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買ってもらうためのトーナメント戦 ブランド・カテゴライゼーションと想起集合

今週もウェブ解析士のnoteをご覧いただきありがとうございます。
マーケティング施策を立案・実行するときに、この戦略・戦術はどこに向かっているのか、何を目的としているのかを自問することがよくあります。そんな時はカスタマー・ジャーニー・マップに立ち返りどのフェーズに対応しようとしているのかを見つめ直したりしますよね。
今回は、CJMと同様に自身の現在地を把握するときにも使用できるブランド・カテゴライゼーションについて触れてみようと思います。

ブランド・カテゴライゼーションとは

ブランド・カテゴライゼーションとは、消費者が持っている情報や態度などによってブランドを分類しようとする枠組みです。『ベーシック・マーケティング』という書籍には以下のように記述されています。

1つの製品カテゴリーであっても、膨大な量の商品が存在する。消費者は情報探索によって得られた全ての選択肢を評価するわけではない。ましてや、世の中に存在する利用可能な選択肢の全てを評価することなど、多くの場合不可能である。そこで、ある製品カテゴリーに含まれるブランドの全体を消費者の認知、情報処理、態度などによっていくつかの下位集合へと分類することで整理しようという枠組みが提示された。それが、ブランド・カテゴライゼーションである。

『ベーシック・マーケティング』同文館出版

いくつか提唱されている枠組みの中でも、最も代表的な枠組みは以下のようになっています。

Brisoux and Larohe(1980)によるブランド・カテゴライゼーション

順に見ていきましょう。

知名集合と非知名集合

まず一番左の「入手可能集合」ですが、これはその製品カテゴリに存在する全てのブランドを指しています。そこから、認知されているかどうかで「知名集合」と「非知名集合」に分類されています。
炭酸飲料を例に挙げてみましょう。炭酸飲料を販売しているブランドは「中の人」が調べただけでも120以上存在します。これら120以上のブランドを全て指して入手可能集合といいます。そんな中で「コカ・コーラ」や「三ツ矢サイダー」「ファンタ」などはみなさんの知るところなので「知名集合」に分類されます。
調べていて初めて企業名を知ったうちのひとつが「ハタ鉱泉」です。ラムネ飲料を主力商品としている企業ですが、こうした「知らない(と思っている)ブランド」の集合を「非知名集合」といいます。
知名=認知(Awareness )にも2通りありますが、知名集合に含まれる認知(Awareness )を「中の人」は助成想起(Aided awareness)だと思っています。助成想起とは「〇〇って知ってますか?」と聞かれてYesと答えられるものを指します。「あ〜、そんなのもあったねぇ!」とか「聞いたことはある」というのも含まれるわけです。

処理集合と非処理集合

知名集合を掘り下げていくと、さらに「処理集合」と「非処理集合」に分けられるそうです。両者の違いは”判断に必要な情報を持っているかどうか”という点です。知っているものの中で関心があるものは自ずと情報を集めます。情報が集まれば、その情報を処理して判断材料に用いますので、突っ込んだ言い方をすれば”情報処理が行われているかどうか”ということですね。なので「処理集合」「非処理集合」と呼ぶわけです。
非処理集合に入るということは「知っているけど、どうでもいい」=関心を惹くことができていないということになります。
非処理集合の場合、広告宣伝等により、”イメージ”の普及をすることで処理集合へと移行させるのが最善手と言われています。恩藏直人氏の論文にブリヂストンの例が挙げられていたので引用してみます。

非処理集合に含まれるブランドは非常に漠然としたブランド名の認識以外にほとんど知られていない。そこで、広告費や販売促進費を増加させ、ブランドに対する「イメージ」を創り出すようなキャンペーンの企画が望まれる。かつて、ブリヂストンがヨーロッパ進出(当初はドイツ中心)をはじめた頃、タイヤといえばミシュランやコンチネンタルであった。ブリヂストンのタイヤは、ヨーロッパ人にとっては非処理集合に位置していた。仮にトヨタの乗用車に装備されていたとしても、ディーラーの段階で取り外されてしまったという。そこでブリヂストンは、「我が社は、世界で何番目で、このような会社です」「一度使ってくだされば、良さが分かってもらえます」といった一大キャンペーンを実施し、ヨーロッパに浸透することができた。非処理集合であったブランドが、「イメージ」創出に成功し、想起集合へと移っていった事例である。

恩藏直人(1995)
https://waseda.repo.nii.ac.jp/

想起集合と保留集合と拒否集合

最終段階で「想起集合」「保留集合」「拒否集合」に分けられます。
想起集合は「消費者が、所定の製品クラスにおいて認知しているブランドの集合のうち、購買を考えるような下位集合」だそうです。簡単に言い換えると、「好意を持って購入に積極的になれる選択肢」です。
さて、先に「認知(awareness)」には2種類あるといいました。そして、知名集合は「助成想起(Aided awareness)」とほぼ同義と捉えているともいいましたね。この想起集合はもう一方の認知のあり方、「純粋想起(Unaided awareness)」に呼応するものだと考えられます。純粋想起とは「〇〇といえば?」という質問で浮かんでくるブランドを指します。炭酸飲料の例で言えば「炭酸飲料と聞いて思い浮かぶブランドはなんですか?」と聞かれたときに思い浮かぶものですね。「中の人」ならコカ・コーラやジンジャエール(カナダドライ)です。この時、真っ先に浮かぶものを「第1想起(Top of Mind)」と言います。
想起集合は購入を検討するものの集合体なわけですから、想起集合に入れなければ買ってもらえることはありません。ちなみにですが、想起集合に入れるブランドの数は製品カテゴリによって多少の差異はあれど、平均して3つ程度だそうです。購入検討する商品はたったの3つなんですね。

「保留集合」については、一言で言うと”惜しい”商品の集合体です。知っていて、情報も持っているけど購入検討まで至らない。惜しいですね〜。要因としては、割高感のある価格設定、購入者が周りにいない、検討に必要な情報が不十分などがあるそうです。なので、価格設定の見直しやアーンド・メディアを活用したPRが有効的だそうです。

「拒否集合」は検討するに値しないと判断された商品の集合体です。拒否するということは、それなりに情報処理が行われていることを意味します。以前買ったけど品質が悪かった、悪い口コミばかり目立つなど情報を処理するたびに消費者の中での評価が下がっていた結果辿り着く先になります。もうこうなってしまっては拒否集合から抜け出すのは至難の業。ブランドを新しく組み立て直す方が良いとすら言われています。

余談 各集合のプロフィール

先に挙げた恩藏氏の論文にではブランドへのプラスの態度(好意度)・購入意図・処理される情報量という切り口で各集合のプロフィールが作成されていました。面白いなと思ったので共有しますね。

これは、わかりやすいように「中の人」が図式化したものです。プロフィールの解説はぜひ論文の方に目を通してみてください。下記URLからダウンロードして読むことができますよ。

AIDAモデルとブランド・カテゴライゼーション

ここで紹介したブランド・カテゴライゼーションの枠組みは、なんだか以前紹介したAIDAモデルと呼応しそうな気がしませんか?注意(Attention)を引くことで知名集合に入りやすくなり、関心(Interest)を引くことで処理集合に入りやすくなりますよね。欲求(Desire)が生まれたときに想起され、行動(Action)する際に購入候補に並びます。だからなんだという点ですが、冒頭述べた通り、自身の現在地を把握しどのフェーズの施策を行なっているのか確認するのに役立ちそうな気がしています。図にするとこんな感じですね。

AIDAモデルとブランド・カテゴライゼーション

AIDAモデルなどの消費者行動モデルについては下記の記事をご参照ください。

スキーマの活用

ここまででお分かりの通り、買ってもらうためには「想起集合」に入らなければなりません。そのために活用するのが”異質性”なのだそうですよ。順番に説明していきます。
消費者は商品間の差異を感じための一定の基準を持っているそうです。その基準を越えなければほとんど同じ商品として見做される。(同化効果)一方でその基準を越えた場合、実際よりも大きな差異として受け止められる(対比効果)そうなんです。
同化効果が生じた場合は類似点に目を向けやすくなり、対比効果が生じると相違点に着目しやすくなるのだそうです。この対比効果をより生かすのに登場するのが”スキーマ”です。

スキーマとは、日表的な行動や特定の事象に関する一連の知識を指し、刺激に対する予期としての機能も果たしている。

『ベーシック・マーケティング』同文館出版

簡単にいうと、これまでの経験から無意識的に形成されたイメージといったところでしょうか。例えば、ビールといえば黄金色で泡立つ飲み物。コーラといえばカラメル色に染まった炭酸の効いた飲み物。といった具合です。
消費者はこのスキーマを各商品カテゴリごとに持っていて、既存のスキーマと一致する商品に対しては注意も向けず、情報処理を行いません。逆に既存のスキーマからかけ離れた商品の場合も、当てはめようとしたスキーマが間違っていると判断されて情報処理をやめてしまうそうです。
そこで、既存のスキーマから少しずらした「適度な異質性」は消費者の注意を引き(知名集合に入りやすくなる)、既存スキーマとの関連付けを行おうと必死に情報処理をしようとする(処理集合に入りやすくなる)といったメリットを生み出します。
ブランド・カテゴライゼーションの枠組みはファネル構造になっており、図の右へと移行するたびに母数が減っていきます。言い換えれば、勝ち残りのトーナメント戦です。スキーマを活用した適度な異質性はトーナメント戦を勝ち進むためのシード権のような役割を果たすかもしれません。

まとめ

ブランド・カテゴライゼーションとは消費者の持つ情報や態度によってブランド(商品)をカテゴライズするフレームワークです。これを活用することにより、自社の立ち位置を把握し、どのような施策を行うのかを検討する材料を得ることができます。
想起集合(Evoked Set)に入れなければ購入を検討されることはありません。自社がブランド・カテゴライゼーションのどの集合に入っていてるかを確認することで、想起集合に入るための適切な戦略設計を行うことができます。
また、勝ち残りトーナメント状になっているブランド・カテゴライゼーションでの勝率を上げるためにはスキーマの活用が有効だと言われています。消費者が持っている商品カテゴリに対するイメージを少しだけずらすことで、知名度を上げ情報処理を促す効果があるとされています。

あとがき

今週も最後までお付き合いいただきありがとうございました。なんだかんだで今週も記事を書き上げてほっとしています。とか言いつつ、また想定文字数を越えてしまいました。(苦笑)
ブランド・カテゴライゼーションについて調べていて、いつもより興に乗ってしまったようです。ブランド・カテゴライゼーションの分析手法や、そこから算出できる戦略設計方法などもっと具体の話も、先に挙げた論文に記載されていたのですが文字数がとんでもなくなりそうなので書き留まりました。ぜひ参照元の論文を読んでみてください。

それではまた来週お会いしましょう。

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