人には人の生き方がある。何者かになっても、ならなくても得られる人生の充実〜Iさんの場合〜

———————————————
———————————————
Iさん(50歳)東京都在住
高校卒業後はフリーターとして働き始め、アルバイトを転々とした後、現在は障害者介護の仕事に就いている。
本業の介護職の傍ら、東中野にある喫茶店を借り、「お絵か喫茶」という名の「絵を描くことができる喫茶店」というコンセプトで店を開いている。
(毎月1〜2回のペースで開店中)
———————————————
———————————————

なにかに合わせて生きていくってどうなんだろうとは思ってるね。自分が不器用すぎてそういう生き方しかできなかったってのもあるけど(笑)

—本日はよろしくお願いします。
今回のインタビューの目的は多様な人の生き方について聞いていき、様々人生の進み方があることを今回のインタビュー内容を通して多くの方に知ってもらうというものです。
そこで冒頭少し大きな質問となってしまって恐縮ですが、Iさんは日々の暮らしの中で大切にされている考えはありますか?

Iさん:以下Iと記載):当然だけど人っていつかは死んじゃうものだと思ってるんだよね。それを考えたときに、自分がしたいことではなく、なにかに合わせて生きていくってどうなんだろうとは思ってるね。自分が不器用すぎてそういう生き方しかできなかったってのもあるけど(笑)

—それってめちゃめちゃ達観した考え方だと思うんですよ。人はいつか死ぬっていうのって。僕もそれはたまに考えたりするんですけどなかなかできないので。
そういう考えはいつ頃から出始めたんですか?

I:考え方が変わったのは 高校時代のスキー教室の時かなぁ。
おれって高校生の時から家にお金を入れなきゃいけない立場だったから、高校時代は家族の家の家賃と高校の学費と弟の給食費は払ってて。あの時は今でも大変だったと思うけど、当時は必死ではあったから(笑)必死過ぎて逆に大変だって考える暇もなく。
話が横道に逸れちゃったけど、そのスキー教室に参加するのに、6万円くらい払わなければいけなかったんだよね。当時の状況的には、だったらそのお金は生活費に充てるわっていうことで、その時の担任の先生に不参加のことを伝えたら、すごく冷たい言葉を投げかけられてさ。
で、その時あたりから世の中は良い面ばかりじゃなくて悪い面もあるんだなぁって気づいて。そこから社会とか生き方も含めて斜に構え始めたかと思ってる。人はいつか死ぬから、いかに自分の人生を生きるかっていう発想もそういう時から考え始めたようには思うね。

今でこそ、こうやって落ち着いて振り返っていられるけど、当時はやっぱり人生ってなんだろうとかって悩んでたね。

—原体験にはそういう背景があったんですね。

I:そうそう。それと大学は結局行ってないけど、夜間大学の受験はしたことあるのよ。お金なかったから直前までバイトしてたけど。でも、なんか本当に大学で勉強したかったかっていうと、そうではなくて。人生における目標が特になかったから、とりあえず受けてみたっていう気持ちが強かった。目標がないからとりあえずみんながしていることするかっていう。まぁ、今でこそ、こうやって落ち着いて振り返っていられるけど、当時はやっぱり人生ってなんだろうとかって悩んでたね。

—人生に迷ってたというのもあって、あまり明確に大学に行きたいっていう訳ではなかったけど、受験はしてみたと。

I:そうだね。特に大学行って何がしたいって目標もなかったけど。

—それで結局は大学に行かず、高校を卒業してからどうしたんですか?

I:そのあと、家にお金は入れなきゃいけなかったってのもあって、当然だけど働かなきゃいけなかったんだよね。で、当時就職しちゃうと高卒の給与的に月に13万円ぐらいだったのね。その給料で家に10万円送っちゃったら残り3万円だし、3万円じゃさすがに生活できないから。でもバイトだったら頑張ったらまあ20万円弱くらいは稼げたから、アルバイトで生計立てることにしたんだよね。
で、話逸れちゃうけど、働いているうちに表現したいっていう気持ちが出てきて、詩を書き始めたのよ。なんで詩だったかっていうと、文学だったら鉛筆一本で書けてお金かからないしっていうのと、その時の状況に対する反抗心もあったんだよね。 だからお金のかからないもので、何かを作るっていうことに意味を感じた。でも、決して詩で生計を立てるっていうことは考えてなくて、ただ純粋に詩で自己表現することが一番楽しかったんだよね。

アルバイトして、詩を書くっていう自分の生活を振り返って、うまく溶け込めないでいる社会から自分は逃げているだけかもな…って悩んだりしてて。

—自分という存在が生きていることを示すものが詩だったということですか。

I:うん、そうだったと思う。あと、若いころは結構自問自答を繰り返していて。アルバイトして、詩を書くっていう自分の生活を振り返って、うまく溶け込めないでいる社会から自分は逃げているだけかもな…って悩んだりしてて。なにか人生における明確な目標に向かって突き進んでいていたってわけでもなかったしね。
あと仕事だけど、高校時代はガソリンスタンドでバイトして、高校卒業してからは夜間も働けるガソリンスタンドで働いた。そこからは色んな仕事を転々としていたね。いろんな仕事を通して様々なものを見てみたいっていう気持ちが強かったんだよ。ランボーっていう詩人がいるんだけど、その人が詩人になるためには多様な経験をしなければいけないってこと言っていて、それで色んな仕事に就いてみた。子どもだったから影響されやすかっただけだけど(笑)

仕事はやらずに1年ぐらいずっと絵を描いてた。
1日16時間から17時間ぐらいは描いてて

—実際とりあえず手当たり次第なにかいろんなことをするって結構発見もありますからね。

I:そうそう。で、そこからスーパーで働いて、ペンキ屋で働いて、スパゲティ屋で働いて、運送屋で働いて。で、またスパゲティ屋に戻ったり、色々。で、その後コンビニで働いて、布団のディスカウントショップでも働いたかな。
それで、今の仕事と絵を描き始めることに繋がる話になるんだけど、
渋谷区の小学校で障がい児学級の補助員として働くきっかけがあって働いたんだよね。そこは給料は安かったから掛け持ちで。で、その時にたまたま自閉症の子の絵を描く姿を見ることがあってね。それがすごかったんだ。ぶっといクレヨンを握りしめて、それを「バンッ!」て、机に叩きつけるようにして描いてたんだよね。それを見て、感銘を受けて自分も描きたいと思って絵を描き始めた。

—その時に詩という表現から、絵での表現に情熱が向いたんですね。

I:そう。そこから、仕事はやらずに1年ぐらいずっと絵を描いてた。
1日16時間から17時間ぐらいは描いてて、描かなかった日はなかったと思う。友達の誘いとかもほとんど断っていて。だから当時100万円あった貯金も全部なくなっちゃったよね、その時に(笑)
自分が上手くなっていく過程を客観的に見るのは楽しかったね。 子どもの頃に友達同士で似顔絵を描き合いっこする授業があって、その時は本当に下手くそだったから、人の絵を描くのは苦手だと思ってたんだけど、それを克服できた。
それからは、仕事して、お金貯めて、お金貯まったらお金がなくなるまで絵を描き続けるっていう生活をしてたね。その時にまだ家に仕送りをしてたら、そういう生活って難しかったんだけど、その時はすでに仕送りをしなくてもよくなってたから。だから、家賃払えないなって思い始めてからまた働き始めるみたいな生活をしてたね。 

—本当にお金を貯めては、絵だけに集中するっていう生活をしていたんですね。

I:うん。で、お金なくなったら焼肉屋とかスーパーで働いて。基本的に夜勤で働いてたね。

途中で駅にあったバイト情報誌をなんとなく手に取って、パッと開いたページに「障害者の一人暮らしをサポートしませんか?」っていう文字を見つけて、その時直感的にすごく面白そうだなぁと思った

—夜勤だった理由は給料の観点からですか?

I:夜勤だった理由は、給料のこともあるけど、お昼に陽の光で絵を描きたかったからだね。
で、また貯金も尽きて新しい働き口探さないとなぁって時期に、コンビニにバイトの面接に行こうと思って。でも履歴書忘れちゃったことに気づいて、家に取りに戻る途中で駅にあったバイト情報誌をなんとなく手に取って、パッと開いたページに「障害者の一人暮らしをサポートしませんか?」っていう文字を見つけて、その時直感的にすごく面白そうだなぁと思ったのよ。そこからその仕事に即決。(笑)

—そんな運命的な出会いがあったんですね。で、その時を境に介護の世界で働いてるってことですね?

I:そう。初めて長続きしてる仕事だね。それが2007年ぐらいかな。だからそこからもう10年以上続いてるっていうことになるんだよね。

正直自分みたいな生き方でも生きていけてるってことは知ってほしい。オススメするわけじゃないけど(笑)

—ずっと同じところで働いてるんですか?

I:うん、ずっと同じ所。

—それは雇用形態としては正社員ですか?

I:いや、アルバイトだね。ヘルパーって言ったら聞こえがいいけど、福利厚生があるわけじゃないし。でも前までのバイトってボーナスなんかなかったしね。でも今はボーナスも出るし、まあいいかなって。
ボーナスって話で言うと、なんか時期になるとニュースで今夏のボーナスの平均支給額がなんとかっていうのがあって、結構な額が示されてたりするけど、自分としては遠い国の話のような。(笑)
でもまぁ、正直自分みたいな生き方でも生きていけてるってことは知ってほしい。オススメするわけじゃないけど(笑)

—ちなみに今って1週間にどれくらい働いてるんですか?

I:普通に週5くらいで働いてるね。
で、休みの日は喫茶店の店主として働いてるから、完全に休みの日がない状態が続いたりする。
今は突発的に人が足りなくなったら休みの日でも基本的には仕事に出るね。自分が働かないと、障がい者の方達は自分で生活できないからね。

将来のことに対してあんまり不安には感じないんだよね。今しか見てないという意識が強いと思う。70歳の人生設計考えて、60歳で死んだら意味がないとか思ってしまう。

—今の仕事をここまで続けられているのは、やっぱり合ってるからなんですかね。

I:うーん、理由としては2つあって、
1つは、36歳あたりを過ぎてから、アルバイトでも選択肢が狭くなったっていうのはあるね。もちろん仕事にもよるんだろうけど。
あとは、今の仕事っていうのが純粋に面白いし、これまでやってきた仕事よりもやりがい持ててるよね。

—これも聞きたかったんですが、これまで基本的にバイトで収入を得てた訳じゃないですか。そこへの不安はなかったんですか?その、不安定さにというか。

I:それで言うと、将来のことに対してあんまり不安には感じないんだよね。今しか見てないという意識が強いと思う。
将来のことって、考えても仕方ないかなって思っちゃうんだよね。 70歳の人生設計考えて、60歳で死んだら意味がないとか思ってしまう。

—Iさんのスタンスとしては、将来のことは考えてもどうなるかわからないから、今この瞬間を生きるということですよね。

I:そうだね。ただ、将来設計とまではいかないかもしれないけど、なんとなく人生最後の10年間になりそうな時期からは、働かずに暮らしたいっていう気持ちはある。それまでは働いていたいけどね。
だから、実はそのために今お金を貯めてるのよ。理想の終わり方みたいなものは考えてる。

自分は幸せっていうことをそこまで意識はしていない。
ただ、自分の意思や想いが表現できてない状況下は辛いと思う。

—今この瞬間に集中しつつも、終活的な観点で計画は持っているんですね。
ちなみに、Iさんにとって原動力ってなんですか?人生における「幸せ」みたいなものとも言えるなにかかもしれないですが。

I:結構いろんな人が幸せって何?っていう話するじゃん。でも分かんないんだよね。自分は幸せっていうことをそこまで意識はしていない。
ただ、自分の意思や想いが表現できてない状況下は辛いと思う。

—そういう意味では、自己の想いを表現できている状況がある意味幸せな状態に近しいってことですかね?

I:そういうことかもしれないね。

—幸せになりたいと思ってる人って多いと思っていて、僕はそうだったんですけど、「自分にとっての幸せ」ということが明確じゃない人もいて、そこでしんどく感じることもあるんですよ。

I:それこそ、テレビの世界とかネット上の情報とか、そういうものを基準に幸せを見つけようとすると、自分じゃ無理なんだって思っちゃう人もいるような気がするんだよね。
自分の場合、幸せってことを考えたことがないとは言ったけど、やっぱり自己表現ができている状態は幸せなのかなとは今感じて。それで言うと、まずは自分だけに視点を当てて、何をしている時が楽しいんだろうってことを考えたら良いんじゃないかな。

昔は自分ってやっぱり人とズレてるなーってことを思うこともあったりしたけど、ズレている人って実はたくさんいるし、そう考えるとズレてる人もある意味普通なのかなとは考えている。

—他者比較ではなくて、あくまで自分視点で考えての楽しさを見つけることが大切ってことですね。
ちなみに、今お仕事がお休みの日は喫茶店で店主として立ってるじゃないですか。あれは何かきっかけがあって始めたんですか?

I:少し長くなるんだけど、今ヘルパーとして介助している方のお兄さんのお子さんが引きこもっているって話を聞いて、何とかできればなと思って。
で、その子と直接話をして、一緒に京都に連れて行ったりしてあげてて。
で、その流れで社会勉強っていうことも兼ねて、ちょうど日替わり店主のお店で人を募集してたから、ちょっとやってみるかって話になって、そこからその子と働き始めたんだよね。
その後は、結局その子が知り合いの本屋で働くことになって、喫茶店には立たなくなって。それはそれで自立ができたってことだから良かったよね。で、残された自分としては、どうしようかなって思って、でもせっかくだからしばらくやってみようかなってことでそこから続けてるんだよ。

—そういう経緯があったんですね。そこでも偶然の出会いがあり。

I:自分も若い頃は、まあ悩んで考えたりとかは結構していて。その子の引きこもりの状況の話も理解はできたし、同じ目線で話はできたかなって思った。そういう意味ではこれまでの自分の人生って意味があったのかなとは思える。
昔は自分ってやっぱり人とズレてるなーってことを思うこともあったりしたけど、ズレている人って実はたくさんいるし、そう考えるとズレてる人もある意味普通なのかなとは考えている。

—今でこそ、「人っていつか死ぬから、今に集中して生きている」ってことを仰ってますが、これまでの中で悩みもあったってことを聞いて僕もなんか少し安心しました(笑)
本日は貴重お話ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?