「目に見えないけれど確かにそこにある」ものづくりとしての誇りを|三木理研工業株式会社 三木裕介さん
今回は、昨年11月の和歌山ものづくり文化祭2022に参加された三木理研工業株式会社 製造部次長 三木裕介さんのインタビューです。
(聞き手:和歌山ものづくり文化祭 事務局 西政也)
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―貴社は、Yシャツを形状記憶させるための薬剤やシックハウス症候群の原因物質を除外する薬剤などを製造していますよね。
目に見える商品ではないので、もの文のようなイベントに出展しても直接的な効果は薄いように思いますが・・・
どういった思いで出展を決めたのでしょうか?
確かに、出展することで直接お客さんが増える訳ではないです。
ただ、化学工業は地域の地場産業としてとても知名度が低いのが現状です。同じ地場産業にもかかわらず、我々も深くかかわっているニットなどの繊維関係の業種は知名度がある。
もともと江戸時代の紀州藩では綿花の栽培が盛んで、その関係で、衣服の生地作りや染料の製造も盛んでした。国内で黄色の染料を初めて作った人も和歌山の方です。染色といえば和歌山でした。
もの文を通じて地域に根差した化学のことを改めて世に周知することができるのではないかと思い、出展しました。
―私も和歌山=化学の街というイメージがあまりなかったのですが、今回あらためて調べました。生活の中でなくてはならないものだったり、和歌山の繊維業界などものづくりを裏で支える縁の下の力持ちだったりで、和歌山の化学ってすごいんだと知りました。
さまざまな業界を支えながら、お互いに切磋琢磨しあって技術力を高めてきたからこそ、今の化学があると思っています。
実は、和歌山市内の就労者のうち18%が化学業界に従事されています。しかし、地元企業ではよく聞く話ですが、採用活動の中で内定を出しても親御さんに大手と比較されて辞退されることがあるんです。知名度を上げることで、リクルート面でもプラスになればと。
―貴社ほど大きな規模の会社でもそんなことがあるんですね。
もの文の出展企業に中学生が取材するという企画もありましたが、これも「知ってもらいたい」という御社の意図に合う企画だったんではないですか?
そうですね。中学生に取材してもらうことで、彼らに知ってもらうという面でも非常にありがたかったです。取材の対応は、ある部署の入社1年目の女の子に対応を任せたのですが、自分でいろいろと考えてしっかりこなしてくれました。
―若手社員に任せたことで、モチベーション向上にもつながっているのですね?
そうですね。ワークショップでスライムづくりしようとアイデアを出したのも、入社1年目の女の子でした。今年のワークショップについても、去年とは違う新しいことを考えてくれています。
―とはいえ、出展にあたり会社としての意思決定を取ったり、他の社員さんの関心具合だったりは大変な部分もあったんではないですか?
会社の意思決定という面では、社外活動なども積極的に応援してくれるというもともと自由な社風があったので、特に問題はありませんでした。若い社員は興味を持ってくれる子はいましたが、年上の方々からは、社長の次男坊が変わったことやってるわぐらいに思われていたと思います。
しかし、わかやま新報さんをはじめイベントの告知や準備の様子がメディアに取り上げられたことで、社員の捉え方も変わりました。温かい言葉をかけてくれて、当日差し入れを持ってきてくれたり、遊びに来てくれたりと反響はありました。
―そもそもの話になりますが、出展されるきっかけは誰からの紹介だったんですか?
運営ディレクションをしていた辻岡君に誘われたのがきっかけです。もの文の出展に誘われる少し前にも、彼のアパレルブランドKAZEのローンチイベントを一緒に開催したり、これまでイベントではよく関わってきました。
少し話はそれますが、KAZEのイベントが伊太祁曽神社での開催だったこともあって、きちんとルーツを辿って調べることにしました。そしたら、万葉集の中に「あさもよし紀人羨し(よい麻の裳もある紀州の人は羨ましい)」と詠まれていることを知ったんですね。そんな大昔から和歌山は繊維産業が盛んだった。
それを知った時に、そんなルーツに立ち返って今の時代にアップデートして、繊維産業を盛り上げようという話で辻岡君と意気投合したんです。脈々と紡がれてきたそんな歴史を未来へつないでいくためにも、そのストーリーをみんなに知ってもらいたいなと。
―物事のルーツを知るのっておもしろいですよね。
そう!そういうことを知ってもらうと人間として豊かな気持ちになれると思うんです。仕事でも同じで、会社や産地・産業のルーツを知ることで、そういう豊かな気持ちというか、誇りを持って欲しいんです。
―昨年のもの文に話を戻しますが、参加していちばんよかったことはなんでしょうか?
社内で新しい取り組みを行うという面で共通言語ができたことです。
他の事業者さんとも交わることで、いろいろな発見がありましたし、イノベーションのきっかけにもなればいいと思っています。
―もの文で気づいたことや、今後挑戦したいことはありますか?
もの文を通じて、見せることの大切さを実感しました。会社のことをしっかりPRするためには見せ方って本当に大事。
見せ方を考えるということは、ただ表面的なことではなく、誰のためのものづくりかという点も改めて見つめ直すことになりますし、社員のエンゲージメント向上にもつながります。「目に見えないけれど確かにそこにある」という誇りを社員に持ってもらえる。
そういった点を今後も意識的に取り組んでいこうと思っています。
最後に、もの文を一言で言い表すと?
理想も込めてですが、「和歌山の英知の結集を見せる場所」ですかね。スライムなんか作ってて言うのもおかしいんですが(笑)。
いろいろな業界のルーツがあつまってきてますから、確かに素晴らしい取り組みですよね。
はい。私自身、消費者目線で本当におもしろい取り組みだなと思っています。回を追うごとに幅広い業界を背負った方々が集まって、より多くの英知が結集する場所になれたらと思っています。
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