読書感想『フェスタ』馳星周

北海道浦河町で競走馬の生産牧場を親子で営む三上収、三上徹。
祖父の時代はそれなりに強い馬を生み出せていたが、最近では目立った戦歴の馬はいない。
その理由の一つに、父・収の夢がかかわっていた。
『凱旋門賞を獲れる馬を作る』…そのために収はかつて凱旋門賞で二着となったナカヤマフェスタの仔馬を生み出し続けていた。
そうして収が作り出した仔馬は調教師・児玉健司の目に留まり、将来の可能性を信じた馬主の小森達之助に引き取られることに。
調教師泣かせで有名だったナカヤマフェスタ、その血を受け継ぎカムナビと名付けられた仔馬は、父親に負けず劣らずの気性の荒さと調教嫌い、そして収の理想通りの素質を持った馬だった。
日本競馬界悲願である凱旋門賞制覇ができるかもしれない…カムナビの才能に生産者、厩務員、調教師、馬主、ジョッキー…カムナビにかかわるすべてのホースマンが夢を託す競馬小説。


か、カムナビ―!!!!って思わず叫びたくなる、めちゃくちゃ熱い一冊である。
僕は別に競馬にはそこまで興味がなく、馬券を買ったこともないんですが今カムナビが走ってたら応援馬券買っちゃいそうです。
ちなみに僕は一応オルフェーブルは知ってたけど、ナカヤマフェスタは知らなかった程度の知識である。
が、本作、めちゃくちゃ楽しめます、いや、必要な知識がすべて本書の中で説明されているので、フランスで開かれる凱旋門賞がどういうレースなのか、なぜ日本の馬が凱旋門賞を獲れていないのか、凱旋門賞へ行くにはどうすればいいのか…などなど、まったく知らなくても全部本書の中で説明してくれるのでうっかり競馬の面白さに目覚めそうになってます(笑)
こう、物語のリアリティを醸し出すのは、馳氏が本気で競馬を好きなんだろうな、というのが随所から伝わってくるからじゃないだろうか…。
カムナビは凱旋門賞を獲るために考え抜かれて交配された馬なのである。
そしてそれは、日本の競馬レースでは苦労することが運命づけられている馬でもあるというのだ。
それは日本のレースと欧州のレースの違いであり、日本の競馬場と欧州の競馬場の違いであるのだそうだ。
だが凱旋門賞へカムナビが向かうためにはもちろん日本でもそれなりの成績を残す必要がある。
なのに、カムナビ全然思うようには動いてくれない…。
調教師は振り落とす、練習馬場には入りもしない、うっかり気を許せば噛もうとする、厩務員を跳ね飛ばす…どこまでも頑固で気高く、手の付けられない暴れ馬なのである。
でもその負けん気の強さ、関節の柔らかさ、無尽蔵のスタミナ、カムナビの持つ素質にカムナビに関わったホースマンたちは皆魅了され夢を見るのだ。
誰にも媚びず思い通りに全くならないカムナビ、だが読み進めば読み進むほどその暴れ馬が愛おしくなってくる。
いや~面白かったぁ…。
まぁ、若干、馳氏の描く女の人がかかわる描写についてはちょっと昭和のおじさんな目線が多分にあり個人的には引っかかる部分もあるのだが、ホースマンとカムナビに関する部分は文句なしに最高…。
うん、そこは別の本読んだ時もひっかかったからあの年代の男の作家さんが書いてるから仕方ねぇか…と目をつぶって、競馬の面白さを堪能していただきたい。
凱旋門賞を獲るために…これは馳氏が自分が交配させるならこんな血を入れてこういう馬を作ってこうやって挑むんだっていう壮大な妄想なんでしょうね…。
ホント全く思い通りにならないのよ、カムナビ…それがめちゃくちゃ良かったよ、カムナビ…。
面白くて一気読みでした。満足。

・『黄金旅程』馳 星周

・河崎 秋子 『颶風の王 』

・古内一絵『 風の向こうへ駆け抜けろ』

競馬はしないが馬自体はものすごく魅力的で大好き…

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