獅子谷_Writer

ライター・エディターの獅子谷です。大学時代に書いた映画や美術展のコラムを中心に更新。映…

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ライター・エディターの獅子谷です。大学時代に書いた映画や美術展のコラムを中心に更新。映画はおすすめだったり愛を込めたdisだったり。ライティング・編集のご依頼もお受けしています。

最近の記事

賃貸運ゼロの私が伝えたい、入居前にチェックすべき5つのポイント

わくわく、どきどき、ストレスフル!な新生活新生活関連は一大産業だ。 あれを買えこれを買え、家電&家具おすすめ◯選……といった広告や記事が溢れかえる。選ぶ・決めることが多いと大抵の人間は疲れ、判断力も鈍ってくる。 そうした中でも後回しにできず、体力もお金も使うのが「部屋探し」だ。 「内見時の持ち物&チェックリスト」などはこの世に腐るほどあるので、ここではトラブルを避けるために最低限チェックした方がいいポイントを紹介する。 「そんなコト起きないだろ」「経験ないわw」みたいな方

    • マンガ実写化に大岩を投じる劇場版『ゴールデンカムイ』(2024)

      期待値最低から始まる実写実写映画化が発表されたとき、Twitter(当時)は阿鼻叫喚だった。 それまでに日本映画界が積み上げてきた実績も散々だった。 「実写化」が意味するのは、安いコスプレ衣装のテカリ、理由なく変更される性別や人格、なかったはずの色恋やドタバタには失笑すらもったいなく、疲れていった屍は山となった。 原作『ゴールデンカムイ』自体も、ハードルを上げていた。娯楽として消費されるはには重すぎるほど、巻末には綿密な取材と膨大な参考資料、文化と言語の監修が並ぶ慎重な作

      • 都落ちを儚むべからず

        都に生まれたる人の呟きけるに Xのとある投稿に対し、東京ご出身の方が「東京に勝手に夢を抱いて、勝手に失望されるの迷惑」と仰っていた。 さもありなん、という感想しか出ないのだが、この現象は都であればほぼ永久に起こる現象なのだろうというのが私の感想である。 「みやこと人」を日本史で見る かつて、日出処の天子はより発展した国・隋に使者を送った。隋が滅び、唐になっても変わらなかった。約300年、陸続きで世界中から技術とモノと知恵が入り込む都に、たくさんの海難犠牲者を出しながら使

        • 引退しながら作る、の意味:映画「君たちはどう生きるか」(2023)

          「宮崎駿の新作を観てくる」と伝えると、夫は「あぁ、タイトル何だっけ、『僕たちの生活』?」と言った。私は笑ったが、実際に映画を観終わって最初に思ったのは『僕たちの生活』というタイトルでも成り立つなぁ、だった。 公開から3日経ち、SNSのタイムラインは宮崎駿監督の最新作「君たちはどう生きるか」の話題でいっぱいだった。 ジブリ作品は好きだ。すべてとはいかないまでも、ほとんどの作品を楽しんできた。 大作を作り上げては引退宣言をし、度々引退撤回をしていた宮崎駿氏にも、勝手ながら人間臭

        賃貸運ゼロの私が伝えたい、入居前にチェックすべき5つのポイント

          ネバネバ食材を調べていたらアフリカ大陸に行き着いた話

          山芋、納豆、オクラ、モロヘイヤ、ツルムラサキ。蕎麦にばばーっとかけて、ダシを感じながらつるっと食べると喉越しもいい。夏じゃなくたって、いつでも食べたい。 でも、あんまりネバネバしたものを洋画で見ない気がする。洋画でネバネバと言えば、だいたい登場人物が浴びて「クソ!」とか言うスライム状の何か。 食べるとなったらそれなりに抵抗があったりするんだろうか。 モロヘイヤの里で育った まず、九州から上京してきた時に、スーパーにモロヘイヤが無くて困惑した。食卓に普通にあったモロヘイヤ。

          ネバネバ食材を調べていたらアフリカ大陸に行き着いた話

          悪役に共感させる脚本術:「クルエラ」(2021)

          人が持つ「恐怖」の解消 悪役には悪役になりうる相当な過去があってほしい、と思うのは、「理由が説明できないもの」や「不条理」を恐れる人間の本質に思える。 水害・地震・天災の類は神の怒りが原因だと考えることで信仰を深めたり、具体的な発生源を大蜘蛛や大なまずなどの影響だと説明することで不条理に納得しようとした。この辺りは民俗学の分野だ。 また、他の人と異なる行動をとる人物は「狐憑き」などと呼称することで条理を与えた。 似たような理由付けは旧約聖書のエピソードや各地の先住民の間に伝

          悪役に共感させる脚本術:「クルエラ」(2021)

          インドカレー屋さんとパキスタン:映画「バジュランギおじさんと、小さな迷子」(2019)

          インド映画に求めているものって何だろう。情熱的なダンスシーンや熱い友情物語、または派手なアクションか。 これまでに「きっと、うまくいく」や「PK」など、人気のインド映画はいくつか観てきた。どれにも共通するのは、インド映画らしい明るさとドタバタ、そして3時間近い上映時間。 インドの女性が受けている教育と格差については「マダム・イン・ニューヨーク」で描かれたが、さらにヒリヒリとしていて、国際情勢に疎い人にもわかりやすく宗教・政治・地理の問題を提示してくれた作品として、「バジュラ

          インドカレー屋さんとパキスタン:映画「バジュランギおじさんと、小さな迷子」(2019)

          今までとこれから:「国宝 東京国立博物館のすべて」(2022)

          会期、2ヶ月 この国宝展のために、どれだけの学芸員、博物館職員、文化庁職員、その他あらゆる関係者が心血を注いだのだろうと思うと、ちょっとめまいがする。 2022年の10月から12月の2ヶ月間、東京国立博物館の所蔵するすべての国宝89件と、関連資料あわせて延べ150件が展示される一大特別展が開かれた。 この2ヶ月間を、短い・長いのどちらに感じるだろう。 私は当初「えー、会期短いなぁ」と思っていた。しかも、出不精なもので友人から声をかけられて初めて行こうと思ったほど意識は低

          今までとこれから:「国宝 東京国立博物館のすべて」(2022)

          猫と観るキャッツ:映画「キャッツ」(2019)

          映画版を猫と鑑賞する 劇団四季が「CATS」を公演しているのは知っていたが、いまだに観に行けていない。 その点、劇場版の「キャッツ」は、映画のサブスクで鑑賞可能できて良い。 何より、家で愛猫と一緒に鑑賞できる。 薄三毛色の保護猫に、私はしゃけと名付けた。 元々は野良だったが、住環境などを勘案して保護されたという。映画を観ながら、君も集会に出てたのかい、と聞くと「にゃあん」と鳴いた。 ビニール袋のガサガサ音が大嫌いなので、もしかすると野生時代に鳥と喧嘩したか、捕まった思い

          猫と観るキャッツ:映画「キャッツ」(2019)

          人としての尊厳を保ったのは:映画「シャトーブリアンからの手紙」(2014)

          罪状はなんでもよかった。人数が揃えば。 1941年、フランスのシャトーブリアン郡ショワゼル収容所に収容されていた政治犯・共産党員らは、報復のための銃殺者のリストに入れられた。 しかし罪状はそこまで大きな問題ではなく、人数が足りなければ、「適当に」そのリストに加えられた。 収容所最年少の17歳のギィ・モケもこのリストに入れられた。 「17 歳の、占領反対のビラを撒いただけの少年が、恋も実らせないままに、銃殺される!」 と、もっともっと情緒的に、悲劇性を掻き立てて、ヒューマ

          人としての尊厳を保ったのは:映画「シャトーブリアンからの手紙」(2014)

          それでも彼らは十字架を愛す:映画「フューリー」(2014)

          ブラッド・ピット vs ナチス・ドイツ ナチスと戦うブラッド・ピットには、5年ぶりの再会となった。2009年、クエンティン・タランティーノ監督・脚本作品の『イングロリアス・バスターズ』で、ピットは第二次世界大戦中ナチスの占領下でプロパガンダ映画を上映していたフランスの劇場を大炎上させて終劇した。 彼はまたナチスに非常に強い憎悪を抱いている男を演じるが、デヴィット・エアーの本作には、『イングロリアス・バスターズ』のようなユーモアの要素はまったくもって存在しない。 舞台は1

          それでも彼らは十字架を愛す:映画「フューリー」(2014)

          キャメラとカメラ:映画「キャメラを止めるな」(2019・仏)

          「ナントカ・オブ・ザ・デッド」のアタリの方 2017年に日本で「カメラを止めるな!」が公開され、低予算作成・ゾンビ系映画の中では異様な人気を博した。 あのヒットは、公開当時の「映画の半券をお持ちの方は2回目半額!」のキャンペーンがかなり後押ししたように思う。私もまんまと釣られておかわり観賞した記憶がある。 ただ、フランス版は、映画ファンの中ではあまり評判が芳しくなかったため未鑑賞だった。結局、今日になって同居人が「カメ止め」すら観ていないと言うので、それならばせっかくだし

          キャメラとカメラ:映画「キャメラを止めるな」(2019・仏)

          平衡装置:映画「イコライザー」(2014)

          人は見かけで判断できない 予告もホームページも見ないまま観にきてみた。物騒なポスターだなぁと思いながら映画館に入る。 いざ始まってみると全然違うじゃない!ホームセンターで働く穏やかな男が、夜にはカフェで本を読んでいる。 あれ、ポスターは見間違いだったかな。 と思っていたらこの従業員の正体は、カフェで出会ったロシア人娼婦の女の子がマフィアにより苦しんでいるのを「どうにかできる」とんでもない人物だった。 実はこの男、デンゼル・ワシントン演じるマッコールは19秒で世の不正を完全

          平衡装置:映画「イコライザー」(2014)

          コレクションは黙って語る:映画「イヴ・サンローラン」(2014)

          当時、自分が恥ずかしくなって映画館を出た ライトが当たり、美しいモデルが新作を着て颯爽とランウェイを行く時、我々はどれだけの理解をもってそのファッションを眺めているだろうか。 世界的なファッションショーに行ったこともなければ、ショーウィンドウを眺めることすらおこがましい気がしてうつむき気味に表参道をやり過ごす私には、この作品によって自らのファッションに対する無知と気まずさを追体験させられた気がした。 しかし、本作はただ「きらびやかなファッションの世界」を描いたブランド自

          コレクションは黙って語る:映画「イヴ・サンローラン」(2014)

          向き合えないふたり:映画「私の、息子」(2014)

          巣立たない息子、子離れできない母 子供を轢き殺してしまった息子を、お金やコネを使って救おうとする母親を描いた作品である。 と言われると、言いようもない不快感が押し寄せてくるが、この映画はそういう物語だ。 しかし、単純に「気持ち悪い」「異常だ」と言い切ってしまうには、どこかで見た事があるような光景な気がして目を逸らせない。 映画は、母親・コルネリアの悪態から突然始まる。 息子・バルブの恋人に対する愚痴を語るさまを、ドキュメンタリー映画かのようなカメラワークで不安定に切り取る

          向き合えないふたり:映画「私の、息子」(2014)

          What a mess!:グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札

          食材が良くても料理の美味さは保証されない 画も話も綺麗な、おいしい題材であったことは確かだ。 モナコのレーニエ大公と結婚し、ハリウッド女優を引退したグレース・ケリー。公妃として、モナコがフランス領となる危機に直面した時の彼女の行動を題材としている。 ※ここから先はネタバレを含みます 美しい女優が公妃という立場で苦しい目に逢いながらも芯を強く持つその姿は、映画館の大スクリーンでどこまでも綺麗な画として成立し、最後の演説で「感動」のフィナーレとしてまとめられる。 題材と物

          What a mess!:グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札