わきさか

上智大学お笑いサークルSCS3年、わきさかによる珠玉のエッセイの数々をご覧あれ 上智大…

わきさか

上智大学お笑いサークルSCS3年、わきさかによる珠玉のエッセイの数々をご覧あれ 上智大学詩歌会にも所属 Twitter→ @wakisaka__

記事一覧

サッカー選手、あるいはパティシエ

 大学も3年生のこの時期になってくると、教室の髪の毛がだんだんと黒くなってくる。一年生のころは赤、青、金とあんなにもカラフルだったのに、いまは見渡す限りの黒、黒…

わきさか
8日前
11

コミュニケーション

 この文章は、私によって、あなたに読まれるために書かれている。  わたしはあなたのことを知らない。あなたが誰なのか、わからないし、もしかしたら、あなたも私のこと…

わきさか
3週間前
2

縮む

 デリーから電車で6時間、インド北部の都市、アムリトサルは長い顎髭と頭に巻かれたターバンで溢れていた。その街にはインド全人口の約1.7%を占める少数宗教・シク教の信…

わきさか
1か月前
3

何のために学ぶのか

 どこまでも続く長い道、あるいは、終わりの見えない細い洞窟を、僕はいつも歩いていた。そのペースはつねに不規則で、それでも、僕はずっと何かに向かって進んでいた。周…

わきさか
1か月前
3

 タランバンは雨の多い街だった。  九月、ぼくはフィリピンのセブ島にあるその街で、一ヶ月間の短期留学をしていた。セブといえばのリゾートの雰囲気などかけらもないそ…

わきさか
1か月前
6

記憶

   スピッツというバンドに、ウサギのバイクという曲がある。彼らの歩みの中でも初期の尖っていたころにリリースされた曲で、歌詞の半分がスキャットでできている、変な…

わきさか
1か月前
4

好きな言葉

 昨年の夏にインドに行った。友人に誘われ、単に観光目的で行っただけであったが、その国に行く他の多くの人と同じように、そこに訪れることで何か自分の中で価値観が変わ…

わきさか
2か月前
2

客体化される死者について(大森静佳「琵琶子」にたいする歌評)

※大学の講義で書いた歌評です。けっこう良い評価をもらったのでここにも載せます。大学向けに書いたものなので、無理に字数が引き伸ばされています。そこも楽しんでいただ…

わきさか
3か月前
1

怖いこと

1000字くらいのエッセイを書け、と言われて10月に書いたエッセイ。念のため言っておくけど、ぼくは東京出身です。  怖いことは世にさまざまある。いつも財布に入っている…

わきさか
9か月前
3

さいきん思うことの雑記

高円寺のアール座読書館、かなりいいところなのでぜひ行ってみてください。全部の席にこういうメモがあって、みんな色々なことを書いていてかなりおもしろいです。

わきさか
1年前
2

メアリージェーンという曲

『メアリージェーン』という曲。andymori解散後にその初期メンバーが中心となって結成されたバンド・ALのファーストアルバム『心の中の色紙』の収録曲。とにかく良すぎるの…

わきさか
1年前
7

たたかうための宣言

 青松輝という歌人が、こういうnoteを書いていた。  これについて、夜中にいろいろと考えたので、その一つの結論として、考えたことをここに書いていきたいと思う。”創…

わきさか
1年前
14
サッカー選手、あるいはパティシエ

サッカー選手、あるいはパティシエ

 大学も3年生のこの時期になってくると、教室の髪の毛がだんだんと黒くなってくる。一年生のころは赤、青、金とあんなにもカラフルだったのに、いまは見渡す限りの黒、黒、黒、それにたまの茶色だ。そんなにも髪を黒くして何を話しているかというと、教室からはやれESだ、インターンだなどと聞こえてくる。次第に教室にはスーツ姿で入ってくる者も増えてきて、授業では教授が就活での休みは公休にカウントしないと注意を始める

もっとみる
コミュニケーション

コミュニケーション

 この文章は、私によって、あなたに読まれるために書かれている。
 わたしはあなたのことを知らない。あなたが誰なのか、わからないし、もしかしたら、あなたも私のことを知らないかもしれない。しかし、それでも、私は他でもないあなたのためだけに、この文章を書いている。

 あらゆる文字は読まれるために書かれる。あらゆる歌は聞かれるために、あらゆる絵は見られるために、あらゆる料理は食べられるために、つくられて

もっとみる
縮む

縮む

 デリーから電車で6時間、インド北部の都市、アムリトサルは長い顎髭と頭に巻かれたターバンで溢れていた。その街にはインド全人口の約1.7%を占める少数宗教・シク教の信者が数多く住んでおり、その宗教では男性信者の誰もが、トレードマークとして競うように顎髭を伸ばし、誇らしげにターバンを巻いていた。
 アムリトサルにはシク教の総本山が置かれている。1.7%といっても数にして2000万人強、仏教に次いで世界

もっとみる
何のために学ぶのか

何のために学ぶのか

 どこまでも続く長い道、あるいは、終わりの見えない細い洞窟を、僕はいつも歩いていた。そのペースはつねに不規則で、それでも、僕はずっと何かに向かって進んでいた。周りには他の人間がいることもあり、そのうちのいくつかとは、何らかの話をしたりもしたが、それとは無関係に、僕はいつも独りだった。



 いつも目的のために学んでいた。小学校のときそれは中学受験で、中学のときは定期テストの点数、高校の時は大学

もっとみる
雨

 タランバンは雨の多い街だった。
 九月、ぼくはフィリピンのセブ島にあるその街で、一ヶ月間の短期留学をしていた。セブといえばのリゾートの雰囲気などかけらもないその街には、いくつも英語学校があって、その街ではどこでも、夕方になると決まって土砂降りのスコールが降った。

⚪︎

 ぼくはその学校に、本当であれば3年前に来ているはずだった。しかし、コロナによってその学校は休校となり、エージェントの取り計

もっとみる
記憶

記憶

 

 スピッツというバンドに、ウサギのバイクという曲がある。彼らの歩みの中でも初期の尖っていたころにリリースされた曲で、歌詞の半分がスキャットでできている、変な曲だ。
⚪︎
 ぼくがその曲をはじめて聴いたのは15の夏で、その時、乗っていた小田急線が、やけに強く揺れているように感じたのを憶えている。
⚪︎
 ぼくはその曲をかなり気に入って、それからそればかりをループして聴いていた。そういうわけで、

もっとみる
好きな言葉

好きな言葉

 昨年の夏にインドに行った。友人に誘われ、単に観光目的で行っただけであったが、その国に行く他の多くの人と同じように、そこに訪れることで何か自分の中で価値観が変わるかもしれない、という淡い期待を抱かないわけではなかった。

 ありきたりな表現だが、インドはとにかく混沌とした国だった。一歩空港の外を出るとすぐに十余人の許教師に囲まれ、タクシーは手配したか、SiMはあるか、金を恵んでくれととにかくうるさ

もっとみる

客体化される死者について(大森静佳「琵琶子」にたいする歌評)

※大学の講義で書いた歌評です。けっこう良い評価をもらったのでここにも載せます。大学向けに書いたものなので、無理に字数が引き伸ばされています。そこも楽しんでいただければ。

 この歌をどのように読むか、ということを考えた時に、この歌の解釈でもっとも意見がわかれるところはどこか、というと、それはおそらく、「新聞の匂い」がいったい誰の手に残っているのか、というところであろう。これは言い換えると、この歌の

もっとみる

怖いこと

1000字くらいのエッセイを書け、と言われて10月に書いたエッセイ。念のため言っておくけど、ぼくは東京出身です。

 怖いことは世にさまざまある。いつも財布に入っているはずの定期をなくしてしまうことが怖いし、好きな人からLINEが返ってこなくなるのも怖い。寝坊して単位を落とすことが怖いし、バイトでミスをしてしまうことも怖い。生きていれば、たいていは何かのことをつねに恐れているような気さえする。しか

もっとみる

さいきん思うことの雑記

高円寺のアール座読書館、かなりいいところなのでぜひ行ってみてください。全部の席にこういうメモがあって、みんな色々なことを書いていてかなりおもしろいです。

メアリージェーンという曲

『メアリージェーン』という曲。andymori解散後にその初期メンバーが中心となって結成されたバンド・ALのファーストアルバム『心の中の色紙』の収録曲。とにかく良すぎるので、とりあえず聞いてほしい。

 僕はandymoriが大好きで、音楽を聴くときは、いつでもどこかでその幻影を追い続けている。メアリージェーンはALの曲の中でもかなりandymoriがもつ雰囲気と共通のものを持っていて、だからそこ

もっとみる

たたかうための宣言

 青松輝という歌人が、こういうnoteを書いていた。

 これについて、夜中にいろいろと考えたので、その一つの結論として、考えたことをここに書いていきたいと思う。”創作”という概念について、この青松の記事にあるそれを完全に引用するわけではないが、少なくともそこからの影響を多分に受けていることは先に述べておきたい。

さておそらく、青松のような人間は、人生における創作の、その自己表現のアウトプ

もっとみる