛と興味をロシアとロシアの新生活に対して抱いていた 。 「世界を震駭させた十日間 」に 、彼はどんな私見もさしはさまず記録的に書いているが 、記録蒐集のこまやかさと整理の印象的な点に 、我々は彼がどんなにロシアに魅力を感じ理解していたかを知る 。
「モスクワ印象記」宮本 百合子(青空文庫から引用)
激動と不安の時代の空気感に触れるだけでも、この本は読む価値がある。
※本記事のトップ画像はWIkipedia Commons「ロシア革命」の写真から引用
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