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最高の作品「文学フリマ」

会場のすぐそばに、あじさいが咲いていたらしい。
これはホテルに戻ってから耳にした情報で私は目にしていない。
視界に入っていなかったのだろう。自分と、搬入されてきたポスターやスタンド、そして何よりも4種類の本のことで頭がいっぱいだった。

出店者の入場開始時間ちょうどなのに、長蛇の列ができていて少し目が潤む。
言語化できない感情が私を満たした。

ひとりで出店する文学フリマ東京は、3回目。
文学フリマ大阪と京都をあわせると、5回目。

最初の文学フリマが私に与えた心地よい衝撃は、ゆっくりと余韻となり今も私を満たす。
あの日、私は思ったのだ。
できる限り文学フリマに出ようと。

設営は今も慣れず、途中まで付き合ってくれた友人がいなければ開始時間に間に合わなかっただろう。
とろくてどんくさい私は、終わるときもそのような様子で、忘れ物がないか見回していた。

文学フリマの開始から終了までは一瞬ですぎる。

「ごはん食べてる?」

友人に言われて、彼女が差し入れしてくれたお菓子が手元にあることを思いだした。

「余裕できたら食べてね」

心配そうにそう言いながら友人は帰った。
私のために来てくれたのだ。

ふと考える。
ここに並べられた本は、私だけの努力でここにたどりついたのだろうか。

結局食べ物どころか、水を飲むこともトイレに行くことも忘れていて、終了一時間前にようやく口にしたミネラルウォーターはいつもよりすばやく喉を通った。

販売数のメモも、どこまでチェックできたかわからない。
ただ手に取ってくださるお客様を見て、「価値のあるものかどうか見定めてほしい」と願った。

どんなに自分で素晴らしいものが書けたと思っても、私の文章に価値を見出すのは読者の方々である。

ちょうど一か月ほど前、才能も天才も、自分ではなく対する相手が見出すものなのではないかと綴られた山田ズーニーさんの書籍を読み、感銘を受けたばかりだった。

私はからっぽだ。
才能もなく、天才でもない。
しかし本を通して、筆者の私は読者ひとりひとりと対話をする。

そして、「価値がある」と思ってもらえたら、からっぽの私の中に才能が芽生える。
たくさんの人に言ってもらえたら嬉しいが、それよりも読者の方ひとりひとりが私との接点や、「これは自分と異なる考え方だな」といった感想を、本を通して見出だしてくれるのが嬉しい。

ずっと書きたいテーマであり、今回売れるだろうと周囲からも言われていた『後味の悪いマイナー映画20選』は売り切れた。

当日、もしくは後日、感想をいちばんいただいたのは一年前に出した既刊『私たちが「産まない」を選んだのは』である。
正直、照れくさくもあった。
一年、仕事や趣味で毎日文章を書いていれば、文章力も表現力も変わる。
「今ならこう書けたかもしれない」と思いつつも、さまざまな人生の道を歩む読者の方とこころが通じたのを感じた。

小説ブースの並ぶ場所とは離れていたのに、中編小説を買ってくださった読者の方もいた。
今後は文学賞応募のために中編小説・長編小説はあたためておくので、恐らく最初で最後の小説同人誌である。

そして最後まで読むと『私たちが「産まない」を選んだのは』とのつながりを感じていただける『ピンクが好きだと叫びたい』は、予想より男性の方が買ってくださった印象だった。
女の仕事が、奪われていく。
女性性を消すことが「善」とされる。
そんな今の時代を感じ取る方は、男女ともに多いのだろう。

「思想が強めですね」というご意見もいただいたが、個人的には気軽に読んで何かを感じていただきたいエッセイとして書いた。
文学フリマのあと、RadioTalkで熱く語ったのもこの本である。

原稿作成、デザイナーへのブックデザインの依頼、印刷所を選び入稿……

自主制作をするにあたってしたことを並べてみると「苦労」と名づけられるかもしれない。
しかし私はすべてがこの文学フリマの心地よい衝撃につながっていると感じている。

私にとって、文学フリマとは何なのだろうか。
あらためて考えてみた。
きっと文学フリマ自体がひとつの「作品」だ。
響きもメロディも異なる魅力の詰まった作品なのだ。

そしてその作品を作り上げたのが文学フリマの運営の方々である。

どれほどの熱意と愛情があれば文学フリマという作品を作り上げることができるのか、私はまだ知らない。
しかし、参加することで少しだけ作品をつまみ食いしてみる。

芳醇で濃厚で、味わったことのない魅力が私に迫ってくる。

即売会で「〇〇がいちばん」といった言い方はしたくない。
しかし文学フリマの時期だけは、声をあげて言いたい。

新しいときめきや出会いをもたらす文学フリマ。
文学フリマこそが最高の作品であり、運営の方々がもっとも優れた作家である。

そう思いながら、私は手帳を開き、次の文学フリマの予定日にチェックをする。

どうか文学フリマを運営してくださった皆様は、胸を張って言ってほしい。

#私の作品をみて  と。

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