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アッチッチ~で危機一髪!

体が溶けてしまいそうな猛暑の中、通院や母の用事をエンヤコラとこなしているうちに、いつの間にか7月が終わろうとしていて、あ!
指定難病の受給者の更新手続きが月末までなのに、すっかり忘れていた。
今日は1歩も出ないつもりだったのに、提出書類を抱えてギラギラ太陽の下、えっちらおっちら徒歩10分の区役所へ。自然と「アッチッチ、アッチ~🎵干物になっちゃうよ~」なんて口ずさんでいた。
いつもながら懇切丁寧な対応で問題なく手続き終了。やれやれ。

帰り道にスーパーへ寄り、あれやこれやと選んでいる途中、急にお腹が痛くなった。
子宮頸癌の再発した場所が膀胱の近くで、手術の後遺症で未だに突然腹痛が起きる。
う~ん。
ちょいとまずいかも。
このスーパーはトイレは貸してくれないことはわかっていたけれど、冷や汗が出てきたので、一応近くにいた店員さんに聞いてみた。
「トイレ?ないです」
アルバイトらしき若い女の子はケンモホロロ。慌てて買い物籠を隅に置き、近くにある兄の店に駆け込んだ。
危機一髪! 
ふぅ~。
ホッとしたところで、子宮頸癌の術後、放射線治療をしていた時のことがまざまざと甦った。
副作用で頻尿と下痢に悩まされた日々。出かける時は漏れ対策必至。駅のトイレやチェーン店のコーヒーショップ、トイレが借りられるコンビニやスーパーと、飛び込める場所は必ずチェックしていた。
漏れ対策をしているとはいえ、やはり抵抗感があり、アスリートのようにあちこちのトイレに駆け込んでいた。

その日は延期できない用事で出た帰り、バス停近くの24時間スーパーで夫と待ち合わせた。たまにしか行かないスーパーだけれど、遅い時間だとけっこうなお買い得品に会えるので楽しみにしていた。
ところがスーパーに入ったとたん、お腹が怪しく痛みだした。夫が近くにいた店員さんに「トイレは?」と聞いてくれた。「ないんです」。
私は持っていた荷物を夫に渡して「お米お願い!あとは任せた!」と言いおいて、走れば5分くらいの自宅へ向かった。けれど信号で足止めされた上、お腹の痛みで走れない。ああ、やばい!
藁をも掴む思いで信号を渡ったところにあるコンビニに飛び込んでいた。
「お手洗い、貸してもらえませんか」
振り返った若い店員さんは、嫌なものを見るような目付きで眉間に皺を寄せた。
「トイレ?ないよ」
そして犬でも追い払うように手をヒラヒラさせた。
言葉もなく飛び出し、必至で我が家に向かう。
下手くそな競歩のような、へんちくりんな歩き方しかできない。
ああ、やばい。
やばい、やばい、やばい!
寒い時期だったのに額に汗が滲んだ。
ああ、神様、神様、神様!
必死に願いながらヨタヨタと歩く。けれど神様は、角を曲がれば我が家という場所で私を見放したのである。
あーれー😵🌀
哀れ真珠は悲惨の海に溺れ、
抜き足差し足で階段を上り、トイレではなくお風呂へまっしぐらに向かったのだった。

兄の店を出てスーパーへ戻り買い物をすませたけれど、あの日の悔しさと情けなさを思い出してモンモンとするばかり。
若い彼女達が悪いわけじゃないことはわかっている。トイレを聞かれたら「ない」と言うように言われているのだろう。けれど、ただ「ない」と言うのと、相手の立場に立って「ない」と言うのはまるで違うということを、大人がきちんと教えてあげなければいけないと思う。
あるスーパーでは、私の必至の形相に「うちは貸せないんですが、隣のビルにあるのでご案内します」と、わざわざ連れていってくれた。神対応に涙がこぼれそうになった。そこまでは望まないけれど、いろいろな状況の人がいることを理解した上で「ない」と言う言葉を発して欲しい。
そもそもあれだけ従業員がいるスーパーに、トイレがないはずはないのだから。
「すいません。お貸しできないことになってるんです」
なら仕方ないと思えるのは屁理屈かしらん。

モンモンとする想いを私は、話を聞いてくれそうな年配の店員さんにやんわりと伝えた。なんと思われようと伝えられずにいられなかった。
神妙な表情で聞いてはくれたけれど、お腹のなかはわからない。そんなババアは出かけるなと思っているかもしれない。でも私は彼の「気を付けます」と言う言葉を信じたい。何かは伝わったと信じたい。信じることで思いやりという花が咲き、悲しく辛い思いをする人がひとりでも減ってくれたらと思う。

気を取り直して屋上のプランター菜園へ。夕方になってもまだ日差しはギラギラしている。見渡せばみんなヘナチョコ顔。
アッチッチ、アッチ~🎵
しなびちゃってるよ~🎵
シワシワのシシトウから、そんな歌声が聞こえる。

「早く水をくれ~」と言っているけれど、まだ熱がこもっているのであげられない。
「後でね」と部屋へ戻ると母から電話。
「あんた今日はいろいろありがとね」
ん?
「行ったのは昨日だよ」
「え、そうだっけ?」
おかあさ~ん。
「まあいいや。また待ってるよ」
はい。漏れ対策しっかりして行きますよ。
お母さんもしっかりね、
ふふ。



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