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手の温度

母の手はいつも冷たかった。

幼い頃、一緒に寝ていた温かい布団の中、月明かりに照らされた砂漠のように冷たいままの手。
何故か不安で、熱くじっとりとした私の手で、温めようと必死に握りしめていた。
でも、かさかさでひんやりとした母の手。

当時の私は知らななかった。
フルタイムで働くことの辛さ。
水仕事でこんなにも手が荒れること。
グレーゾーンの2児の子らをほぼワンオペで育てることの地獄。
手の冷たさは母の苦労の証だと、今なら少しだけ分かる。

その苦労を隠すかのように、いつも真っ赤なネイルで華やかに彩られていた母の手。
強がりな人だ。
全てを抱えてしんどかっただろうに。
私たちに弱音を吐いたり頼ったりはしなかった。
精神的に不安定ながらも一生懸命私たちを育てあげてくれた。
いつか、もう一度、貴女の冷たくてしわしわの手を包み込み、「ありがとう」と伝えられたら。

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