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『生殖の海』第九章 「母となること」

『生殖の海』第九章 「母となること」

抱き上げてやろうとして、飛鳥は両手を腹の下に差し入れた。ぎくりとして手を引っ込めた。猫はかすれた声で、にあ、あ、と鳴いた。


腹まろき猫をき泣くをんなありペエジを閉ぢて息ふかく

子の話をするあなたの横顔をどんな気持ちで見てゐたつけな

若草の妻のあらずて切り髪の子はありあけのほのしろき影

我がはらを痛めで母となることを思ふ朝けの風しづかなり

夢を見て覚むれば淡き峰の雲わかれて消ゆる明けがたの空

さぬ子の母とやと問ふやすらひにあなたの右手めでは肩をかない

母となること思ひ寝の夢を断てそよやあたしはこの道を行く

春雨は降りつ小止をやみつひとの子に母と呼ばするさいはひもあり

あの猫は産んだゞらうか野原にはひばり鳴きなく春の夕暮れ

花の香も風にまかするかよひ路に母とはならぬ日を重ねたり

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『生殖の海』目次

序章 にほふマルボロ
第一章 のぼるけぶり
第二章 母として行く道
第三章 しづかなる海
第四章 明けぬ夜の闇
第五章 目を開けて
第六章 及ばぬ高きすがた
第七章 いのちひとつぶん
第八章 水底みなそこの死
第九章 母となること
第十章 我が暴れ川
終章 ひかりを添へて

あとがき


この章の解説記事


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