読書感想『森田繁子と腹八分』河﨑秋子
札幌にほど近い場所で四谷農場を運営する四谷登は、最近引っ越してきた移住者との間に見解の齟齬が生じて悩んでいた。
今まで害獣対策で出入りしていた土地への侵入を移住者によって拒否されてしまったのである。
どんなに害獣駆除に気を配っても、安全地帯が存在するとそこに害獣が逃げ込んでしまう。
困った四谷は知り合いに紹介された農業コンサルタントに半信半疑で連絡を入れた。
約束の時間にやってきたのは、真っ赤なBMWを乗り回し、ばっちりメイクに派手ないでたち、縦にも横にも大きい50代と思しき女性・森田繁子だった。
見た目の異様さに圧倒された四谷だったが、丁寧で落ち着いた所作の彼女にとりあえず相談をしてみることに…
言うことはビシッと、怒るときはガッツリ、食べるときは速攻で…
伝説の農業コンサルタント・森田繁子が何でも解決!!
伝説の凄腕コンサルタント、森田繁子が依頼人の問題を解決する連作短編である。
森田繁子…待って、情報が多いわりに結局何者かはよくわからなかったwwww
謎wwwwww
森田アグリプランニング社長で農業コンサルタントである森田繁子は、自ら身体を動かして作業をしたり、重機を乗りこなしたり、依頼者の要望に適切なプランを提示したり…となんでもできる超絶有能コンサルタントなのである。
派手な見た目とは裏腹に、所作は美しく、冷静で、容赦なく痛いところに意見を言うかと思えば、一緒になって農作業をしたり本人の気づいていない美点を褒めたり、逆に容赦なく痛いところを突いたりしながらもだからこそこうことが必要だと説いてみたりとと人間性も素晴らしい。
依頼人の要望をただ無作為に通そうとするのではなく、周りの環境や他にもかかわる人々に配慮し、誰かが十割満足するのではなく、誰もが八分満足できるように取り計らうのである。
すべての要求を通そうとするのではなく、全員の妥協点を見極め、その上でその妥協点の最高点をたたき出すための労力を惜しまないのである。
要望が全部通ったわけではない依頼者さえも、あぁそれなら…と思わず納得し、誰も不幸にならないその提案はお見事。
農業や酪農に関わるその提案は決して安易なものではなく、手間も労力もかかるものもあるのだが、自然や生き物を扱うことの難しさやそれに敬意を払いつつもいかに生産性を上げていくかの話まで全方位へ配慮がなされており思わず読んでて感心してしまった。
すげぇ…マジ凄腕コンサルタント…!!
河崎秋子作品って割と強烈…というのか、人間さえも人間じゃなくて動物寄りの書かれ方をされていることが多いイメージで…こういう現代物の時点で珍しいな…って感じなんですが、しっかりした知識があったうえで描かれた物語はとても魅力的で面白かった。
個人的には森田繁子がめっちゃ強烈キャラだったので、もっとコミカルにとんでもない感じで進むのかと思ったら、凄くリアルだったのもむしろ印象深かったり。
森田繁子の凄さはよくわかる一冊だったんですが、でも全然、森田繁子が何者なのかはわからなくて、待ってもっと詳しく教えて!?感が残ったのも、これはこの先もいろんな依頼を解決していくんだな!?と思わされてシリーズ展開していくだろうことがとても楽しみ…。
良いなぁ…全員が八分の満足が出来るようにって素晴らしいね…何なら妥協できて、どこは譲れないのかを全員からきちんと聞き出して、その上で全員がそれなら納得できるかも…を引き出すのがすごくいい。
面白くて勉強にもなって、思わずいろんな食品の生産者の方々に感謝してしまう一冊でした。
続刊希望ですわ。
こんな本もオススメ
・柚木麻子『ランチのアッコちゃん 』
・阿部 暁子『カフネ』
・荒川弘 『銀の匙 Silver Spoon』全15巻
漫画だけど、『銀の匙』も凄く生産者のことの学び多くて一緒に読んでみるといい気がする…あ、『百姓貴族』荒川弘でも全然いいんだが…。
森田繁子…ドラマ化できそうだけど森田繁子を出来る女優さんが浮かばないよ…誰もしっくりこない…マツコ・デラックスか…???