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そよげ胎海

無の荒野を泳ぐ宇宙船のなかじゃ

おそらく私は心が虚震して潰されるのであろう



海面を遠くに見上げる潜水艇のなか

それは私ひとりの操縦席で

無駄なものなど何もない

引っ越したての狭い部屋の様に

簡素な布団でうたた寝中


操縦桿は存在しないから

ずっとこの場所で停泊している

たまにカモメが海面の上で

騒ぎたてている様が好きだ


ぴゅー

ぴゅー

ららら

私は身体を揺らし潜水艇を少しだけ震わせる

気泡がひとつ

カモメに届いた


潜水艇は段々と軽くなっていく

いらなくなった外壁の部品が剥がれ落ち

少しずつ

海底に沈んでゆく


刻を数えては潜水艇は段々と浮き上がる

太陽光が側に寄る


私の心中は穏やかで

陽射しが水流を優しくかき混ぜるのが

心地良くて唄をうたう

いつもカモメがうたう唄


ぴゅー

ぴゅー

ららら


もう少しだけの海中時間

ウツボも鮫も小魚もなにもいない遊園の水域


外壁の部品が全て剥がれ落ちたら

今度は潜水艇の骨組みも

ぼろぼろと朽ちて壊れてく


私の心中は無垢なピュアリティーのゼログラム

裸の私は陽射しを目掛け

ぷくぷくと浮き上がっていくのだろう


海面で待つあなたに掬いあげてもらえたら

うれし泪で海量が溢れる

私はこの海中で見上げた一閃の溢れ射す光を

忘れたくはないと母の柔らかい腕の中で祈った


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