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DeFi_#4:DeFiにおける新しい金融システムの事例2 - AMM(自動マーケットメーカー)

DeFiに関するイメージをつかめるように、 スマートコントラクト 群を用いたユニークな金融システムの事例を紹介します。前回の「DeFiにおける新しい金融システムの事例1 - レンディングプロトコル」に続き、「AMM(Automated Market Making、自動マーケットメーカー)」について解説します。


既存金融のマーケットメーカー取引とは

AMMの基本を理解するためにまず、中央集権型の取引所におけるマーケットメーカー取引について解説します。

CoincheckやbitFlyerのような中央集権型の取引所のビジネスモデルは、板取引もしくは販売所という形式を採用しています。これらの形式においては、取引主体もしくはマーケットメーカー(リクイディティープロバイダー)と呼ばれる主体が常時売り買い両方の気配(価格と上限個数)を示し、投資家の注文に約定を保証するという流動性提供の方法により、スムーズな取引が実現されています。

このような方式は、株式市場など金融市場においては一般的に採用されています。しかし、この方式は特定のマーケットメーカーがリスクを取って流動性を提供しているため、そのリスク分として スプレッド を乗せて気配価格の提示を行っていたり、価格が大幅に変動してリスクが大きくなったりした場合などには、流動性の提供を停止することもあります。

また、マーケットメイク方式以外にはオークション方式があります。これは投資家同士が市場内で直接売買するもので、機動的な取引が可能で、一物一価の法則 が働いて値決めがされるという特性があります。しかし、デメリットとしては、例えば買い手のみがいる場合など流動性が十分になく取引量が少ない場合は、値決めが行われなくなり最適な価格には落ち着きません。

このように既存金融のマーケットメイク取引などはブロックチェーン上では取引されていないことからオフチェーンと称しますが、オンチェーンで既存金融における取引所モデル(いわゆる板取引)を構築することは可能です。ただしその場合、全ての注文をオンチェーンに書き込む必要があり、ブロックチェーンの処理能力が十分にないと、注文が執行されるまでに時間を要します。また、注文を出したりキャンセルをしたりするたびにガス代が発生しコストがかかるという観点からも、オンチェーンで取引所モデルを実現するにはいくつかの課題があります。

AMMによりいつでも取引が可能

そのようなオンチェーンでの取引所には問題がある中で、AMMと呼ばれる、マーケットメーカーなど特定の主体に依存せずに流動性を常に保つことができる流動性プールという機能を用いて、ユーザーがいつでも取引が可能な仕組みが開発されており、DeFiではこのAMMが主流となっています。

この仕組みは流動性プールを構成するスマートコントラクトにトークンを提供することで、誰もが流動性を提供するマーケットメーカーになれる点が画期的です。流動性プールは二つ以上のトークンで構成されており、流動性提供を行いたいユーザーはスマートコントラクトに二つ以上のトークンを同時に預け入れることで流動性プールに供給します。また、トークンの交換をしたいユーザーはこの流動性プールのスマートコントラクトに片方のトークンを送ると、アルゴリズムにより決定されたレートで交換されて、もう一方のトークンが送られてきます。

AMMの流動性プールという仕組みは、オンチェーン上で特定のマーケットメーカーが流動性を提供しなくとも、アルゴリズムを通じた価格決定メカニズムによって最適な価格で取引ができるという点で、画期的な発明であると言えます。

AMMの例:Uniswap

AMMの一つにUniswap(ユニスワップ)があります。UniswapはEthereum(イーサリアム)などで動く DEX で、取引所に資産を預けずに様々なトークンの売買が可能です。KYCを始めとする本人確認手続きは不要であり、顔写真や住所などの個人情報を提出する義務もありません。

Uniswapにはアルゴリズムに組み込まれたシンプルな数式(x * y = k)があり、刻々と変化するプール在庫量に従い、価格が数式に沿って決定されます。例えば、暗号資産Aと暗号資産Bのプールがあり、取引前P1の時点では、暗号資産AはA1=10、暗号資産BはB1=500でプールは構成されています。この時、式に当てはめるとK=10×50=5,000となります。

次にユーザーが暗号資産A1単位を、暗号資産Bと交換するとします。この時、手数料が0.3%であると仮定すると、手数料は1×0.03%=0.003となります。よって、プールには手数料を差し引いた数量が増加するため、プールにおける暗号資産Aの数量はA2:10+1-0.003=10.997となります。

暗号資産Bの数量は数式から導き出せるので計算すると、B2:5,000÷10.997=454.67となります(プールはK=10.997×454.67=5,000)。上記からユーザーが受け取る暗号資産Bは500-454.67=45.33となります。

AMMのリスク

ただし、AMMという仕組みにもデメリットはあり、流動性提供者は流動性提供をする場合は、インパーマネントロス(impermanent loss (IL))というリスクを許容しなければいけません。これは流動性提供をしているアセットペアの間に価格変動が発生すると、流動性を提供した時よりも流動性プールに預け入れているアセットが少なくなり、損失が出るというものです。

インパーマネントロスとは、DeFiプロトコルに流動性を提供した場合と、流動性を提供せずに資産をホールドした場合を比較した際に発生する損失で、流動性を提供した通貨ペアに価格変動が発生すると必ず発生する損失です(資産が値上がりしても値下がりしても、どちらでも損失となります)。

価格の変動率に対するインパーマネントロスは以下のようになります。

・1.25倍の価格変動 = 0.6%の損失
・1.50倍の価格変動 = 2.0%の損失
・1.75倍の価格変動 = 3.8%の損失
・2倍の価格変動 = 5.7%の損失
・3倍の価格変動 = 13.4%の損失
・4倍の価格変動 = 20.0%の損失
・5倍の価格変動 = 25.5%の損失

より具体的には、インパーマネントロスは価格変動率がrの時、

インパーマネントロス=(2√r÷1+r)-1

で与えられます。

特定の主体に依存することなく、誰でもマーケットメーカーになることができ、いつでも交換がオンチェーンで執行されるAMMは既存金融にはなかった画期的な仕組みではありますが、2023年7月現在では、インパーマネントロスなどの課題もあります。課題解決に向けたプロダクトの提案はされていますが、現状では決定的な解決策は提示されていません。

第2回、3回、4回と具体的な内容を解説してきましたが、第5回ではこれら様々なDeFiプロダクトの思想的背景について解説します。


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