【小説】毟り

 小説投稿サイト『破滅派』に短編小説を投稿しました。
 https://hametuha.com/novel/86216/

題名:「毟り」

あらすじ

 虫に似ている「何か」の巣を、主人公「俺」が訪れる。「何か」たちは、「俺」を餌だと思い込み、調理しようとする。

執筆年

2020

冒頭

 虫以下のなりをしている虫どもめ、虫より少しは上にいるつもりでいる連中が、馬鹿にしながらそばを通り過ぎるたびに、何かキュウキュウ音を立てて存在を誇示しているように思えるのだが、どうも意味がわからない音ばかりである――俺に聞こえるように、わざと大きい音を立てているらしいことは分かるのだが、しかしあの、虫よりも立派ななりをしているつもりでいる連中が通り過ぎるときだけ音を立てるということは、やはり、俺ではなく、あの連中に対して何かを言おうとしているのかもしれない。虫以下にしか見えない虫、虫以上に見えているつもりでいる連中、そして俺――それぞれに何かを抱えながら生きているのである。
 だから周囲に気を使いながら、さほど馬鹿に見えない者に対しては、さほど馬鹿にしすぎることもなく接していかなければならないなあ、と俺が思いを新たにするたびに、邪魔するかのように、立てられるのだ、音たちが、キュウキュウと。俺のそばにいる虫たちのそばを、何者かが、虫たちを馬鹿にしながら通り過ぎるときにだけ、立てられるのだ、耳障りな、何かを伝えようとする音たちが、キュウキュウと。俺が聴きたくない時に限って聞こえてくるということは、虫たちは俺を意識しているはずだし、「連中」たちも俺を意識しているはずである。いつかは向き合わなければならないようだ、あの虫、そして「連中」と。
 俺は「連中」の巣を訪れることにした。不意に、訪れることにした。
 巣に近づけば近づくほど、連中の雰囲気が、強く強くなっていくかのようである。ああ、連中がいるのだな、「俺は虫よりは上にいるぞ」という思いを、奴らは今、たった今、またしても新たにしているのだな――そんな風に思わせるに足る雰囲気が、巣の周囲には漂っていた。
 俺はノックした。
 虫のような形をした何かが、扉を開けた。じろりと俺を見ると、目をぐるりと回し、ぺろりと舌なめずりした。じろり、ぐるり、ぺろり――動作にいちいち「り」をつけるのが好きらしい。
 「あなたは、餌ですか?」涎を垂らしながら、虫としか思えない風貌の何かが、俺に尋ねた。
 虫としか思えない風貌のくせに、俺を餌などと間違えるとはおこがましい。俺は腹が立った。
 しかし怒りをこらえた。「いや、今日はあなた方に向き合いに来たのです」
 「ひゃあ、餌が喋ったぞ」虫のような何かが驚いたような声を上げた。
 奥から、ぞろりぞろりと「連中」たちがやって来た。[…]


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