読書感想『難問の多い料理店』結城 真一郎

俺は『探偵』じゃない、あくまでただの『シェフ』だ。

ビーバーイーツの配達員として働く大学生の僕は、ある日の仕事で雑居ビルの3Fで数々のレストランの名前を掲げた、所謂ゴーストレストランを訪れる。
そこには信じられないほど美形ながら全く感情の読み取れない虚空の瞳を称えたシェフがいた。
料理を受け取り、立ち去ろうとした僕に彼は「お願いがあるんだけど。報酬は1万円」と、噓みたいな儲け話を提案してきた。
それは、料理だけじゃなくUSBメモリーを届けて受領印をもらって帰ってくること…
明らかに普通じゃない、これって所謂闇バイト!?とは思いつつ、簡単で高収入なその提案に思わず僕はのってしまった。
何度かその追加のお願いを受けるうちに、どうやらこの店は料理以外に探偵業を請け負っているらしいことが分かってきた。
オーナーシェフが運ばせているのは『顧客の求める答え』、そのために彼は配達員に情報を持ち帰らせて報酬を払っていたのだ。
簡単で高収入、正し『口外すれば、命はない』…得体のしれないオーナーシェフが解き明かす事件の真相を味わう本格ミステリー。


これも一種の安楽椅子探偵モノですかね…ただ、その設定がまず面白いというか、めちゃくちゃ現代的というか…。
最近はやりのデリバリーサービス、その注文の内容が隠しコマンドになっており調査を依頼できるのである。
たまたまその案件の配達を割り振られた配達員が、オーナーシェフに協力を持ちかけられて事件捜査がスタートするのでる。
シェフはあくまでレストラン(といっても調理ができるだけで客席などはない)におり、配達員の持ち帰った情報だけで『顧客の望む答え』を導き出し、提供するのである。
いやもう、まず設定勝ち。それだけで十分興味を引ける。
そのうえで1個1個のミステリーも面白く、サクサクと読みやすいのもいい。
配達員はあくまでビーバーイーツの割り振りでレストランを訪れたにすぎず、シェフと直接の雇用関係がない。
なので、最初何話かは毎度配達員が変わり、事件の謎解きが行われる。
そのパターンが続くのかな?と思った頃に、オーナーシェフの正体を暴こうとする配達員が出てきたり、何度か仕事を請け負った配達員が手を組んで事件の真相を暴こうとしたりして、最終的には連作短編からなる長編へと姿を変えるので読みごたえもがっちりである。
そして、一冊通して美形のシェフの正体は不明でどうにも不穏な空気をまとってるのも薄気味悪い。
しかも彼は『探偵』ではなく、『シェフ』なのだ。
彼の役割は真相を暴くことではなく、顧客を満足させること、なのも良かった。
彼の語る答えは、あくまで顧客の満足するもの、というのである。
いやぁ、なかなかに色々異色な色物設定のに、しっかり本格ミステリーで読みやすく面白かった。
これはなんぼでも話作れそうだけど…続くのかしら?
もし続きが出るなら読みたいなー

こんな本もオススメ


・井上 真偽『ぎんなみ商店街の事件簿 ・Sister編/Brother編』

・天祢涼『議員探偵・漆原翔太郎」セシューズ・ハイシリーズ

・下村 敦史『緑の窓口 樹木トラブル解決します』

解釈が変わって語られる本てなんか得した気分になりません??

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