プーさんのハニーハントで号泣した話。
先日ディズニーに行った。
実に幼稚園以来のことである。別に遊園地が嫌いとか、そういう訳じゃない。十代の俺なら、「夢の国なのに金を取るのか。着ぐるみの中には人がいるに決まってる。」などと囃し立てたかもしれないが今は違う。入場料の分だけキッチリ楽しませてもらおう。
行列に並びエントランスを抜けるとそこは一面夢の国。俺はもう立派な大人だが、大いにテンションが上がった。さて、どこから並ぼうか。
小雨ということもあり園内は比較的空いている。美女と野獣、三大マウンテンを制覇しそろそろ帰ろうかという時。奴は目の前に現れた。
プーさんのハニーハント。20分待ち。
旅の締めはコイツに決めた。
いざ乗車
プーさんの絵が書かれた壁沿いに並び、ようやく俺の番だ。
俺を乗せたハニーポットがゆっくりと進んでいく。
プーさんの世界に入る刹那、俺は昔のことを思い出した。
幼い頃、家には俺しかいなかった。
親が仕事から帰ってくるのを俺は一人で待っていた。当時は「弟が欲しい」とよくねだっていたらしい。そんな俺を見かねて、親父はプーさんのぬいぐるみをくれた。もふもふで真ん丸な可愛いプーさん。その日からどこへ行くにもプーさんと一緒だった。毎日プーさんを抱いて寝ていた。
でも、俺が話しかけてもプーさんは何も答えてはくれない。当たり前だ。もし願いが叶うなら、動いてほしい、一緒にしゃべってほしい、そんなことをいつも思っていた。
そのプーさんが今、俺の目の前を飛んでいるではないか。
一瞬で目頭が熱くなる。いかんいかん。こんなところで泣きだしたら、周囲にドン引きされてしまう。俺の心配をよそに、物語は進んでいく。愉快な仲間たち、恐ろしいズオウ、そしてプーさんははちみつの中に。
嗚呼、どうか皆さん。
ラスト、この感動的なフィナーレを、どうか分かってはくれないか。
はちみつの中で幸せそうにしているプーさんを背に、ナレーションが流れる。
お前らに分かるかこれが。
彼らの世界には戦争も憎しみもない。誰かを妬むことも、けなすこともない。もちろん就活もない。ただ毎日を幸せに、平和に生きている。傍から見れば馬鹿にされるような、幼稚な暮らしかもしれない。でも彼らはあんなに幸せそうじゃないか。
俺は必死に涙をこらえた。この世界に涙は似合わない。第一、俺が泣いたらプーさんが悲しんでしまう。
ハニーポットが停車するやいなや、一目散に外へ走った。そして堰を切ったように号泣。抑えても抑えても涙が止まらない。
なんだかいたたまれなくなって俺はディズニーを出た。
当然、ぬいぐるみは買った。