読書感想『万両役者の扇』蝉谷 めぐ実
江戸森田座気鋭の役者・今村扇五郎。
彼の役者として芸を追求してやまないその姿は、彼に関わる人を魅了し狂わせていく…。
芝居のためになら犬を殺す彼の妻、犬の形のまんじゅうをリアルに作りこむ和菓子屋、自分の衣装を仕立てるために教えを乞う若手役者…
芝居のために全てを捧げる扇五郎…果たして「芸のため」ならどこまでの所業が許されるのか。
芝居という偽りの世界で現実との境目があやふやになっていく人々を描くエンタメ時代小説。
うおおー…気持ちわるぃぃぃ(褒めてる)…!!!!!!!
舞台での、いや舞台を降りてからも『今村扇五郎』という役者が『本物』であることを示すために、本人も彼を支える周りの人たちもずっと狂ってる一冊である。
最初の始まりはそんな扇五郎に惚れ込み、彼の女房になりたいと奔走する大店の娘の可愛い恋物語、みたいな無害な始まり方をするくせに全体的になんともグロテスクでパンチが強い強い…。
扇五郎にはパッとしないが女房・お栄がすでにいるのだが、このお栄は扇五郎を支えるために心を捨てたのである。
舞台でリアルな血糊のための所業が描かれてるシーンで僕は気持ち悪くて読むのやめようかな、と思ったくらい…
ただ、この狂った人たちの…芝居を成功させ、扇五郎が『本物』であることを世間に認めさせねば気のすまない人たちの行く末が気になって続きを読んでました。
扇五郎に関わる平凡な人々は、自分が扇五郎と何かしら繋がっていたいと願い、結果どんどん人の道を外れていくのである。
それはやがて死人を出すまでに至り、一つではない人殺しが発生してしまう(ネタバレ避けてビミョーな言いかたで…ネットのあらすじにさらっと書いてあったけどね…)
それでも、それさえも「芝居」にしてしまえばいいという、芝居狂いたちの一冊である。
いやー…気持ち悪い(褒めてる)…。
いやほんと、『本物』であるということを知らしめるために、現実にまで浸食させている彼らの常識がずっと常人からは頭おかしくて気持ち悪いんだよ…。
普通の人間には理解ができないでしょう?ということも含めて、扇五郎がいかに天才で素晴らしい役者なのかを知らしめようとしてくる感じがずっと気持ち悪い。
扇五郎だけではなく、芝居という偽りの世界を作り出すことに心酔し、自分の欲を満たすことにしか興味のない『本物』たちがマジずっと狂ってる一冊である。
粋であること、本物であることだけが彼らの正義で、そのためには人の尊厳さえ侵してしまうことさえ正当化されている。
粋って何??本物ってなんなの???って倫理観が拒絶してくる一冊です。
面白かったけど…いや、うん、気持ち悪い(褒めてる)
ほぼ気持ち悪いしか言ってないwww
・呉 勝浩『Q』
・蝉谷 めぐ実『化け者心中』
・吉田 修一『国宝』
本物、だとか天才、だとか呼ばれる人を魅了する異能の小説は引き込まれるよね…。
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