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人としての尊厳を保ったのは:映画「シャトーブリアンからの手紙」(2014)

罪状はなんでもよかった。人数が揃えば。

1941年、フランスのシャトーブリアン郡ショワゼル収容所に収容されていた政治犯・共産党員らは、報復のための銃殺者のリストに入れられた。
しかし罪状はそこまで大きな問題ではなく、人数が足りなければ、「適当に」そのリストに加えられた。
収容所最年少の17歳のギィ・モケもこのリストに入れられた。

「17 歳の、占領反対のビラを撒いただけの少年が、恋も実らせないままに、銃殺される!」

と、もっともっと情緒的に、悲劇性を掻き立てて、ヒューマンドラマに仕立て上げられたはずである。
しかしながら、この映画では彼だけが主人公ではない。フォーカスされることはあれど、叙事的に、端的に描かれる。

本作は91分。無駄な装飾も無く描く。歴史的事実を俯瞰的に描くことで、多くの人が犠牲となった背景が垣間見える。

顔も見せないヒトラーの命令を電話で受け、リストを作らせ、銃殺する。すべてのステップで反対したがった人がいた。しかし、誰も抗えなかった。
それに対し、見せしめとして殺されるフランス人たちの足どりの確かさ。

ギィの名は、かつて有名になっている。2007年、当時のサルコジ大統領が全国の高校生全員に「ギィ・モケの別れの手紙」を朗読することを提案し、多くの反対を受け頓挫した。
歴史的背景を踏まえずに「若きレジスタンスの愛国者」としてギィを取り上げることへの反対が主だったという。

ウォルター・シュレンドルフの手腕

この描き方は、ドイツに生まれ17歳からフランスで学んだウォルター・シュレンドルフ監督の経歴と、『ブリキの太鼓(1979)』のカンヌ国際映画祭パルムドール受賞によって証明された「原作」の映画化能力によるものであろう。
エルンスト・ユンガーの記録「人質の問題について」や警察記録、作家ハインリヒ・ベルの小説をもとに映画化された本作。


2015年には、同監督による『パリよ、永遠に』(原題:DIPLOMACY, 原作:Diplomatie)が日本でも公開された。史実をもとに舞台化され話題になった、1944年のヒトラーによるパリ破壊命令と抵抗を描いている。再び第二次世界大戦のフランスとドイツを舞台に、そしてパリを愛するスウェーデン公使が描かれている。

ただ、2015年当時のメモには『シャトーブリアンからの手紙』の方が良かったと一言だけが残っていた。

2014年12月執筆・2023年4月編集


再掲に寄せて

2014年当時のコラムのラストは、翌年に公開される『パリよ、永遠に』への期待が高まる旨を書いて締めていた。
しかし、鑑賞記録を見返すと、どこがどう期待と違ったのか、自分のメモからは読み取れないが、あまり満足はいかなかったようだ。

書くときは書き、書かないときはとんでもなく筆不精になるのが私の悪い癖だが、何がどう期待と違ったのか、どうだったら良かったのか、そのあたりすら汲み取れない。
史実をベースに、原作が存在する作品を映画化する手腕を誉めているのだから、何か違う点で「こういう感じかぁ」と思ったのだろう。

さて、このnoteは大学卒業時に卒論がわりに提出したコラム集から一部を抜粋し、少し手直しして掲載している。そのストックが、今まさに底をついた。
さて、次のnoteは何を書こう。


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