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はじめの一歩をいつ踏み出すのか #150 完璧の追求

社会人としてのスタートは営業職でした。
そして、従事してきた中で、多くの方々と出会い、その多くの方々から多くのことを学びました。
こんな未熟な私を、嫌な顔もせずに温かく導いていただいた方々、お一人、お一人に感謝しております。

現在の主力事業は、建築市場におけるステンレス配管の普及です。
しかし、ステンレス配管をご提案している中で、あるジレンマに陥っていた時期がありました。
最近の戸建住宅における給水・給湯配管では、樹脂管と総称される「架橋ポリエチレン管」「ポリブテン管」と「塩化ビニル管」が主に使われています。
私自身、ステンレス配管の良さを実感しておりましたので、自信を持ってお薦めしておりました。

しかし、塩化ビニル管は別としても、樹脂管が悪いものだとも思っていませんでした。
また、住宅内の給水・給湯管をステンレス配管にしたところで、住宅の手前である水道配水管(本管)がステンレス配管でないなら意味がないとおっしゃる方もいました。
結局、私は、過剰スペックをお薦めすることにならないかと悩んでしまったのです。

クリック→水道管のしくみ

そんな時に出会ったのが建築家の高橋元(たかはし・はじめ)先生でした。
高橋先生は、ドイツで建築を学ばれて帰国された後に、コーポラティブ住宅をはじめ、様々な建築活動に従事されました。
1995年には、エコロジー建築・設計と情報ネットワークの組織である、「ひと・環境計画」を設立され、その年にドイツの「エコロジー建築
」を翻訳し出版されました。

当時の日本建築界は、エコ建築の意識が低く、当然、エコ建材の存在や情報も少なかったといえます。
そんな中、人の健康と環境を気遣った建築を考えるという情報を多くの人に伝えるため、情報発信をする「エコスの会」をつくられたりと、シックハウスの撲滅とエコロジー建築の普及に努められました。

そんな高橋先生にステンレス配管の良さを認めていただけたのです。

住まいづくりの手引きとして共同で出版された「健康な住まいを手に入れる本」で、給水・給湯管には、ステンレス配管を推奨していただきました。

そして、ジレンマに悩む私にこんな言葉も掛けてくださりました。

「自分自身が妥協したら、妥協した住まいづくりを提案することになってしまいます。」
「最初から完璧ではなくても良いので、より良い住まいづくりを提案し続けることが(エコロジー建築家の)使命だと思っています。」
「我妻さんは、いつ、はじめの一歩を踏み出すのですか?」

正に、農場の法則です。
種を蒔いたところで、実がなる保証はありません。
しかし、蒔かないことには、実がなることはないのです。

確かに給水・給湯管にステンレス配管を採用しなかったからといって人命に影響が出るとは思いません。
しかし、優れていると確信しているならば、勝手に妥協せずに情報を提供することが「より良い住まい」につながるのだと諭されたのです。
もちろん、住まいづくりの中で、「より良い」と「予算」の落としどころがあるのが現実ですので、お薦めしたところで採用にならないケースもあるはずです。

高橋先生は、完璧を求めて何もしないより、それでも良いのだと話してくれました。
それ以降、私の胸のつかえが取れました。
結果的にステンレス配管が採用にならなかったとしても、諦めずに、一人でも多くの方々にその良さをご理解いただけるように伝え続けています。

有限会社 ひと・環境計画

そんな、私にとって大切な存在であった高橋先生も、2004年に他界されてしまいました。
しかし、その志は、残された後継者の皆さんに引き継がれて取り組まれております。
これからも、先人からの「人と環境に優しい住まいづくり」の思想が絶えることなく、育まれることと信じております。

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