見出し画像

心の闇から生まれる怖い話、集めました。――第1話


心の闇から生まれる怖い話、集めました。

あらすじ・作品説明

児童から中高生向けのショートホラー短編集。
心の隙から生まれるちょっとした恐怖。
こちら側に踏みとどまることと、向こうの領域に侵入してしまうのは紙一重。
もしかしたら、この話はあなたに起こっていたのかもしれない、そんな身近なところにある物語。
1話3分程度で読める小説です。創作大賞2024応募形式を整えるため番号を振ってますが、独立したお話なのでどこから読んでもかまいません。
随時更新していきます。

※※※

その1 仲間に入れてとあの子はいう


 学校から帰る途中、由羽ゆわは駅でばったりと中学校時代の友達と再会した。
 高校へ進学してからは一度も会っていなくて、それぞれの近況を報告し合った。
 ふしぎなことに、話しこんでいると見知った顔が次々と通りかかり、気がつくと五人の旧友たちが輪になって中学生時代の思い出話しでもりあがっていた。

「ねぇ、これから中学校に行ってみない?」
 と、誰かがいいだした。
 旧校舎がいよいよ取り壊されるらしいのだ。

 通常の授業を受ける教室は、由羽が入学するよりずっと前に鉄筋の新しい校舎が建築されたのだが、旧校舎はそのまま職員室や特別教室として利用されていた。
 そのほとんどの教室は使われていなかったが、廊下を走ると窓ガラスがカタカタと揺れるような木造の平屋で、かなり傷んでいたのは確かだった。
 由羽たちが卒業した年にはもう、建て替えのプランが上がっていたという。

「取り壊される前に写真撮っておこうよ」
 誰かがいって、おもしろ半分の気持ちで由羽たちは自転車で中学校へ向かった。

 到着するころにはあたりは暗くなっていて、誰かがいる気配はまったくしなかった。
 正面の門は固く閉ざされているが、勝手知ったる母校だ。脇から簡単に入れる場所を由羽たちは知っていた。
 植え込みの間からするりと侵入する。
 より一層ひっそりとした空間に少したじろぐ。
 三年間通った馴染みある場所なのに、なぜだか怖かった。
 目の前に建つ旧校舎はほの暗い。
 職員玄関の前に立っている外灯だけがぽつんと周囲を照らしていた。

 校舎に近づいて窓からのぞいてみるが、やはりだれもいない。
「怒られるといけないから早く撮っちゃおうよ」
 直美はそういってスマホを取り出した。
「このへんでいいかな」
 由羽たちは顔を寄せ合い、直美のスマホで自撮りした。

「どんなかんじ?」
 由羽が聞くと、直美は画面を見せてくれた。
「なんかフラッシュで顔テカりすぎ」
 紗菜がそういって笑うと、千恵は画面を指さした。
「いや、そんなことより、これ」
「窓になんか映ってる?」
「ちょっと、直美、アプリ仕込んだでしょ」
 責め立てられた直美はそんなわけないじゃんと否定する。
「じゃあ、由羽ちゃんのスマホで撮ろうよ」
 というので、由羽は自分のスマホを取り出して同じように撮影した。

 画面を見せると「ちょっと、普通すぎ」といわれ、
「なんでがっかりされるのよ」とやり返す。
「ねぇ、今度はわたし。自撮り棒あるし」
 紗菜もスマホを取り出して、長い棒の先にスマホを取り付けて撮影した。そして、千恵は人の顔が血みどろになるアプリで撮影したり、写真を交換したりと、一通り撮影会が終わったときだ。

 一瞬、なにかが通りかかったようにシンと静まりかえった。
「……そろそろ帰ろうよ」
 直美がいうと、みんな同意した。ひとけのない静かすぎる学校は、思いのほか居心地が悪い。
 スマホをバッグにしまっていると、

『ねぇ、わたし、まだ撮ってないよ……』

 小さな声がどこかから聞こえてきた。
 由羽たちは思わず顔を見合わせた。

「いやだ、誰かいるの」
「遠くの声が響いてるんじゃない?」
「早く帰ろ」
 みんな誰にも後れを取りたくなくて、横一列になって一斉にかけだしていた。

 その晩のことだ。紗菜からSNSでメッセージが届いた。
 自分が撮った写真を拡大して、みんなの瞳に映っているものをよく確認してみてほしいとあった。

 どういうことだろうかと、紗菜が撮影した写真を拡大してみた。
 すると、みんなの黒い瞳にはなにかの影が映っていた。
 それが人影だとわかったとき、由羽はゾクリとした。
 自撮り棒で撮ったはずなのに、自分たちの目に誰かが映っているなんてことがあるわけない。

 瞳に映っていたのは肩まで髪が伸びた、セーラー服姿の少女。
 母校の制服を着た少女だ。
 少女の顔はよくわからない。
 少女は古めかしいカメラを右目に当て、左目をつむってシャッターをきるようなポーズをとっていた。
 制服のデザインは何十年と変わらないと聞いている。
 学校にいついている幽霊だろうか。
 すごく昔になにかあったのかもしれない。

「だけど、この子って……」
 紗菜もそれに気がついたんじゃないだろうか。
 あの子に似ている。
 教室でいつもぽつんとしていた戸田さん。
 なにをやるのもひとりぼっちで、無視され続け、だれも仲間に入れてあげようとはしなかった。

 彼女のことはよく知らない。古めかしいカメラを持っているかどうかわからないけど、彼女ではないはず。
 だって、彼女は生きている。彼女は由羽と同じ高校に通っているのだ。今では普通に友達がいるようで、黒歴史を封印してひっそりと高校生活を送っている。

 中学校に居つく霊だろうとは思う。
 もっと古い時代、この学校に通っていた生徒の霊。
 もちろん、それだけでも充分怖いのだけど。

 でも、ちょっとした罪悪感が、仲間はずれのあの子を思い起こさせたのだった。

(了)

第2話以降のリンク


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?