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躁鬱女が『貰って嬉しかった言葉』

こんにちは。私は適応障害から躁鬱を患い4年ほどになる26歳です。
大学在学中に発症し、ずるずる大学院まで引きずり、3月に退学届けを自分で出しました。
現在は無職で就労支援センターに通い就職を目指す日々です。
そんな私が少し泣きそうな、貰って嬉しい言葉をもらったので今日はそのことについて記そうと思います。

それは、ある人から自然に言われた言葉でした。

私は精神疾患を発症してから本も映像も見られなくなりました。本が読めないことについては別の記事に書かせていただいたのでよろしければ読んでくださると嬉しいです。
映像を見ると、頭がこんがらがってしまうのです。本当に理解できている?日本語は分かる。けれど愚かな私が果たしてこのアニメやドラマの内容を追えているのか?
目の前がかすみます。むくむくと拒否の文字が浮かび、テレビを消します。パソコンもスマホも消します。
そんな私ですが気分が上向きになるにつれ集中力が戻ったのか、映像に嫌悪感を抱かなくなりました。10分のYouTube、25分のアニメ、だんだんじっとして見られる時間が伸びました。そして45分のドラマ、ついには二時間弱の映画一本を見られるようになりました。
嬉しかったです。躁状態によるかりそめのものだとしても、皆にとっては普通のことでも嬉しかった。私は見たかった作品をひとつひとつタブレットをなぞりゆっくり視聴しました。
そこで私は井浦新さんという素敵な俳優さんに出会いました。見る度に全く違う人物なのに、演じる人は共通して井浦新さん。
私は気づけば夢中になっていました。短時間でも、お気に入りのシーンを再生していました。
そんな中、彼主演の舞台挨拶とサイン会が行われるニュースが飛び込みました。元気な躁状態にいる間なら、行ける。私は苦手な夜を気を紛らわしながら潰し、日付を跨いだ瞬間先着のチケットを何とか手に入れました。

そして当日、私は緊張しながら会場へ向かいました。劇場へ着くと、綺麗にお洒落をした女性たちが沢山立っていました。私はしばらくぶりのメイクだったので浮かないだろうか足元を見ました。周りの女性たちはお洒落な小さな鞄なのに対して、私は頓服薬や色々な手帳を持つためリュックで来ました。ヘルプマークのついたリュックを握りしめました。
今日は、映画を楽しみに来たんだ。私はそう言い聞かせて入場しました。会場は満席。パッと暗くなり、映画は始まりました。
上映された作品は「東京カウボーイ」。難しい作品だったらどうしよう。暗いシーンがあって引きずり込まれてしまったらどうしよう。それは杞憂でした。コミカルなタッチでしたが井浦新さんが演じる主人公が環境に振り回されながらも変わっていく物語にとても心があたたかくなりました。優しい作品で、私でも見やすかった。時々周りと一緒にクスクス笑うことが出来た。本当に楽しくてまた見たいと思ううちに明かりが点りました。
舞台挨拶で初めて生で井浦さんを見ました。色んな役をこなす彼本人は少し不思議だけれどとても紳士で真面目で、だから質問コーナーが時間オーバーになってしまってスタッフに打ち切られてしまう。素敵な方だと思いました。
その後はロビーでのサイン会になりました。何だか列が動くのが遅いと思っていたら、どうやら井浦さんはサインだけではなく一人ひとりお話をされていたようでした。
そこで私は感謝を述べたいと思いました。病気で映像を見られなかった。そこから段々見られるようになって、井浦さんと出会った。貴方の演技が素敵だから、映像をもっと楽しく見られるようになった。世界が広がった。だから凄く嬉しくて。満ちていって。

そう考えていると長いと思っていた時間はあっという間で目の前に井浦さんがいらっしゃいました。
サインペンを取って書こうとする井浦さんに「あの、」と声を発しました。
井浦さんは手を止めて私の顔を見ました。そこで考え中だった言葉が段々崩れていきました。あまりよく覚えていませんが、かなり断片的に話してしまった気がします。病気で、映像見られなくて、でも見られるようになって、それで、今ここに、います。というような。
するとうんうんと頷いていた井浦さんはまず

「おめでとうございます」

と変わらない笑顔でお祝いしてくださいました。『映画館で2時間くらいの作品を私が無事に見終えたこと』に対してでした。その後でした。

「舞台挨拶で沢山人が密集していましたが、大丈夫でしたか?」

予想外の言葉でした。
帰ってから、この言葉がとても優しいものだったことをじわじわ感じました。

精神疾患には『人混みが苦手』という症状を抱える人も多く存在します。私ももれなくそれに該当します。私の場合どういう感じで苦手かというと、周りを気にしてしまう。自分だけ浮いていて、変に見られないか。実際に先ほど書いたように私は周りの方の様子を気にしていました。それに対して私は浮いてないか。鬱が酷いときは社会腐適合者とどこからか幻聴が聞こえるほど、勝手に私の中で違いを作り、怖く感じる。

その精神疾患特有の『人混みが苦手』という症状を察して、笑顔を崩さず全く表情を変えず優しい笑顔で私に尋ねました。
今まで友人たちや両親に気遣ってもらったときは、相手は慌てていて凄く心配をかけてしまっているのが伝わって、決まってすぐに何も心配をかけたくないと大丈夫と笑いました。

井浦さんの大丈夫が違うのは、気遣い方が落ち着いていて表情も変えず優しい笑顔で私を見ていた点だと思っています。ゆっくり優しい声で私を一直線に見て話してくださいました。しっかりと耳に優しい声が入りました。

これをできる方は実は少ないかもしれないと考えています。
人混みが苦手である症状が私のような人たちの中にいるのを知ること。
それを目の前にいる人(ここでは私)も感じていた可能性があるのを考えられること。
それを落ち着いて、背中を撫でるような優しさで今大丈夫か聞くこと。
慌てず、相手に伝わるように、変わらない態度で。

少し落ち着いた私は、
「凄く、凄く映画楽しかったです!」
「周りが笑うところも私も笑って…とても、笑えました!」
私は大きな声で、単純だけれどしっかりとした言葉を発しました。その時の私は100%の笑顔だったように感じます。他の方はきっと映画のどこがよかったか詳しく話していたのかもしれないのに私はなんて稚拙な、などということは考えませんでした。私が伝えたかった言葉を話しました。
それに井浦さんは笑ってまた頷いてくださいました。私からはその間一切目を他に移さず手も動かさず私の目を見てくださいました。
その後二、三言話した後。
「映画館は今日みたいにいっぱいになる日もあるけれど、空いている時間も沢山あります。だから見やすい時間で合えば、また劇場に来てくださいね」
と最後に仰いました。私は強く頷きました。
サインを書いていただき、丁寧に書かれたサイン本を受け取り、ありがとうございました、とお辞儀をして終わりました。

井浦新さん、ありがとう

帰りの電車、お風呂に入って、家に帰って夕飯を食べて、夜の時間を過ごすうちに、じわじわと井浦さんからもらった優しい言葉を思い出しました。
初対面で、しかも少し挙動不審で話しかけた私を全く変な表情で見たりはせず、本当に優しい笑顔を絶えず浮かべていました。
演技だったかもしれない。内心は『ヤバい』人だったと思ったかもしれない。
けれど私は嬉しかった。

『病気』について詳しく話さなかったけれど症状(人混みが苦手な点)を察してくださったこと。
私のような心の病気の人がいると知ってくださっていること。
「映画は空いている時間もあって見やすいときもあるから」と、私が映画を楽しめるようにわざわざアドバイスもくださったこと
一貫して動じず、他の方と同じように優しく笑った顔で相槌をうってくださったこと。

こんな私でも映画は受け止められる場所があるから大丈夫だよ、と付け加えて仰ってくださっているようでした。

精神科やカウンセラーの先生に近いなと今書いていて思いました。井浦さんが演じる医療関係の役は精神科以外の役ばかりですが、それらから心のことについて知る機会があったのかもしれない。それか舞台挨拶をはじめにファンと交流する機会を幾度も重ねて色んな事情のある観客がいることを経験から知っているからかもしれない。その方々への声のかけ方も。
数分の、ただ不意に生まれた優しさだったかもしれない。
でも私は嬉しかった。どうであれその言葉をくださったことに私は強く感謝しています。
心配してくれるのは勿論うれしい。時間を割いて私のことなんて気にかけてくれるのも。
ただ背中を撫でてくれるのがどれだけ安心するか、伝えたいです。実際に撫でてくれるのではなくても、大丈夫でしたか、大丈夫ですか、大丈夫ですよと、素振りでもいいから目を合わせて落ち着いて声をかけてもらうだけで少なくとも私は嬉しい。安心します。

泣きたくなるくらい、嬉しかったです。
井浦さんの言葉と表情の優しさがあたたかくて。
いつか今度は楽しかっただけではなく、大好きですと伝えられたらいいなと思っています。


もしこれを読んでくださる方で周りに疲れていそうな人がいたら、目線を合わせて話を聞いてあげてください。慌てず、ただ聞くよ、と。直接的でなくとも、背中を撫でるように。様子が変わっても撫で続けてください。途切れ途切れの言葉に相槌をうってください。もしかしたら違う対応をしてほしい方が心の病を持つ方の中でいらっしゃるかもしれませんが、最初はそうしてみてください。
私の今回の経験は好きな俳優さんからだからという、ある種の夢がかけられているのは理解しています。けれどもし『一般』の人たちで一緒の目線でただ座ってくれる人がいたら、同じように私はとても救われると思います。たまにでいいから。
家にひきこもっている人だけではなく、何もないかのように笑顔で就活や復職を目指している人も間違いなく助けを必要としています。恐らく、病院にかかっていない、病気発症寸前の人たちも。人なら皆、全員そういうときがある。

優しさを貰った側の方は、後で誰かに返してみませんか。心の闇を抱えた経験がある人だから、危険そうな人を早く見つけるのが得意なはず。自分がある程度元気になったら、似た境遇で苦しそうな人に話しかけてみませんか。私もそうするように頑張ります。けれど負の感情を引っ張り合わないようにしましょう。自分自身は私しか守れない。それだけは覚えておかなくてはいけません。

どうであれ、井浦新さんはとてもとても優しくて、私は救われました。
その優しさを受け取った私はいつか同じ優しさを誰かに与えられればいいなと思っています。


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